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目次
メンタルヘルス・ファーストエイドとは
メンタルヘルス・ファーストエイドとは、メンタルヘルス(精神の健康)に関する問題を抱えた人に対して、専門家による適切な支援が提供されるまでの間に提供する初期支援です。
多くの場合、問題を抱えた人と社会的な繋がりを持つ人や対人サービスを提供する人など、専門家ではない人が研修を受講することで提供者となります。
目的
メンタルヘルス問題は身近な問題でありながら偏見によって支援が受け入れられない傾向があり、地域全体の理解と意義の向上が重要です。また、メンタルヘルスの問題を抱えている当人は自分に支援が必要なことに気づかない・理解できない場合があります。そのため、周りの人がそのことに気づいて支援する必要があります。より多くの人が研修を受けて支援の提供者となり、適切な支援が行き届くようになるのが目的と言えます。
目標
メンタルヘルス・ファーストエイドの目標は以下の通りです。
・自傷他害のおそれがある人の生命を守ること
・メンタルヘルスの問題が更に悪化するのを防ぐ支援をすること
・健全なメンタルヘルスの回復を促進すること
・精神疾患を患う人が安心できるようにすること
メンタルヘルス・ファーストエイド・ジャパン
メンタルヘルス・ファーストエイドは元々オーストラリアのメルボルン大学のA・ジューム、B・キッチナー夫妻によって開発されました。キッチナー夫人がかつてうつ病を患った時の患者としての経験が開発の原動力となったようです。
メンタルヘルス・ファーストエイド・ジャパンは精神科医の有志が作ったチームで、オーストラリアで研修を受講し、日本の現状に合わせた修正を加えた日本版メンタルヘルス・ファーストエイドを作成しました。
メンタルヘルス・ファーストエイドの基本ステップ
メンタルヘルス・ファーストエイドは5つの基本ステップで構成されています。
ステップごとに解説していきます。
「り」リスク評価
まず、その人に声をかけ、危機的状況に注意を払い、問題に対処できるように支援します。
心配である旨を伝え、双方が落ち着ける場所や時間を設けるなど、次のステップへの準備を行います。
なお、注意するべき危機的状況とは自傷他害のリスクやパニック発作、重度の精神病状態を指します。
「は」はなしを聞く
強いストレスにさらされている人がまず必要とするのは共感的に話を聞いてもらうことです。
助けとなる選択肢や情報を提示する前に相手の話を傾聴する必要があります。この際、決めつけたり批判したりするのは厳禁です。
「あ」あんしんに繋がるものの提供
傾聴によって十分に話を聞いてもらえた人には、支援や情報提供の申し出が受け入れやすくなります。現在困っていることに対する支援と共に、メンタルヘルスの問題は弱さや怠けではなく医学的な問題であり、治癒の可能性があることを伝えます。
「さ」専門家のサポートを勧める
安心を与えることができたのであれば、医療機関や保健所、精神保健福祉センターなど、本人に合っていると思われる専門家につながる具体的な道筋を勧めていきます。
人によっては受診に抵抗感を持つ可能性があるため、心の不調は肉体の不調に繋がるなど切り口を変えて和らげることを試みましょう。
「る」セルフヘルプとその他のサポートを勧める
サポートを得られる道筋をつけられたのであれば、家族・友人など本人に忌避感の無い相手に支援を求めることを勧め、その人自身が回復に向けて取り組めるようなこと(適度な運動など)を勧めます。
最も重要なステップ
5つの内最も重要なのが「は」の傾聴対応です。
話を聞いてもらえる、受け止めてもらえるという安心感は更なる話しやすさに繋がり、そこで得た情報がリスク評価や必要な支援の特定などに繋がります。
一方、安心感が無い状態で行われた助言や支援の紹介は、相手の心の準備が整わないために拒絶され、役に立たない場合があります。
傾聴は簡単そうに聞こえますが実際には技術が必要なため、研修でポイントを押さえる練習が必要です。
心の不調(イエローサイン)
心の不調はそのことを示すサイン(イエローサイン)として表出する場合があります。周囲の人のイエローサインを把握することはメンタルヘルス・ファーストエイドの基本です。
ただし、サインが表出しない人もいることに留意が必要です。
サイン例
・疲れている。辛そうな表情
・ミスや失敗が増えた。集中できていない。
・遅刻が増えた。あくびばかりしている。眠れていない。
・食欲がない。痩せた。
・イライラしている。小言が増えた。
・人づきあいが減った。会話が少なくなった。
・周囲の手助け・サポートを求めなくなった。
・趣味や好きなことをしなくなった。いつも楽しくなさそう。
・不自然なほど明るく振る舞うようになった。
対応
こちらから声をかけ、相手のことを心配している旨を直接伝えます。読み取ったサインに言及するのが切り口となります。
相手が話してくれる様子であれば、困っていることの力になりたい旨を直接伝えることがメンタルヘルス・ファーストエイドの第一歩です。
うつ病へのファーストエイド
うつ病はいまや珍しくない病気であるためファーストエイドが必要とされることも多いと予想されますが、支援が必要な当事者やその家族がそれを受けたがらない傾向があります。
偏見
一生薬漬けになる、鉄格子に閉じ込められる、自己管理が足りないなど、誤解や思い込み(偏見、スティグマ)に基づいたイメージがメンタルヘルス問題やそれに用いられる薬に広がっていることが原因です。
対応
根本的には正しい情報を発信して誤ったイメージを払拭していく他ありませんが、既に広まったものを塗り替えるには時間がかかるため、現状では支援対象やその家族に偏見があるかもしれないことを念頭に支援を開始する必要があります。
自殺行動へのファーストエイド
自殺には複数の要因が関連しますが、うつ病はその中でも大きな要因です。「り」のリスク評価の際には重要な要因ですが、直接自殺について尋ねるのは容易ではないため、聞き方を考える必要があります。
情報として必要なのは自殺を考えているか、具体的な計画を立てているかです。
注意点
・むやみに身体接触をしない
・絶対にひとりにしない(自殺のりスクが高い、もしくは直近の危機的状況が過ぎるまで は必ず誰かがそばにいること)
・救急に助けを求める(怪我をしていれば119番、自殺企図が切迫していれば110番する。 救急外来へ連れていく。精神科、神経科、心療内科へ連れていく)
・アルコールや違法薬物を使っているようならやめるよう話す
対応
基本ステップに則った対応を行います。
「あ」もし相手の話からうつ病かもしれないと感じたら、適切なサポートを受けられれば良くなる等、安心につながる情報を提供します。
「さ」専門家のサポートが必要か、求めているかを尋ねます。産業医など利用できる選択肢を検討し、支援を受けるための手助けを提案しましょう。
「る」身近な人の支援を受けられないか尋ね、適度な運動など回復促進に取り組めること勧めます。
まとめ
メンタルヘルス・ファーストエイドは専門家でない人がメンタルヘルスの問題を抱えた人に行える初期の支援であり、一人でも多くの人が提供者となることが適切な支援をより多くの人に届けることに繋がります。
相手の様子を見てよく話しを聞き、注意点を踏まえた上で偏見があるかもしれないことを前提に支援を行うなど留意点は多く、そうした人を助けるためには研修を受けて技術を身に着けることが必要です。
参考文献
「専門家に相談する前のメンタルヘルス・ファーストエイド」(創元社)
メンタルヘルス・ファーストエイド こころの応急処置マニュアルとその活用(創元社)
厚生労働省HP:https://www.mhlw.go.jp/kokoro/