ストレスはまるで怪人20面相のように様々な顔(病態)を見せてくれます。頭痛や吐き気なども、実はストレスの変装だったということがしばしばです。
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ストレスが原因の身体疾患、「心身症」
ストレスが原因の頭痛、吐き気、めまいは「心身症」のひとつと考えられています。ストレスが関与していると聞くと、心の病気だと連想しがちですが、心身症は「身体の病気」です。
「心身症」は「ストレスを原因とする身体疾患」の総称
病気は、大きく「身体疾患」と「精神疾患」に分けることができます。ストレスが原因であることや、病態名に「心」があることなどから、心の病気のように思いがちですが、心身症は身体疾患です。日本心身医学会では、心身症を以下のように定義しています。
『身体疾患の中で、その発症や経過に心理・社会的因子が密接に関与し、器質的ないし機能的障害が認められる病態をいう。ただし神経症やうつ病など、他の精神障害に伴う身体症状は除外する』
心理・社会的因子というのは、ここではストレスを意味しています。要は、ストレスが関与してあらわれてくる精神障害を含まない身体的な病態が心身症です。なお、心身症は病名ではなく、さまざま病態の総称です。
身体の様々なところに発症する
同じストレスを受けても、その受け止め方は人それぞれに異なります。あらわれる症状にも個人差がありますが、一般的に初期症状としては、偏頭痛、吐き気、めまいなどが見られます。このほか、耳鳴り、ヘルペス、チック、眼痙攣、蕁麻疹(じんましん)などもあらわれます。
ストレスを溜め込んで、慢性化すると、以下に挙げるような病態があらわれてきます。ただし、先に述べたように心身症は、ストレスを起因とした病態の総称ですから、胃潰瘍だとすると、器質的な胃潰瘍と区別するために、正確を期して「胃潰瘍(心身症)」と記入されることがあります。
●器官支喘息、過喚起症候群
●狭心症、心筋梗塞
●胃潰瘍、十二指腸潰瘍、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、心因性嘔吐
●単純性肥満症,糖尿病
●筋収縮性頭痛,痙性斜頚,書痙
●慢性蕁麻疹(じんましん)、アトピー性皮膚炎,円形脱毛症
●慢性関節リウマチ,腰痛症
●夜尿症,心因性インポテンス
●眼精疲労,本態性眼瞼痙攣
●メニエール病
身体にこれといった異常は見られない
身体にあらわれる心身症の症状の原因は目に見えないストレスですから、検査しても異常が見られないということがあります。また、本態性高血圧症(心身症)を発症している人に降圧剤を与えても血圧が下がらなかったのに、心理療法を併用したら病態が落ち着いた、というケースもあります。
ストレスを起因とする心身症としての高血圧であれば、体の治療とともにストレス状態の改善についても考慮しなければならないということです。
発症しやすい人もいる
ストレスの受け止め方が人によってさまざまであるということは、ストレスに弱い人、心身症を発症しやすい人がいるということを示唆するものです。
一般的に心身症になりやすい人は、不安や緊張の強い人、あまり感情を表に出さない人だとされています。また、アレキシサイミア(失感情症)の人は心身症になりやすいとも言われています。
アレキシサイミアとは、自らの感情を自覚・認知し、これを表現することが不得意で、空想力・想像力に欠ける傾向のことをさします。自らの感情を認識することが苦手なため、身体の症状として現れてしまうのではないかと考えられています。
ストレスの原因として考えられるもの
「あなたは今、どんなストレスを受けていますか」と質問されて、直ぐに答えることができますか。仕事、子どもの教育、人間関係などを挙げる人もいるでしょうが、「うーん」と考え込んでしまう人もいるのではないでしょうか。
また、自分では自覚していないことが、ストレスとなっているケースも珍しくありません。ストレスというのは、実は気づきにくい面があるのです。
ストレスになることの中には喜ばしいはずのことも
ストレスというと苦しいこと、辛いことを連想しがちですが、楽しいこと、悲しいことがストレスとなることもあります。冠婚葬祭や入学、入社などのイベントがこれにあたります。張りつめた気持ちの中にストレスが忍び込んでいるわけです。
ストレスになることは人により大きく異なる
人づきあいが苦手の人もいれば、好きな人もいます。営業が苦手の人もいれば、営業を天職と考えている人もいます。向き不向きによって、人が受けるストレスも違ってきます。
ただし、仕事が好きで、目いっぱいに働いていて、何の悩みもないような人でも、気づかないうちにストレスを受けている場合もあります。ストレスと言うのは、自覚できるものばかりではないということ、そして自覚的でない分要注意だということを忘れないでください。
ストレスは年代によって異なる
仕事上のストレスに関して言えば、年代によって異なってきます。20代では、仕事の適性がストレスの元になるケースが多いのに、30代では、仕事の忙しさや量的な負担がストレスになりがちです。また、私生活の面では、結婚や子どもの誕生といった大きな変化を経験し、こうした変化に対応することもストレスになることがあります。
40代になると仕事の質が問われるようになります。また、上司と部下とのあいだでの「サンドイッチ現象」が大きなストレスになってきます。
50代では、ある程度の地位を得たことによる人間関係の悩みがあり、一方で定年後の仕事や老後の問題のほかに、両親の介護の問題などがストレスとなってきます。
「心身症」を改善するには
うまくストレスを発散する
ストレスは、発散させないことには、蓄積していて、知らず知らずのうちに心が悲鳴をあげるようになってきます。ストレス発散の方法は、人それぞれでしょう。
旅に出て気分をリフレッシュするのもいいし、カラオケでシャウトして鬱憤を発散するのもいいし、一人でゆったりと音楽を聞いて疲れを癒すのもいい。軽い運動で汗を流すのもお勧めです。
運動をすると、ネガティブな気分が発散されます。大切なことは、自分にあった発散の方法を持つことです。
生活の中でのストレスを減らす
日常生活にストレスはつきものですが、考え方や工夫次第で改善できることも少なくありません。考え方を変えるというのは、ネガティブ思考を改めるということです。
ネガティブな考えだと、ストレスが新たなストレスを誘発し、段々と沈み込んで行きます。物事をポジティブに考えるように心がけると、ストレスも衰えて行くはずです。
もやもやした気分でいるとき、もやもやの状態を紙に書いてみることを勧める専門家もいます。きちんとした文章を書こうとするのが面倒だというのであれば、「イライラ、不安、なぜ?」といったメモでもいいし、日付や場所でも構いません。これは、工夫のひとつですが、試してみてください。
心療内科にかかる
強いストレスを感じながら生活していると、精神面、身体面に様々な不調があらわれてきます。その症状が自力改善では手に余るということになったら、医療機関にかかって治療に取り組むことです。
できることなら、「これはストレスが原因かな」と自覚した時期に、専門の医療機関で受診されることです。心身症を対象とした専門の医療機関は、診療内科のクリニックや病院です。
心療内科はストレスが原因の心身症の治療をおこないます。ちなみに、精神科は脳の機能障害である精神症状の治療をおこないます。ただし、心療内科と精神科の区別があいまいになっているところもあります。事前にチャックして、診断をうけるようにしてください。
治療では薬物療法と精神療法がおこなわれる
心療内科では、薬物治療に加えて心理的なアプローチも併用した治療が行われます。心理療法の柱となっているのは、ネガティブな思考を改善する認知行動療法です。
薬物療法では、おもに向精神薬を使った治療が行われます。
ストレスを減らすことが重要
ストレスが思いもかけない心身症を誘発し、多くの人を悩ます現代の宿病のようになってきていることはすでにみてきた通りです。くわえて、ストレスは新たなストレスを誘発し、症状を悪化させていきます。日常生活の中のストレスを減らしてメンタルヘルスを維持することは、現代社会を生き抜く最優先の課題だと言っても過言ではありません。