高齢化社会に暗い影を落としているのが認知症です。厚生労働省の推計によると、2012年現在、65歳以上の認知症患者は462万人ですが、2025年には700万人になると推計されています。65歳以上の高齢者のうち5人に1人が認知症になる計算です。
そこで、今回は認知症の遠因を避け、認知症を予防する健康な暮らし方について考えてみました。
目次
認知症の原因は多種多様
一口に認知症と言っても、その原因によって様々なタイプがあります。まず、どんなタイプがあるか、見てみましょう。
さまざまなタイプの認知症がある
認知症と聞いて多くの人が思い浮かべるのが、アルツハイマー型認知症でしょう。確かにアルツハイマー型は、認知症の中では一番多いのですが、そのほかにも原因の異なる様々なタイプの認知症があります。
病名 | 症状 |
---|---|
アルツハイマー型認知症 | 一番多いとされる認知症。女性の発症が多い。 |
レビー小体型認知症 | アルツハイマー型に次いで多い認知症。男性は女性の約2倍で、幻覚や幻視が見られることが特徴。 |
脳血管性認知症 | アルツハイマー型に次いで多い認知症。脳梗塞や脳出血、くも膜下出血などの、脳の血管の病気に起因する。 |
前頭側頭型認知症 | 頭の前にある前頭葉と横にある側頭葉の委縮によって起る。万引きなどの非社会的行為が見られることが特徴。 |
アルコール性認知症 | アルコールを多量摂取し続けた結果脳梗塞などの脳血管障害などを起こし発症する。 |
正常圧水頭症(NPH) | 脳脊髄液が異常に頭に溜まり障害を起こす、脳圧の上がりにくい水頭症。 |
若年性認知症 | 64歳以下の人が発症する様々な認知症の総称。 |
慢性硬膜下血腫 | 頭を強く打ったりした結果、頭蓋骨と脳の間に血腫が生じて、血腫が脳を圧迫して起こる発症する。 |
原因はわかるもの、わからないものがある
様々な認知症のなかで、もっとも多いアルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症は、原因が分からない認知症です。これらは、変性疾患とよばれ、脳の神経細胞の数が徐々に減少する病気ですが、なぜ減少するのか、完全に解明されていません。
ということは、根本的な治療法は現在のところ、ないということです。ただし、薬によって進行を遅らせることは可能です。アルツハイマー型やレビー小体型についで多い脳血管性認知症は、原因がわかっている認知症です。
参考までに、原因がわかるものとわからないものを表にまとめてみました。
原因が分からないもの | 原因が分かるもの |
---|---|
アルツハイマー型認知症 | 脳血管性認知症 |
レビー小体病 | 頭部外傷性認知症 |
ピック病 | アルコール性認知症 |
前頭側頭型認知症 | 正常圧水頭症 |
パーキンソン病 |
原因がわかるもの
若年性認知症の4割を占める脳血管性認知症は、原因がわかっている認知症です。脳血管性認知症は、脳梗塞、脳出血など脳の血管に異常が起きた結果、認知症になるものです。つまり、脳血管疾患の後遺症です。
脳血管性認知症の場合の原因となるのは、ほとんどが生活習慣病といわれています。そのほかにもアルコール依存や頭部外傷の後遺症による認知症も原因がわかっています。
一部の原因の認知症は治せる
認知症は不治の病と思われがちですが、原因がわかっているものは、理論的にはその原因を除去すれば治ります。もっとも原因が分かっていても手術が難しいというものはありますが、原因を除去することで治癒可能です。
たとえば、慢性硬膜下血腫は、頭を強く打った後で、頭蓋骨と脳の間に血腫(血のかたまり)が生じて、血腫が脳を圧迫して起こりますが、血腫吸引手術で症状が改善します。
正常圧水頭症は、脳脊髄液が脳室にたまり、脳室が拡大して周囲の脳が圧迫されて起こりますが、髄液シャント手術で症状は改善します。
認知症の「遠因」を避ける
残念なことに、現在、認知症の直接的な対処法はありません。しかし、認知症の間接的な原因、つまり「遠因」を避けるための対策はわかってきています。
この遠因を避けて、日ごろからその予防につながるような生活を送っている人は、認知症になりにくい人といえるでしょう。
認知症の遠因を避ける
認知症の遠因を避ける方法は、脳と体に悪影響を及ぼすような生活を避けることです。具体的には、規則正しい生活や適切な食生活などで生活習慣病にならないことが、予防の第1歩です。
生活習慣病を避ける
認知症のかなりの割合を占めている脳血管性認知症は、生活習慣病と深いかかわりがあります。認知症の遠因の一つである生活習慣病を予防するためには、規則正しい食生活をし、暴飲暴食を避けることです。
認知症になりにくいMIND食
2015年、アメリカのラッシュ大学医療センターは、アルツハイマー病の予防に効果的な「MIND食」という食事法を提案しています。論文によれば、58歳~98歳の923人を対象に、4年半かけて144の食品について前年の摂取量のデータを取り、アルツハイマー型認知症の予防効果を調べ結果、アルツハイマーのリスクが54%減少したそうです。
MIND食とは、穀物、ナッツ、オリーブオイル、野菜などを中心に摂る食事法「地中海式食事法」と肉やコレステロールの多い食品を避け、カリウム、食物繊維をたくさん摂る食事法「DASH食」を組み合わせた食事療法のことです。この食事法が、そのまま日本人の食生活にできるかどうか、一考の余地がありそうですが、参考になるのではないでしょうか。
MIND食のメニュー
MIND食では、食品を厳密にリストアップしています。具体的には、表に示すように積極的に摂るものと制限するものに分けています。
積極的にとるべき食品 | 制限する食品 |
---|---|
全粒の穀物 1日3回 | 鳥肉以外の肉 週4日以下 |
グリーンサラダ 1日1回 | バター 1日に大さじ1杯未満 |
ナッツ ほぼ毎日 | チーズ 1週間に1回以下 |
豆類 2日に1回 | 揚げ物 1週間に1回以下 |
鶏肉 1週間に2回 | ファストフード 1週間に1回以下 |
ベリー類 1週間に2回 | |
ベリー類 1週間に2回 | |
ワイン グラス1杯 |
正しい食べ方
何を食べるかも重要ですが、どう食べるかも重要です。朝、昼、晩に規則正しく食事をして、暴飲暴食を避けるようにしましょう。
暴飲暴食は、血液の循環に支障をきたす遠因の一つです。血液の循環に支障をきたした結果、脳血管障害を招き、ひいては脳血管性認知症になるリスクが高くなります。
タバコとお酒
喫煙が動脈硬化の遠因となることは、良く知られていることです。動脈硬化は、血管をもろくし、脳血管性障害が発症するリスクが高まります。
全体の割合としては少ないものの、アルコール性認知症というものが存在します。これは、アルコールの多量の摂取による脳の萎縮が原因です。また、アルコールを大量に摂取し、なおかつそれで足元もおぼつかなくなるような酔い方をする人は、転んで頭を打ち、頭部外傷性認知症を発症するケースも考えられます
認知症を予防する暮らし方
長期的な認知症の予防としては、脳のゴミをとって、脳を鍛えることも大切です。
脳のゴミをとる
脳が活動したときに生まれる老廃物・アミロイドβは、通称<脳のゴミ>と呼ばれ、これがアルツハイマー病発症の引き金になるのではないかと考えられています。
研究によれば、アルツハイマーを発症する25年まえから、ゴミはたまり始めるといわれています。とすると、少なくとも40代になったら、脳のゴミ掃除を始めるべき、ということなりそうです。
具体的には、以下のような暮らし方を心がけましょう。
●運動:ウォーキング、エアロビクスなどの有酸素運動をすると神経細胞を活性化するホルモンが分泌されることやアミロイドβを分解する酵素を増やすことが期待できます。また、運動後だとよく眠れるので、アミロイドβの排出には一石二鳥の好影響をもたらします。
脳を鍛える
認知症になる前段階では、通常の老化とは異なる認知機能の低下が見られます。これを予防するには、脳機能を集中的に鍛えることが発症を遅らせることが期待できます。そのための具体的方策として、以下のような対策があげられます。
●コミュニケーション:他人と会って、会話をすることは脳を活性化させると言われています。いつも会っている人ばかりではなく、いろんな人と会って、積極的に会話こと。孫などとの会話もお勧めです。
●知的活動:要は神経細胞を活性化させるために頭を使うことです。囲碁や将棋や指先を裁縫使う裁縫などがあげられます。
ストレスをためこまない
ストレスは万病の元です。健康な生活を維持するためには、ストレスを溜め込まないことが不可欠です。ストレス環境を改善するのは、人それぞれでしょうが、自分流のストレス発散法を身に付けるようにしたいものです。
衝撃から頭を守る
頭部へのダメージによって発症する認知症に外傷性認知症というのがあります。頭部へのダメージといえば、頭を叩きあうボクサー特有のパンチドランカーがあります。
正確には、「慢性外傷性脳症」といいますが、蓄積された脳へのダメージが原因で、頭痛や体の震えなど様々な症状があらわれるほか、認知症の症状もでてきます。
とにかく、衝撃から頭部を守ることは重要です。毎日、ヘルメットをかぶって仕事に行くことはできないでしょうが、サイクリングに出かけるときは、必ずヘルメットを着用しましょう。
健康的な生活が認知症を予防する
認知症の多くは、発症の根本的な原因は不明です。そこで、認知症になるリスクを軽減するための遠回りの予防策を考えてきました。
現在のところ、根本的な治療法が確立されていない認知症は、健康な生活を維持するしか方法がない、ということもできるでしょう。そのためには、早い時期から健康生活を実践することが不可欠です。