精神疾患は、ときには他の精神疾患を誘発し、通院している途中で診断名が変わることがあります。たとえば、パニック障害で通院していたのに、うつ病と診断名が変わった、などもその例です。とくにパニック障害とうつ病という二つの精神疾患には関連性があると言われています。
目次
パニック障害とは
パニック障害とは、不安障害と呼ばれる精神疾患に含まれる障害です。不安障害と言うのは、不安を主症状とする疾患群の総称です。
参考までに不安障害に含まれる精神疾患群を表にまとめてみました。パニック障害は、数ある疾患群の中で、不安障害を代表する疾患です。
・パニック障害
・恐怖症
・強迫性障害
・外傷後ストレス障害(PTSD)
・急性ストレス障害
・社会不安障害(対人恐怖症)
・一般身体疾患による不安障害
・物質誘発性不安障害
・特定不能の不安障害
パニック発作が起こる疾患
体の調子が悪いわけでもないのに、突然、動悸やめまいがしてきて、脂汗がたらたらと流れる。息がつまるようで、吐き気もする。気が付くと手足が震えている。ひょっとしたらこのまま死ぬのではないか・・・。
これがパニック障害の典型的な発作です。パニック発作は、予期しない発作です。で、いったんパニック発作を経験すると、また起きるかもしれないという「予期不安」に囚われ、「広場不安」と呼ばれるパニック障害の二次的な障害を抱え込むことになります。
ここでいう広場と言うのは、駅前広場というような具体的な広場をさすのではなく、発作が起きたら恥ずかしいとか、一人でいれば助からないかもしれないと思われる場所や状況の比喩的表現です。
具体的には、乗り物、人混み、行列に並ぶこと、橋の上、高速道路、美容院、歯医者、劇場、会議などがここでは広場に該当します。こうなると、日常生活や仕事に支障を来すようになります。サラリーマンは、電車での通勤や出張が難しくなり、主婦は買い物などが出来なくなります。
不安障害の一種
パニック障害は、不安を主な症状とした不安障害です。誰でも、漠然とした不安を持っていますが、理由のいかんを問わずに、不釣り合いに強く、繰り返し起きて、なかなか払しょくできない病的な不安です。
不安障害には、パニック障害のほかに、何度も同じことを確認してしまう強迫性障害、トラウマに苦しみ続けるPTSD、対人恐怖症とも呼ばれる社会不安障害(社交不安障害)などがあります。
決して珍しい病気ではない
パニック障害は2%前後の人が発症するといわれています。決して珍しい病気ではありません。アメリカでは、10人に3人以上が経験し、女性の発症率は、男性の2.5倍だと言われています。アメリカの研究報告で注目すべき点は、不安障害の患者は、一定期間に二つ以上の診断基準を満たす障害がみられる「併存」を経験することが多いということです。
ストレスが原因?
不安障害は、かつては心理的要因(心因) が主な原因であると考えられてきました。過去に何らかのきっかけがあった、発症前1年間のストレスが多かった、小児期に親との別離体験をもっているなどが、ここでいう心因です。
しかし、脳の研究が進んだ近年では、心因のほかに脳内神経伝達物質系が関係する脳機能異常(身体的要因)である、という説が有力になってきています。大脳辺縁系にある扁桃体を中心とした「恐怖神経回路」の過活動があるとする仮説です。
このほか、社会的要因も無視できません。日本では、不安障害の中では、対人恐怖症が多いといわれてきました。これは、日本人は人目を気にして、恥を重視する文化に由来すると説明されてきたのですが、最近では、対人恐怖は減少してきています。つまり、社会の価値観が変わったので、それに対応していた不安障害の一つが減ってきたということです。
治療は薬物療法と認知行動療法
基本は薬物療法で脳の機能の改善を行います。うつ病の治療にも用いられる抗うつ薬や抗不安薬など、効果や副作用が異なる薬をうまく使い分けて治療します。パニック障害では、認知行動療法を取り入れた治療が行われるようになってきています。
中でも、認知行動療法の中の「段階的暴露療法」は、広場恐怖に対して効果的な治療だとされています。これは、不安の度合いを段階づけて、容易な段階から一つ一つステップアップしていくものです。
たとえば、一人で電車に乗れない場合は、はじめは家族同伴で乗り、次に家族は別の車両に乗り、次は一人で1駅だけ乗ってみる、というものです。こうした小さな成功体験を積み重ねることで、自信をつけ、不安を払しょくしていくという療法です。
うつ病は一種類だけではない
一口にうつ病といっても、様々なタイプがあり、症状も異なってきます。パニック障害はこのうつ病を併発しやすい精神疾患ですが、なかでも非定型うつ病との関連性が高いとされています。
一般的なうつ病
常に憂うつな気分に支配され、食欲、睡眠、性欲などの意力が低下した状態を抑うつ状態といいます。憂うつな気分と言うのは、誰でもあることですが、これが常態化して、身体的な自覚症状を伴うようになるとうつ病と診断されます。
この診断の際の目安となるいくつか症状を表にして、非定型うつ病と比較してみました。まず、この表をじっくりと読んでうつ病のイメージを描いてみてください。うつ病の原因は、いろいろありますが、ストレスはその中の大きな要因の一つとされています。
一般的なうつ病(メランコリー型)の症状
・気分の落ち込み(抑うつ気分)
・何も楽しめない、興味を持てない
・食欲増加もしくは低下/不眠あるいは過眠
・疲れやすい
・身体活動と思考能力の低下
・自分に価値がないと考える(無価値感)
・自分に罪があると考える(罪責感)
・死にたいと考える(希死念慮)
非定型うつ病の症状
・楽しいことがあると抑うつ気分が改善する
・興味と喜びの喪失はあまりない
・食欲低下もしくは増加/不眠は少なく過眠
・疲労感・倦怠感が強い
・恐怖感・不安感が強い
・夕方に憎悪しやすい
・罪責感は希薄
・周囲の言動に過敏に反応する
近年目立つ「非定型うつ病」
表をみて分かるように、非定型うつ病は、メランコリー型ともいわれる一般のうつ病といくつかの点で真逆の症状があらわれます。こういった特徴から、実は否定形型うつ病のあらわれなのに、「うつ病と言って仕事を休むくせに、社員旅行には喜んで参加するだから」などと非難されることになります。また、甘えやサボりと誤解されることにもなります。
メランコリー型のうつ病は、中年期男性に起きやすいとされていますが、非定型うつ病は、20~30代の女性に多い病気です。いつも落ち込んでいるのではなく、気持ちがウキウキしているときもあれば、「相手を怒らせる」ような、攻撃的な言葉も吐き、後で深く悩んだりします。この攻撃的な振る舞いも、否定形型うつ病の特色です。
要するに、気持ちの浮き沈みが激しいのです。職場などで、気分屋だとかヒステリー女、などと陰口を叩かれている人の中には、非定型型うつ病にさいなまれている人がいるかもしれません。
パニック障害とうつ病は併発する
先にふれたアメリカの研究報告からも明らかなように、パニック障害とうつ病の間には、強い関連性があります。
不安障害とうつ病は併発しやすい
パニック障害を含めた不安障害は、長い治療期間を要する病気です。そこから、なかなか治らないという焦りが生まれ、ちゃんと治療しているのかという疑惑が芽生え、本当に治るのかしらという不安が立ち上がってきます。
こうした普通の人にはない強い焦りと不安が積もり積もって、ストレスが強くなってきます。つまり、病の性質の中に、精神疾患にかかりやすい要因がひそんでいるのです。
うつ病の人もパニック障害になりやすいリスクを背負っていますが、この逆もまたおおいにあり得ることです。このほか、その人の気質や家庭環境、体調なども原因としてあげることができますが、中でも、ストレスとの折り合いをつけることが苦手な気質は、要注意です。
パニック障害と「二次的うつ」
パニック障害は、うつ病予備軍のようなものです。障害を抱え込んでいることによるストレスがたまって、気がついたらうつ病になっていたというケースは珍しくありません。
実際、パニック障害によって併発するうつ病は、 「非定型パニック性不安うつ病」と分類されているくらいです。つまり「二次的うつ病」になり、後にうつ病の症状がメインになってきた結果、診断名が変わることもあるのです。逆にうつ病を一次とする二次的なパニック障害も当然、あり得ます。
「二次的うつ」の特徴
この二次的なうつ病の特徴は、気分の振れ幅が大きいということです。人に褒められると舞上がってしまうくせに、バカにされたり、嫌なことがあると激しく落ち込みます。
定型のうつ病は、自分以外に対して興味を持ちませんが、非定型パニック性不安うつ病は、自分以外の人から影響を受けやすい傾向が強いのが特徴です。
また、自分が否定されたり、理解して貰えないと、自分は悪くないのに周囲が分かってくれないのだという感覚に陥り、攻撃的になることがあります。この拒絶過敏性も非定型うつ病の大きな特徴です。
早期治療で併発は防げる
パニック障害にしろうつ病にしろ、期間が長ければ長いほど、併発の可能性が高まります。そうなると、症状に伴う負担が増えるばかりではなう、治療の手間も増えてきます。
それを防ぐためには、パニック障害やうつ病が疑われたら、いち早く専門機関にかかっての早期の治療に取り組むこと需要になってきます