子どもの心身の発達というのは、子を持つ親の最大の関心事です。他の子に比べて、話すのが遅いというだけで、とても不安になります。そんなところへ、発達障害です、と診断されれば、お先真っ暗、幼くして不治の病にかかったのかと暗澹たる気持ちに陥ります。
では、発達障害というのは、治らない障害なのでしょうか。今回は、この点にスポットをあてて考えていきます。
目次
発達障害の原因は「生まれつき」
発達障害は、脳機能の発達が関係する先天的な、生まれつきの障害です。まず、この事実をしっかりと受け入れることが全ての始まりです。
脳機能の障害が起こっている
発達障害を持った子どもは、落ち着かなくて、過剰に動き回るなどの問題行動を起こしますが、それは生活環境や親のしつけといった後天的な要因から生じたものではなく、先天的に脳機能の発達が通常と異なっているために起るものです。
その結果、いくつかの能力が一般的な水準に達していないのです。発達障害は、周囲の環境によっては、うつ病などの心の病気になったりすることがあります。しかし、発達障害自体は、うつ病などの精神疾患とは無関係です。
理由は明確にはわかっていない
発達障害は、脳の機能障害である、ということはわかっています。では、その障害は何を起因として起こるのか、ということになると、実は<解明の途中>で、はっきりとした定説があるわけではありません。
一説では、なんらかの遺伝的要因を持つのでは、と考えられています。発達障害になりやすい体質が先天的にある人が、胎児期や出生後に脳や心身が発達する中で様々な要因の影響を受け、脳に機能障害をが生じた。その結果、認知の方法や感じ方に違いが生まれ、それが様々な行動特性を引き起こすのではないかという説です。
教育が原因ではない
落ち着かなくてじっと座っていられない、過剰に動き回る、他の子と仲良く遊ぶことが出なくて自分勝手なふるまいをする・・・。それが発達障害のために引き起こされる問題行動であることを知らない人から見ると、ついつい親のしつけがなっていない、と思いがちです。
また、自分の子どもが発達障害だと気付いていない親は、そうした他人の視線に肩身の狭い思いをします。しかし、そうした振る舞いはしつけや教育や生活環境のせいではなく、もって生まれた脳の機能障害のせいなのです。このことを理解すれば、親はもとより周囲の人の接し方も変わってきます。
生まれたときには決まっている
厳しい言い方に聞こえるかもしれませんが、発達障害は生まれた時に決まっている、のです。しつけや教育のせいかと悩んだり、落ち込んだりする必要はない、ということです。
このことを受け入れれば、新しい道が開けてきます。
行われるべきは「治療」というより「対応」
発達障害は、その子が持って生まれた一つの宿命といってもいいでしょう。だとすれば、親が考えなければならないことは、どう治すかではなく、どう生きて行けるようにサポートするかということです。
完全に治す、消すのは不可能
現在のところ、機能障害を完全に治すことは不可能です。薬で一時的に改善したりすることはできますが、それはあくまで改善です。
それよりもお勧めしたいのは、医療機関に相談することです。発達障害児のマイナス面ではなくプラス面に着目して、能力を生かすためのサポートをしているところもあります。
周囲の「対応」
発達障害の「障害」は、誤解を招きやすい言葉のようにも思われます。むしろ、その子が持つ特異性というふうに捉えるべきです。
教育の場や社会生活の上では、確かに不得手なところがありますが、周囲の人たちの理解を得て、サポート体制を築くことができれば、影響を最小限に抑えることができます。
本人の「対応」
発達障害である事実は、親ばかりではなく、当の本人にも大きくのしかかっています。自分の欠落部分を意識するあまり、ネガティブすぎる認識をしてしまうと、後述するような二次障害を引き起こしかねません。
自分の不得手な部分をマイナスに受け止めるだけではなく、障害をしっかりと理解させ、その事実を受け入れさせた上で、その子が生きていけるような対応策を考えてやることが求められます。
不得意を抑え、得意を伸ばす教育
発達障害では、極端に不得意な分野がありますが、不得意による悪影響を少なくする学習方法もいろいろと考えられています。ここでは主要な発達障害であるADHDとアスペルガー症候群を例にとって紹介します。
ただし、複数の発達障害が同時にあったり、個人差があったりしますから、下記のような方法が通用しないケースもあります。発達障害児の障害の内容をしっかりと診断したうえで、「その子に合わせた教育」に取り組んでください。なお、 各都道府県に設置された「保健福祉センター」などに相談すると、適切な医療機関や児童発達支援なども紹介してもらえます。
ADHDの教育
ADHDではおとなしくすることが難しかったり、物事に集中、整理することが苦手だったりします。そのため、ADHDの教育では、集中を散らすことになるものを遠ざけたり、むやみな衝動を自分で抑えられるようにしたりする教育が行われます。
勉強などに集中しないといけないときには、本人の好きな遊び道具を片づけ、テレビを消すなど、集中を妨げる刺激をできるだけ周囲からなくすようにするのも対応策の一つです。また、集中時間を短めに設定して、適度に休憩して、一度にこなさなければいけない量を少なめにし、効果的に休憩をとるようにするのもお忘れなく・・・。
アスペルガー症候群の教育
アスペルガー症候群の人たちは、コミュニケーションが苦手です。なかなか、他者の心情を理解できません。このほか、抽象的、比喩的な表現を理解することも苦手です。
また、感覚が過敏であったり、同じやり方を好んで融通がきかなかったりします。そのため、アスペルガー症候群の教育では、抽象的な表現を避け、感覚をむやみに刺激しないようにすることなどが重要視されています。
得意を伸ばす教育
ADHD、アスペルガー症候群の子どもたちは、実はうまく引き出せば、大きな可能性をひめた潜在能力を持っています。ADHDはエネルギッシュであるといえますし、アスペルガー症候群は一つのことを深く追究することが得意です。
不得意だけでなく、そういった得意なことに対してもしっかりと目を向け、伸ばす教育をすることで、より素晴らしい成果につながり、本人も自分を卑下しなくなることが期待できます。
誤った対応で心の病気に
発達障害自体は、一般的に心の病気と呼ばれる精神疾患ではありません。ただし、特異な行動の結果、周囲から非難の目にさらされ、ストレスが重なって、うつ病などの二次障害を発症するケースも見られます。
発達障害の心理的負担
発達障害は、親ばかりではなく当人にも辛い思いをさせています。多かれ少なかれ、人は不得手な部分を持っているものですが、発達障害の場合、不得手な部分が突出していますから、そこで深刻な心理的不安を抱え込むことになります。
勉強や仕事において、自分は何でこんなことができないのだろう、と屈辱感ともいえる思いに駆られてしまいます。また、周りの人が本人障害を知らない人間関係の中では、障害のせいで当たり前のことができないのに、当たり前にできることを要求され、大きなストレスを抱え込むことになります。
加えて、治すことのできない障害であるという事実が重くのしかかってきます。この結果、2次障害に冒されるケースも見られます。
発症する心の病気
二次障害とは、適切な治療やサポートを受けられない場合に発症する障害です。たとえば、うつや不安障害、不登校やひきこもりなどがこれに当たります。
このように、障害の主症状とは異なる症状や状態を引き起こしてしまうのが、二次障害です。このほかに、適応障害、不安障害などの心の病気を発症しやすいといわれています。
悪影響は病気ばかりではない
発達障害を抱えて成人した人たちは、就職しづらい環境にある、というのが現実です。そのため、引きこもりを誘発することにもなります。
たびたび繰り返してきたように、発達障害は、プラスの能力を秘めています。
にもかかわらず、その能力を発揮できず、置いてきぼりをされたような状況におかれているのが現状です。発達障害では、早期からの「療育」は症状改善に大きな効果があるとされています。
先にのべたように、各都道府県に設置された「保健福祉センター」などで相談されることをお勧めします。療育的支援では、苦手な部分をサポートしたり、得意なことを伸ばすような訓練を受けることができます。
大事なのは本人の意思と周りの支え
発達障害の人が生きて行くうえで重要なことは、まず、本人が発達障害を受け入れることです。その上で、自分の障害を許容するような場を探し、自分の能力が発揮できるような道を目指すことです。
家族や周囲の人たちがやるべきことは、不得意の部分をサポートしてあげることにつきます。また、思い切って精神科や専門機関に出向いて、より効果的な療育を受けることも考えてみるべきでしょう。