対人恐怖症の影響でうつ病になる?原因と対策とは


人前に出ると緊張のあまり、手が震えてきたり、どもってしまう人がいます。これが対人恐怖症です。

そのために人との接触を恐れ、うつ病になるケースも珍しくありません。

対人恐怖症とは

対人恐怖症は、病態がほとんど同じところから社交不安障害と呼ばれることが多くなってきました。症状の核となるのは、「他者からの注目」に対して過剰なまでの恐怖と人前で「恥をかくのでは」という過剰な不安です。

多くの種類がある

人前に出ると上がってしまって、言いたいことの半分も言えなかったというのは、良くある話です。それは、人前に出て話すのが苦手というレベルで、対人恐怖症というわけではありません。人前に出ると過度に緊張し、赤面したり、どもったりといった症状があらわれてくるのが対人恐怖症です。

対人恐怖症は、あらわれてくる症状によって、以下のようなタイプに分けられています。

赤面症

人前に立つと顔が赤くなったり、異性の前に出ると赤面してくる症状。

醜形恐怖

女性に多いタイプで、自分の身体の醜さが、相手を不快にしているのではないかと悩む症状。

吃音恐怖

人と話している時に、どもってしまうのではないか、という予期不安が強くなっているタイプです。

書痙(しょけい)

人前で文字を書く時などに緊張のあまり手が震えだし、思うように文字を書けない症状。

視線恐怖症

他者からの視線を過剰に意識するところから生まれる恐怖。

男性恐怖症

過去のトラウマを引きずって、男性全般に恐怖感を抱いてしまう症状。男性と話をしたり、触れられたりすることに過剰に恐怖や嫌悪を感じます。

女性恐怖症

性に目覚めて、少女に対して必要以上に構えてしまい、素直に接することが出来ない思春期の状態が極端に強くなり、女性と出会うたびに緊張だけではなく恐怖を感じる症状。

醜形恐怖と書痙

上に述べた対人恐怖症の中の赤面症や異性恐怖症は、程度の差こそあれ、多くの人が身に覚えることではないでしょうか。ところが醜形恐怖症というのは、これらとちょっとタイプが違います。

醜形恐怖というのは、女性に多いタイプで、自分の身体の醜さが、相手を不快にしているのではないかと悩みます。実際は、そんなことはないのに、「自分は醜いから人前に出てはいけない」と妄想的に考えてしまい、人前に出るのを恐れるようになってきます。

書痙というのは、人前で文字を書く時などに緊張のあまり手が震えだし、思うように文字を書けない症状です。昔、ロッキード事件で国会の証人喚問に呼ばれた証人が、証言に先立ち書類にサインする時、手がブルブル震えた映像がテレビで放映されました。テレビ中継で自分の言動が全国に放映されるという緊張のあまり書痙があらわれてきたのです。

書痙の人は、結婚式や葬儀での記帳やホテルのサインなどに人知れず悩むことになります。また、宴会などで、お酒をついだりする時やお酒をついでもらう時に手の震え起こるという形で現れてくることもあります。

対人恐怖症になりやすい人

対人恐怖症は、自意識と感受性が強く、神経質で、内気で、怖がりの人がなりやすいとされています。ただし、性格が全てではありません。生育環境も影響しています。

たとえば、子どものころを人見知りが激しく、学校で友達が先生に叱られるのをみて人前に出るのが怖くなったとか大勢の人前での発表で失敗して恥をかいてしまったいうトラウマも発症の要因に数えられています。

このほか、脳の働きや考え方(認知の形)や生活習慣など複数の要因が絡んで発症すると考えられています。

大きなストレスがかかる

対人恐怖症の人は、他人に対する怖れと赤面するかもしれない、どもるかもしれないといった予期不安に支配されていますから、コミュニケーションを避ける傾向が強い。その結果、人間関係がうまく築くことができず、大きなストレスを抱え込むことになります。

ストレスは、万病の元です。よく知られているのは、ストレスによる自律神経失調症です。検査しても身体的には何の異常もないのに頭痛、めまい、不眠が続きます。そして、代表的な精神的疾患の一つであるうつ病を発症するケースもでてきます。

対人恐怖症とうつ病

対人恐怖症で注意しなければならないことは、それがうつ病の引き金になるということです。

対人恐怖症のストレスがうつ病を誘発する

うつ病の根本的な原因は、まだ十分に解明されたわけではありませんが、はっきりしていることは多くの場合、ストレスが発症の引き金になるということです。うつ病の要因としては、遺伝、脳のトラブル、気質・性格などがあげられています。

これらは、うつ病になりやすい「もろさ」を構成する要素ですが、対人恐怖症の人は、うつ病の要因を構成するもろさを共有している傾向があります。

何事も楽しめない状態が続いたらうつ病の可能性が

憂うつで気分が落ち込む、すべてがむなしく思えてきて何となく悲しくなる、やる気がなくなって、全身がけだるい、何事も楽しめないなどの抑うつ状態が長期にわたって続いたらうつ病の可能性が高くなります。

こうした精神症状のほかに、睡眠障害や食欲不振、摂食障害、倦怠感や頭痛といった身体的な症状もあらわれます。さらに症状が進むと、思考力も減退し、ものの見方が否定的になり、あるいは自分を責める自責念慮とか、自殺を考える希死念慮といった症状もでてきます。

うつ病は、統合失調症のような異常な行動や妄想のような激しい症状はあらわれてきませんが、全体に暗く、陰気でじわじわと生きる意欲を失わせ、自殺願望を膨らませる恐ろしい病気です。

さらなる疾患を誘発することも

糖尿病の人はうつ病を発症しやすいとされていますが、逆も真なりで、うつ病から糖尿病を併発するケースもあります。

また、うつ病からアルツハイマーに移行するケースも指摘されています。特には、若い頃うつ病を発症した人は、将来にアルツハイマーになる確率が高くなるといったデータもあります。

さらに若い男性の場合、ED(勃起不全)を誘発するケースがあります。このようにうつ病は、さまざまな病気を併発しますから、うつ病の兆候が見えたら早めに専門の医療機関で治療に取り組むことが重要です。

対人恐怖症やうつ病の対策、治療方法は

対人恐怖症はかなり個人差があります。ですから、自分の症状を「対人恐怖」という一般的な概念でくくるのではなく、どんな場所で、どんな状態で、恐怖症が起きるのかを正確に把握することが、対人恐怖克服の第1歩です。

他者を気にしすぎない

対人恐怖症に共通していることは、他者の視線さらされた自己像の評価が低いということです。自信喪失が、恐怖と裏腹の関係になっています。したがって、失われた自信を取り戻すこと、そして他者の視線を気にしすぎないことが、最優先の克服ポイントということになります。

自身をとりもどすために、自分を見つめ、自分の中の美点や長所をノートに書きだしてみるのも一つの方法です。すぐに自信は生まれてきませんが、自信の元となる美点や長所を見つめ、自問自答して、肯定的な自画像を作るようにしましょう。

対人恐怖症の治療

他者を気にしすぎないでと言われても自分だけではなかなか難しい話です。そんな方は専門の医療期間で治療を行いましょう。対人恐怖症の治療は、精神療法のほか薬物療法も用いられています。精神療法では、主として認知行動療法が実施されます。

これは、間違った認識によって陥っている思考のパターンを客観的思考へ修正すると同時に、回避しようとする恐怖とあえて向き合うという療法です。薬物量では、うつ病の薬として開発されたSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)という抗うつ薬や抗不安薬が使用されます。

うつ病治療の基本は「休息」「薬物療法」「精神療法」

休養、薬物療法、精神療法が、現在のうつ病治療の3本柱です。まず、ストレス環境から離れて、心身を休養させることからスタートです。

薬物療法では、抗うつ薬による治療が行われます。セロトニンとノルアドレナリンに働きかけるSSRI(選択的セロトニン再取り込阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込阻害薬)が代表的な治療薬です。

精神療法では、悲観的なものの見方(認知)を改善する認知行動療法、対人関係療法などがあります。

規則正しいストレスの少ない生活を心がける

昔から、健康の基本は、早寝早起きを心がけることだとされています。早く起きれば、それだけ太陽の光を浴びる時間が長くなり、セロトニンの恩恵をより多く受けることになります。

加えて、早寝早起きをすると、必然的に規則正しい生活が導かれ、ストレスも少なくなります。その気になれば誰でもできる身の周りの暮らしを規則正しく整えて行くことが、うつ病に限らずすべての病気の最も効果的な予防策であることを忘れないようにしましょう。

併発する前の早期の治療が大切

対人恐怖症は、数ある精神疾患の中では、日常生活への支障などの観点で計ると、軽めの病気です。しかし、注意しなければならないのは、うつ病への移行が危惧されるということです。

したがって、うつ病の兆候があらわれたら、早めに専門の医療機関で適切な治療に取り組み、大事に至らせないということが重要です。


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