うつ病はアルコール依存症を併発しがちです。一方、アルコール依存症は、しばしばうつ病を併発します。
この二つの精神疾患は、親和性が高いのですが、今回はうつ病の側からの併発についてまとめてみました。
目次
うつ病による悪影響とは
そもそもの原因はストレスが大きい
まず、うつ病の原因と症状について押さえておきましょう。
うつ病の原因は、すべてが解明されているわけではありませんが、最近の研究では、ストレスによって、脳内の神経細胞の情報伝達にトラブルが生じているという説が有力になってきています。
つまり、脳内の神経伝達物質の分泌異常による脳の病気です。そして、その引き金になるのが、多くの場合、ストレスです。
一般的なうつ病(メランコリー型)には幅広い症状がある
憂うつで気分が落ち込む、すべてがむなしく思えてきて何となく悲しくなる、やる気がなくなって、全身がけだるいなどの抑うつ状態が長期にわたって続くのがうつ病です。
また、脳の機能障害によって発症していますから、脳がうまく働かず、考えることが出来なくなり、ものの見方が否定的になり、あるいは自分を責める自責念慮とか、自殺を考える希死念慮といった症状もでてきます。
他にも食欲がなくなる、眠れなくなる、頭痛、倦怠感など身体的な症状も現れます。このように症状に幅があるのがうつ病の特色ですが、症状が悪化すると希死念慮があらわれてきますから、うつ病を軽く見てはいけません。
真逆の症状がでる非定型うつ病
うつ病には、メランコリー型のうつ病のほかに、最近では非定型のうつ病や仮面うつ病が注目されるようになってきました。非定型のうつ病は、以前は「神経症性うつ病」と呼ばれてきたタイプのうつ病で、「お天気屋うつ病」とも呼ばれるうつ病です。
どんよりと気分が落ち込む状態が続くものの、楽しい出来事があると、それまでの不調がウソのように消えて元気になります。しかし、長続きはせず、また憂うつな気分に戻っていきます。
いくつかの点で、一般的なうつ病とは真逆の症状が出てくるために見逃されやすく、そのために症状が長引く傾向があります。
参考までに一般的うつ病と非定型型うつ病の特徴を表にまとめてみました。
一般的なうつ病(メランコリー型)の症状 | 非定型うつ病の症状 |
---|---|
気分の落ち込み(抑うつ気分) | 楽しいことがあると抑うつ気分が改善する |
何も楽しめない、興味を持てない | 興味と喜びの喪失はあまりない |
食欲増加もしくは低下/不眠あるいは過眠 | 食欲低下もしくは増加/不眠は少なく過眠 |
疲れやすい | 疲労感・倦怠感が強い |
身体活動と思考能力の低下 | 恐怖感・不安感が強い |
自分に価値がないと考える(無価値感) | 夕方に憎悪しやすい |
自分に罪があると考える(罪責感) | 罪責感は希薄 |
死にたいと考える(希死念慮) | 周囲の言動に過敏に反応する |
身体に症状がでる仮面うつ病
仮面うつ病では、お腹が痛い、体がだるい、頭痛が続く、下痢が止まらないといった身体症状があらわれてきます。一見、うつ病と関係なさそうな症状ですが、内科で受診しても原因となるような異常が見つかりません。薬による内科的な治療を行っても症状が改善しません。
身体症状の「仮面」の背後に抑うつ症状が隠れているわけです。ちなみに、仮面うつ病の身体症状は以下のものがあげられます。
疲労感(倦怠感)、睡眠障害、食欲減退、頭痛、肩こり、背部痛、口渇、腹部不快感、便秘、下痢、心悸亢進、胸部圧迫感、呼吸困難、頻尿、性欲減退、月経不順、めまい、視覚異常、聴覚異常、ほてりなど
うつ病による依存症の併発
うつ病は様々な精神疾患を誘発しがちです。不安障害や摂食障害などは代表的なケースですが、アルコール依存症も誘発事例の中に含まれています。
うつ病とアルコール依存症が合併する4つのケース
うつ病とアルコール依存症の合併には以下のような4つのケースが考えられます。
2) 憂うつな気分や不眠など、うつ病の症状を緩和しようとして飲酒した結果、アルコール依存症を併発するケース。
3) 長期の大量飲酒がうつ病を併発するケース。
4) アルコール依存症の人が飲酒をやめることで生じた離脱症状(禁断症状)の一つとしてうつ状態が見られるケース。
今回のテーマに該当するのは(2)のケースですが、時間的経過で見れば、うつ病が先行してアルコール依存症が合併するケースです。これとは逆にアルコール依存症が先行してうつ病を併発するのが(3)のケースです。
併発率21パーセント
うつ病とアルコール依存症の関係を調査したアメリカの研究によると、「現在依存症になっている人」のうちの21パーセントはうつ病患者でした。うつ病ではない一般住民は7%ですから、かなり高い併発率です。
うつ病では自殺の危険性を常に注意しなければなりませんが、アルコール依存症を併発したケースでは、危険性がさらに高まるとされています。
物質依存としてのアルコール依存
「特定の物質や行為・過程に対して、やめたくてもやめられない、ほどほどにできない状態」が医学で定義されるところの依存です。依存症は大きく二つの種類があります。
一つは「物質依存」、一つは「プロセスへの依存」です。アルコール依存症は、薬物依存とならぶ物質依存の代表的症状です。物質依存では、摂取を繰り返すことによって、以前と同じ量や回数では満足できなくなり、次第に使う量や回数が増えていき、使い続けなければ気がすまなくなり、自分でもコントロールできなくなってしまいます。
プロセス依存とは、特定の行為や過程に必要以上に熱中し、のめりこんでしまう症状で、ギャンブル依存症が代表的な症例です。このほかに、特定の人との人間関係に依存する関係依存と呼ばれるものがあります。ストーカー、DVはこのカテゴリーに含まれますが、精神医学では、依存症のひとつとはみなされていません。
アルコール依存を併発する経緯
うつ病になると、気分が落ち込みます。その気分から逃れるためにお酒に手を出します。また、うつ病につきものの不眠をどうにかするためにお酒の力を借りようとする人もいます。
しかし、うつ病そのものが治っていないのですから、一時的に効果があっても、長続きしません。そのうち、段々と飲酒量が増え、気が付けばアルコール依存症を併発していたということになります。
アルコール依存症の症状
1杯だけのつもりが2杯になり、3杯になり、結局、あるだけ飲んでしまのがアルコール依存の典型です。要は、飲む量と時間をコントロールできないのです。その結果、身体的、精神的に様々な症状がでてきます。
よく知られているのが離脱症状(禁断症状)です。軽・中度の場合、身体的には手のふるえ、発汗、心悸亢進、高血圧、嘔気、嘔吐、下痢、体温上昇、さむけなどがあらわれてきます。
精神的には、睡眠障害、不安感、うつ状態、イライラ感、落ち着かないなどの症状があらわれ、重度になると、けいれん発作、一過性の幻聴、せん妄などの意識障害があらわれてきます。アルコール依存症は、薬物依存と同じくらいに恐ろしい精神疾患です。
依存症の併発を防ぐためには
アルコール依存症は恐ろしい
アルコール依存症というのは、ある日、突然発症するという病気ではありません。蟻の小さな穴が徐々に広がり、やがて堤防が決壊するように、最初はほんの少しの酒から始まり、段々と酒量が増えて、気が付くとお酒が手放せなくなります。
うつ病による憂うつから逃れようとして、ついお酒に手を出したくなるとき、「ちょっと待て、その一杯が危険の元」と呟いてください。アルコール依存症の恐ろしさは既に述べた通りです。
そして、一般の人よりうつ病を患っていると、依存への危険な道に踏み出してしまいがちであるということを肝に銘じましょう。
元を断つ
かつて「臭いにおいは元から断つ」というCMがありました。うつ病が元でアルコール依存症への危険を避けるためにやるべきことは、その元であるうつ病の治療に取り組むことです。
お酒に手を出すことは、うつ病逃れに過ぎない、ということも肝に銘じておきましょう。
適度な運動と日光浴
何よりも早期にうつ病の治療に取り組むことです。治療の中心となるのは、休息、薬物療法、精神療法です。
休養は、うつ病の治療にとって、自明の前提です。この休養の中には、適度の運動と日光浴などが含まれます。運動による心地よい疲れは、睡眠を誘うという効果があります。
うつ病と日光浴は、一見遠回りの予防策に思われますが、実は神経伝達物質セロトニンと関係があるのです。精神の安定につながる神経伝達物質のセロトニンは、脳の覚醒を促し、これと相対する性質のメラトニンは睡眠を促す作用があります。
早期治療に取り組む
うつ病と判断されると、一般的には、抗うつ薬による治療が行なわれます。ただし、軽症の場合は薬の効果がそれほど期待できないこともあり、薬との相性を確認しながら治療が行われます。
なお、アルコールはうつ病の治療薬の効果を薄めてしまう、という指摘もあります。精神療法としては、支持的精神療法、認知療法、対人関係療法などがありますが、いずれにしろ、早期に治療にとりくむことが、アルコール依存をはじめとする精神疾患の併発を避ける早道です。
依存症も立派な精神疾患の一つ
アルコール依存症には、自己管理のできないだらしない人がなりやすい病気だと思われているフシがあります。しかし、アルコール依存症は、れっきとした精神疾患です。
誰でもうつ病になる可能性があるように、いったんうつ病になれば、だらしなくない人でもアルコール依存症になる可能性があります。併発を避けるためには、依存症の恐ろしさを知り、うつ病そのものの治療に取り組むことが重要です。