抑うつは、「よくうつ」と読みます。抑うつ気分とは、気分が落ち込んで何もしたくない状態です。
たとえば、憂うつで気分が落ち込んでふさぎ込む、なんだかむなしくてもの悲しい悲哀感に包まれるような状態が抑うつ気分です。
今回は、抑うつ気分とうつ病との関係、そして抑うつ気分の解消法について説明します。
目次
「うつ」と「抑うつ」の違いは?
「うつ」も「抑うつ」も意味としては同じです。
抑制の「抑」がついているから、抑うつは、うつが改善された状態?と思っている人もいるかもしれませんが、同じ状態をさします。「うつ」を改善するという意味の言葉は、「抗うつ」です。
うつに関連した精神症状に「躁うつ症」というのがあり、これとの混同を避けるために、専門的には抑うつという言葉を採用しているのです。
「うつ」とは?
憂うつで気分が落ち込む、すべてがむなしく思えて、何となく悲しくなる、などという気分は、多くの人が経験しているはずです。ところが、これが長期化し、思考や意欲といった精神機能までが低下した状態を抑うつ状態といっています。
憂うつで無気力で、何をしても楽しく思えない状態、これが抑うつ状態です。一日中、こうした状態が2週間も続くと、うつ病の可能性が考えられます。
うつ病は、精神的ストレスや身体的ストレスが重なることなどが原因で起こりますが、専門的には脳に機能障害が起きている状態です。
脳がうまく働かないので、考えることが出来なくなったり、ものの見方が否定的になったり、あるいは自分を責める自責念慮とよばれるような症状もでてきます。
うつ病の種類
誰でもなる可能性がある抑うつ気分が、長期化して抑うつ状態になり、脳が機能障害の状態にあるのがうつ病です。
うつ病にはたくさんの種類がありますが、一般的には、抑うつ状態だけが出るうつ病と抑うつ状態に「躁」の状態がでる双極性障害に分けられています。
以下、主なうつ病について簡単にまとめてみます。
■ 大うつ病
基本的なうつ病のことです。大がついているから重症なうつ病という意味ではありません。
大うつ病には診断の基準があり、下記の項目のうち5つ以上の症状が認められ、2週間以上持続しているとうつ病と診断されます。
② 何をしても楽しく感じられない(興味、喜びの著しい減退)
③ 体重や食欲の増加か減退
④ 不眠または過眠
⑤ 身体の動きが遅くなり、口数が少なくなる(精神運動焦燥または制止)
⑥ 疲れやすく気力も減退
⑦ 生きている張り合いが感じられなくなり、自分はダメだと責めたてる(無価値観、または過剰か不適切な罪責感)
⑧ 思考力と集中力減退、決断困難
⑨ 死んだら楽になるかと考えてしまう(死についての反復思考)
■ 躁うつ病(双極性障害)
うつ状態と躁状態が交互に繰り返して現れてくる病気です。躁状態とは、異様に気分が高揚した状態で、精力的に動き回り、アイデアが次々と浮かんで頭の回転が速くなった、という思いに包まれます。
金遣いや人との接触も超積極的になり、深夜に電話してきたりします。一言でいえば、心身ともにエネルギーに満ち溢れているように見える状態です。
このように両極端の症状が繰り返しあらわれ、それを行ったり来たりするのが躁うつ病です。躁とうつの症状が現れる間隔は数ヶ月だったり数年だったりいろいろです。
躁状態から突然うつ状態へと切り替わることもあります。「躁うつ病」という病名から、うつ病の一種かと誤解されやすいのですが、うつ病と躁うつ病は、全く異なる病気で、治療法も異なります。
注意すべきことは、実は躁うつ病なのに、躁が経度のため、うつ病と思い込んでいる人がいることです。うつ状態しか経験したことがないと思っていても、実はごく軽い躁状態を何度も経験していた、ということもあるのです。この場合も躁うつ病に含まれます。
ですから、自分で決めつけないで専門医に相談されることをおすすめします。なお、一般的に、躁状態の期間よりもうつ状態の期間のほうが長く続く傾向があります。
■ 気分変調性障害
1日中、疲れと抑うつを感じる状態ですが、子どもや青年で1年以上、成人で2年くらい続きます。食欲の減退または増加、不眠または過眠などの症状のほか、疲れやすく集中力、思考力、判断力なども低下してきます。
また、自信の喪失などから絶望に襲われることもあります。さらに、不機嫌になり、自分の現状に不満を感じ、それを他人のせいにする傾向がみられます。
うつ病とよく似た症状ですが、「常時落ち込んでいる」という点と、抑うつ状態がうつ病より、軽症で、より長い経過をたどる点でうつ病と区別されています。
■ 非定型うつ病
うつ病の主たる症状は、気分の落ち込み、意欲や食欲・集中力の低下、不眠などですが、新型うつ病ともよばれる非定型型うつ病は、何か楽しいことや望ましいことがあるとガラリと気分が変わります。
うつ病は何があっても元気が出ないのに対して、非定型うつ病では、出来事に過敏に反応して気分が明るくなります。しかし、明るく気分が晴れ渡っても、またどんよりとした暗い天気に様変わりします。お天気うつ病ともいわれるゆえんです。
最近になって注目されるようになったもので、20代~30代の女性のうつ病の8割は、非定型型うつ病だと言われています。
参考までに、非定型うつ病の主な症状をあげてみました。先に挙げた大うつ病の症状と比較するその違いがはっきりとわかります。
② 興味と喜びの喪失はあまり認められない。
③ 食欲の不振や不眠よりも食欲増進、過眠になりがち。
④ 疲労感倦怠感が強い
⑤ 疲れやすく気力も減退
⑥ 無価値観や罪責感は希薄
⑦ 恐怖感不安感が強い
⑧ 夕方に憎悪しやすい(うつ病は朝に憎悪しやすい)
⑨ 周囲の言動に過敏に反応しやすい。
■ 仮面うつ病
仮面をかぶったうつ病と言う意味ではなく、他の身体的な症状という仮面によって、うつ病本来の症状が見えにくくなっているうつ病です。
つまり、心臓がキリキリ痛むという身体的症状(仮面)があるため、てっきり仮面の方の病気だと思い込んでいる状態。しかし、いくら治療しても一向に改善しません。
そうした試行錯誤の果てに精密検査をしたら、実はうつ病だったということになります。ちなみに、身体症状としては、疲労感(倦怠感)、睡眠障害、食欲減退、頭痛、肩こり、便秘、下痢、心悸亢進、胸部圧迫感、呼吸困難、頻尿、性欲減退、月経不順、めまい、視覚異常、聴覚異常、ほてりなどがみられます。
いずれにしろ、仮面うつ病の本質は「うつ病」ですから、仮面を捨てて、一日も早くうつ病の治療をスタートさせることが肝心です。
「抑うつ状態」とは?
抑うつ気分と抑うつ状態は、同じような症状として語られる場合もありますが、抑うつ気分の中から思考や意欲という精神機能まで低下した状態を抑うつ状態と区別する専門医もいます。
ここでは、「抑うつ気分」がマイナス方向にこうじた状態を「抑うつ状態」という風に定義して話を続けていきます。抑うつ状態とは、<大うつ病>の項で掲げた9つの項目を主たる症状とした状態で、病気ではありません。
うつ病は病名、抑うつ気分は症状のひとつ
気分がすぐれない、憂うつだ、妙にもの悲しいという気分になったからといって、うつ病なのかと思い込むのは、早とちりというものです。
日常生活で発生する様々なトラブルやアクシデントなどによるストレスで軽い抑うつ気分になることは、誰にでもあることです。そのような抑うつ気分は、心の自然な反応であり、必ずしも病気に結びつくわけではありません。
時間がたったり、問題が解決したりすることで解消されることはままあることです。それに、身体的な不調からくるものかもしれませんし、他の精神疾患などが原因とも考えられます。
抑うつ気分は何らかの症状にすぎず、病気ではありません。ところが、さきの<大うつ病>の項で掲げた9つの項目のうち5つ以上が該当し、この状態が長く続くようであれば、そこで初めて、うつ病の可能性を疑った方がいい、ということになります。
抑うつ気分解消方法は?
体内で重要な役割を果たしている三大神経伝達物質の一つにセロトニンがあります。
セロトニンは人間の精神面に大きな影響与え、心身の安定や心の安らぎなどにも関与することがわかっています。幸せホルモンなどと呼ばれるゆえんです。
そこで、現代人に不足しがちなセロトニンを増やし、活性化させるために役立つ運動や行動を紹介します。
■ 運動をする
無酸素運動よりも長くゆるめの有酸素運動の方が効果的です。有酸素運動とは、酸素を多く取り入れ、その取り入れた酸素で体内の脂肪を燃焼させるものための運動をさします。
エアロビクス、エアロバイク、ウォーキング、ゆっくりした水泳などは有酸素運動です。無酸素運動とは、基礎代謝を増やす運動で、筋力トレーニング、短距離走などをさします。
■ 陽の光を浴びる
精神の安定につながる神経伝達物質のセロトニンは、脳の覚醒を促し、これと相対する性質のメラトニンは睡眠を促す作用があります。太陽の光を浴びると、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌がストップして、脳の覚醒を促すセロトニンの分泌が活発化します。
実際、日光が出る時間が減る冬場は、うつな気分になる人が多いのは、セロトニンの分泌が少なくなるからだと言われています。
■ きちんと寝るなど規則正しい生活をする
昔から、健康の基本は、早寝早起きを心がけることだとされています。早く起きれば、それだけ太陽の光を浴びる時間が長くなり、セロトニンの恩恵をより多く受けるわけですから、これは科学的な道理にかなっています。
また、しっかりと睡眠をとれば、疲労も回復します。加えて、早寝早起きをすると、必然的に規則正しい生活が導かれます。
生活のリズムを正すと、抑うつ気分を解消する効果があるのです。
■ リラックスできることをする
うつ病では、何よりも休養することが求められます。リラックスして、ゆっくり休むというのは、抑うつ気分の解消に効果的です。
そのために、音楽、香り、ハーブなどを利用することもお勧めです。ただし、ハーブは薬の飲み合わせで副作用があったりするケースもあります。
このほか、入浴は自律神経を整え、リラックス効果があるばかりではなく、快適な睡眠を促してくれる効果もあります。だいたいリラックス温度は40度以下と言われています。ぬるま湯で手足を伸ばし、ゆったりとお湯につかるようにしましょう。
■ ストレス発散、気晴らし
気のおけない友だちと居酒屋や女子会などで、愚痴をこぼし合って、ストレスを解消することは、多くの人が実行しているストレス解消法です。
カラオケでマイクを握って、シャウトしたりすると、ああ、すっきりした、という気分になって気持ちがほぐれてくることも、多くの人が経験で知っていることです。
落ち込んだ気分のときは、こうした気晴らしは何よりの薬です。適度なお酒も、百薬の長となります。
医療機関での治療も
このように、抑うつ気分と言うのは、その気になれば解消できるものです。まず、ここまで説明してきた方法で、気分退治に挑戦してみてください。
しかし、抑うつ気分が長く続き、その気力さえも萎えてきたということになれば、抑うつ病の一歩手前の抑うつ状態の疑いもあります。そうした場合は、医療機関に相談し、適切なアドバイスをうけ、場合によっては治療に取り組むことを考えてください。