希死念慮をもつ人への良い接し方、悪い接し方とは?


希死念慮とは、「死にたい」とあれこれ思いめぐらすことです。周囲にそんな人がいれば、慎重な対応が求められます。本当に自殺しかねないのですから。

そもそも希死念慮とは

漠然と死にたいと考えること

「死にたい」、「生きていても仕方がない」、「死んで楽になりたい」と自死についてあれこれ考え、思い悩むことを希死念慮といいます。

死にたいと思ったことは、程度の差こそあれ多くの人が一度ならず体験しているのではないでしょうか。しかし、この場合、事業に失敗したとか、家庭が崩壊したとか、重い病にかかったといった理由があります。

希死念慮の場合、わけもなく漠然と死にたいという思いが募る状態です。

死にたい理由がはっきりしない

希死念慮は、先に述べたように死にたい理由がはっきりしないまま、それでも強く死にたいと思い悩む状態です。

これが、具体的に死ぬ方法について調べ始め、計画性が伴うようになると「自殺企図」と呼ばれる状態なります。

希死念慮と自殺企図は別の概念で、自殺企図の方が自死の可能性が高い。とはいえ、希死念慮も適切なケアがないと、自死にいたるリスクがあります。

うつ病でよくみられる

希死念慮は、うつ病にしばしばみられる症状です。臨床的な意味での希死念慮は、死にたいという気持ちが一定期間・持続して生じ続けている状態を指します。

このような状態を放置していると、希死念慮が徐々に増悪していき、自死に至る最悪の結果を招きかねません。ちなみに「増悪」は、「ぞうあく」と読み(憎悪ではありません)、症状が悪化していくことです。

周りの接し方によって生死が決まることも

理由はないけれど、死にたいという思いに支配されているのが希死念慮です。

様々な現実的な行き詰まりが原因で自殺企図の状態にある人に比べれば、希死念慮の方が自死のリスクは低いのですが、当人にとってみれば、自殺企図の人を同じように自覚的には極限状態の中で揺れ動いています。

ですから、周りの人の接し方次第では、希死念慮から自殺企図へ向かうこともあります。特にうつ病の場合は、要注意です。

良い接し方

友人から「死にたい」という思いを打ち明けられたら、どう対応したらいいでしょうか。

なにか特別の対応策というのがあるわけでもありません。

基本は、相手の気持ちを察し、受け止めながら、じっくり、丁寧に聞くということです。

話をしっかり聞く

まず、話しを聞き、「よく打ち明けてくれたね」と相手の決意をねぎらい、「辛いんだろうね」と相手の気持ちを受け止めることです。

また、「あなたが死んだら悲しい」「死なないで欲しい」という気持ちを相手に伝えることも忘れないようにしましょう。

ポイントは、思いやりを持って相手の話に耳を傾け、相手を思いやる姿勢を見せることです。

うつ病のようなら受診をすすめる

話を聞いていて、うつ病なのではないかと感じられたら、「それは、ひょっとしたら病気のせいかもしれない」ときちんと話すことも大切です。病気のせいなら、病気を治せば、希死念慮も消えて行きます。

とはいえ、精神科にかかることに抵抗感のある人は少なくありませんが、うつ病の人は、不眠、食欲不振などの身体的な症状に苦しんでいるケースが少なくありません。

じっくり話を聴いたうえで、「まず、不眠から治しましょうよ。一緒に行ってあげるから」と精神科の医療機関につなげるように話すことも重要です。

その人の思い、意見を尊重する

相手の思いや意見を尊重するということは希死念慮を抱く人に対して、とても重要なことです。

希死念慮を抱く人はなんらかの自己否定的な感情が大きくなっていますから、無視されたり、反論されると希死念慮が増悪していきます。

なお、うつ病のケースでは、回復して本人に意欲が戻っているときこそ注意が必要です。つまり、「自殺をするくらいの気力が戻った」と解釈して、注意を怠らないようにしてください。

悪い接し方

死にたいなどと言われたら、ビックリし、なにはさておき、「バカなこと言わないで」、「死んではだめ」など、躍起になって相手の思いを否定しがちです。

これは、褒められた対応とはいえません。

相手のつらさを否定する

「バカなことを言わないで」という言葉には悪意はありません。「そんなことを言わないで、頑張って」という善意に基づく、励ましの言葉です。

しかし、これを聞いた希死念慮の人は、素直に受け取ることができません。

自分の辛い気持ちが分かってもらえなくて否定されたと受け取り、自責の念が強まってきます。

頑張って!は避ける

また、善意に基づく「がんばって!」という励ましの言葉も避けるべきです。とくに、うつ病における希死念慮の状態にある人に対しては、禁句といってもいい言葉です。

うつ病と言うのは、心身のエネルギーが失われた状態です。頑張ろうにも頑張れない病気です。そこへ、「がんばって」と言われると、頑張れない自分を責めることになり、ますます気分が落ち込んでいきます。

説き伏せる言葉は避ける

「死にたい」と打ち明けられると、聞かされた方は、驚くと同時に怖れを感じます。そこで、ついつい躍起になって、説き伏せようとします。

しかし、やっとの思いで心を打ち明けた当人は、「この人にはわかってもらえない」と思い、「迷惑はかけられない」とも思い心を閉ざしてしまいます。

じっくりと話を聞き、「今度また、そんな気持ちになったら、是非、連絡してほしい。約束だよ」と付け加えるようにしましょう。

心無い言葉

打ち明けられて驚くと同時、「なーに、死にたいと言えるうちは死なないものさ」というクールな気持ちもあります。で、軽く受け流し、無視する人もいます。重大な決意で打ち明けた人を十二分に傷つける態度です。

全ての人がそうだとは言えませんが、そんな気持ちを抱く人の中には、そのことを言葉にしてしまうケースも見受けます。このような心無い言葉は避けましょう。

クールな気持ちで対応することが悪いわけではありません。自死以外の解決策を見いだせずに視野が狭くなっている相手に、クールな立場から、「こんな見方はできないかな」と押しつけではなく、参考意見として提示することはあってもいいことです。

本当の「死にたい」を見逃してはいけない

希死念慮における「死にたい」は、自殺企図とは違います。しかし、きちんと心のケアをしていないと、念慮が実行に移されるリスクが高くなります。

その危険なシグナルは、以下のようなものです。

●身辺整理を始める。
●手紙を書き始める。
●死のことを口にする。
●急に吹っ切れたように明るくなる。
●飲酒量が増える。
●服薬をやめてしまう。

このような兆候が見られたら、本人と話し合い、できれば専門の医療機関で治療に取り組むようにしてください。


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