統合失調症は、幻覚や妄想やまとまりのない奇異な行動がみられるところから、以前は精神分裂病という恐ろしい名前で呼ばれていました。2002年、病名が改められ、統合失調症と呼ばれるようになりました。改名の主な理由は、精神分裂という名前が、病気の本質を表していないからです。
では、この病気の本質とは何でしょうか。そして、統合失調症は、不治の病なのでしょうか。それとも完治が期待される病でしょうか。
おおむね2種類の症状が現れる
統合失調症の症状は、大きく陽性症状と陰性症状に分けられます。陽性症状とは、本来存在しないものが出現するというところから名づけられた症状で、その代表的な症状が、幻覚と妄想です。陰性症状とは、本来あるべき意欲、思考力、感情などのエネルギーが失われた状態の暗く落ち込んだうつ症状です。
「発症→陽性症状→陰性症状→回復」の経過が多い
統合失調症を発症した時には、激しい陽性症状が現れるのが一般的です。陽性症状が現れる時期は、急性期とも呼ばれますが、この時期には、先に述べたように幻覚(主に幻聴)、被害妄想、思考混乱などの症状があらわれてきます。
急性期が過ぎると感情の起伏がとぼしくなり、無気力で何もしなくなると言った自閉無為の陰性症状があらわれてきます。この時期は、休息期(慢性期)と呼ばれますが、やがて、症状が徐々に治まってくる回復期に至ります。
症状の現れ方で3タイプに分けられる
統合失調症は、発症する年齢や症状の内容によって、破瓜型、妄想型、緊張型に分けることがあります。それぞれの特徴をまとめると以下のようになります。
●破瓜型
破瓜とは思春期のことで、この時期に発症するタイプを指します。あらわれる症状は、何もしないで閉じこもり、感情が失われ、会話や行動にまとまりのなさといった陰性症状です。
陽性症状は、ほとんど認められず、あっても軽度です。奇異な症状がないところから発見が遅れがちで、学生であれば徐々に不登校になって、おかしいと思って診断して、初めて病気と判明するというケースも珍しくありません。
●妄想型
妄想型は、統合失調症に一番多く認められるタイプです。破瓜型に比べると、比較的遅い時期の30歳前後に発症します。症状は幻覚・妄想といった陽性症状が主で、感情鈍麻・意欲低下・無為自閉などの陰性症状はあまり目立ちません。
●緊張型
発症は比較的早く、20歳前後に発症しやすいタイプです。症状としては、激しい精神運動興奮とこれとは反対の無反応な状態が急にあらわれます。精神運動興奮では、精神的に興奮したり、目的のない動きを激しく続けたりします。
一方、無反応な状態では、意識はあるものの呼びかけに対してまったく反応がなく、体も固まったまま動かない状態です。この状態を昏迷と呼びますが、昏迷状態になると、誰かによって指示された同じ姿勢をずっと保持する蝋屈症(ろうくつしょう)と呼ばれる症状が現れることがあります。
若い男性に多い
厚労省の調査(2008年)では、統合失調症かそれと近い症状の病名で受診中の患者数は、ざっと80万人となっています。発症年齢は、思春期から青年期をへて30歳前後までが多く、好発年齢のピークは10代後半から20歳代です。中学生以下の発症は少なく、40歳以降にも減っていきます。
つまり、統合失調症は、若者の病気だということです。発症の頻度に性差はないとされていましたが、診断基準に基づいて狭く診断した最近の報告では、男女の比率は14:1という数字が報告されています。
脳の働きがうまくまとまらなくなっている
統合失調症は、思考や行動、感情を1つの目的に沿ってまとめていく能力が長期間にわたって低下する病です。その経過のなかで、あるタイプでは、主に陽性症状として幻覚や妄想があらわれ、あるタイプでは陰性症状があらわれ、あるタイプでは、緊張型の蝋屈症的な症状があらわれてきます。
原因の詳細は不明
統合失調症の根本的な原因はまだ解明されていません。現在考えられている原因は、脳の生物学的な要因、遺伝的要因、環境的な要囚、心理的な要因などが重なって発症するということです。
脳の生物学的要因というのは、脳内で情報の伝達をしている神経伝達物質の一つであるドーパミンの過剰な分泌、あるいは機能低下です。あるいは、意欲、感情、情動的記憶を司る前頭葉や側頭葉の部位、海馬や扁桃体の部位の委縮です。
遺伝に関して、遺伝的要因が認められるものの環境的な要因も無視できないということです心理的要因の中心となるのは、ストレスです。
ただし、ストレスは発症のきっかけとなるもので、直接的な原因だとは考えられていません。私たちは、多かれ少なかれストレスにさらされながら生きていますが、その中で統合失調症を発症するひとはごくわずかです。
統合失調症は治らない病気?
決して治らない病気ではない
ごく平均的な事例でいえば、薬物療法を主体とした統合失調症の治療に取りくんでいると、急性期の陽性症状がおさまり、やがて休息期(慢性期組)の陰性症状があらわれ、回復期へと進みます。
回復期に至ると、仕事に戻り、学校にも通えるようになります。元の生活に戻ることが可能だ、という点からいえば統合失調症は治る病気になりました。
治りづらいのも事実
もとの生活にもどり精神的にも落ち着きがでた時期を精神医学では、寛解期と呼びます。寛解というのは、「症状が落ち着き、病の兆候が見られない」といった状態に対して用いられる専門用語です。
但し、この言葉には、また再発するかもしれない可能性を含まれています。病を克服し、二度と症状が見られなくなったときが「完治」です。
統合失調症は、どれだけ症状が良くなっても完治と診断されることはありません。再発を防ぐために長期にわたり薬を服用しなければならない治りにくい病気でもあるのです。
タイプよって治りやすさは異なる
元の生活に戻れる寛解期をもって、治るということにすると、先に上げた三つのタイプには、治りやすいものと治りにくいものがあります。
発症年齢が高い緊張型は、治りやすく、予後も良い、とされています。緊張型は最近あまり見かけなくなったとされていますが、破瓜型に比べて治りやすく、予後も良いとされています。問題は、破瓜型で、予後が良くないとされています。
ちなみに「予後」とは、治療した後でどれくらい回復していくかという見通しを立てることをいいます。
病期ごとの治療でしっかりと治していく
統合失調症では、急性期や休息期、回復期といった病期によって、治療のやり方も変わっていきます。激しい陽性症状がおこる急性期は、症状を抑えることを目的とした薬物治療が行われます。陰性症状があらわれる休息期では、薬物療法に加え、社会復帰のためにも必要な精神療法がおこなわれます。
回復期になっても、再発を抑えるための服薬が続けられます。このように、統合失調症は病期ごと変わってくる症状に対応して治療が行われます。
治療は長期間にわたる
統合失調症は、外見的に治ったように見えても、いつ再発するかわからないリスクを抱えています。実際、再発は回復期に多く見られます。従って、治療は長期渡って行われることになります。
治療において意識すべきことは?
勝手な服薬中止は厳禁
慢性期になると薬の量が減ってきますが、回復期になっても予後の維持量というのが指示されます。この服薬を中断すると、1~2年以内にかなりの確率で再発する危険があります。統合失調症は、再発の危険をはらんだ病気ですから、長期間にわたって服薬を続けることが重要です。
ところが中には服薬をさぼって、再発し、病院に舞い戻るケースが少なくありません。といって、服薬はずっと続けるというものではなく、医師が判断すれば止まります。
薬が体に合わないなら、まず医師に相談すること。自分の判断で勝手に中止することのないように肝に銘じておいて欲しいものです。
周囲の人も統合失調症について理解する
治療して、社会復帰を目指すというのが、統合失調症の基本的な目標です。そのためには、治療のために入院する時、症状が治まって退院したあと、仕事に戻る時に家族や周囲のサポートが必要です。
精神分裂病から統合失調症と名前が変わっても、この病気に対する根拠のない偏見や怖れを抱いている人が少なくありません。統合失調症という病気の本質を理解し、サポートすることは、社会復帰して再出発を目指している人への最も効果的な薬だということを忘れないようにしたいものです。
不安な点については医師に相談する
統合失調症の治療の過程で、本人はもとより周囲の人は、薬の量や副作用などに関して不安を抱くことがあります。不安になったら、担当の医師に素直に不安な点を正し、医師が進めている治療の方法を理解することが重要です。
服薬を中止した時から不治の病に
医療技術の進歩と新しい薬の開発で、統合失調症の治療とその効果は格段にアップしてきています。ただ、統合失調症は、症状が治まったあとも長い服薬期間がありますが、医師に指示に従って、きちんと薬を飲み続ければ、十分社会復帰が可能になりました。
ところが、中には自分勝手に服薬を中止し、治ったと思い込むケースが珍しくありません。その時から、統合失調症は、不治の病になるということを肝に銘じておきましょう。