今まで正式な疾患として認められていなかったゲーム依存症ですが、2018年、WHO(世界保健機関)が作成するICD(国際疾病分類)にはじめて登録されることになりました。疾病名は「Gaming disorder」(ゲーム症・障害)です。
目次
依存症とは
特定の何かに心を奪われ、やめたくても止まらない状態に陥るのが依存症です。依存症は大きく物質依存とプロセス依存に分けられますが、ゲーム障害は、プロセス依存に含まれる依存症です。
物質依存がアルコールや薬物などの物質への依存に対し、プロセス依存はある行為、過程に対してのめり込んでしまうことから行為依存症とも呼ばれています。ゲーム依存のほかにもギャンブル依存症、買い物依存症、性依存症など様々なものがあります。
急増するネット依存
近年、パソコンやスマートフォンの爆発的な普及に伴い、インターネットやオンラインゲーム、SNSに依存する人が急増し、世界的に大きな社会問題となってきています。
ネットに依存するようになると、自宅に引きこもりがちになるだけではなく、食事や入浴、睡眠もおろそかになり、まともな日常生活から逸脱したゲーム漬けの状態になります。何十時間もぶっ続けでネットだけをやり続け、ネットなしの生活が考えられなくなってしまうのです。
病気と認定されたゲーム依存症
こうした背景の中で、WHOは病気の世界的な統一基準であるICD(国際疾病分類)にネット依存の中のゲーム依存を疾病として初めて盛り込むことになりました。6月に公表が予定されているICDの最新版では、「ICD-11 Gaming(ゲーム症/ゲーム障害)」となります。
一方、アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-5では、「インターネットゲーム障害」(internet gaming disorder)という診断基準を「今後の研究のための病態」という項目として新たに設けています。
ゲームを含むネット依存はこれまで統一した定義がありませんでしたが、ICDに疾病と認定されたことをうけて、厚生労働省の国際分類情報管理室も「公表から数年後にICD―11を統計調査に使う」としています。
ゲーム症・障害の診断基準とは
ここでは、ICD-11とDSM-5における診断基準を紹介し、ゲーム症・障害によって派生する二次的障害についてふれることにします。
ICD-11による診断基準
ICDによる診断基準は次のようになっています。
1)ゲームに伴う深刻な問題が発生している。
2)ゲームのコントロールができない(臨床的特徴)。
3)ゲームを他の何にも増して優先する(臨床的特徴)。
4)ゲームにより問題が起きているのにゲームを続ける(臨床的特徴)。
5)上記の症状が12ヶ月以上継続している。
DSM-5による診断基準
DSM-5では、「インターネットゲーム障害」(internet gaming disorder)と名付けられていますが、その診断基準の要旨は次の通りです。
1)インターネットゲームにとらわれて、ゲームが日々の生活の中での主要な活動になっている。
2)インターネットゲームが取り去られた際のイライラ、不安といった離脱症状がある。
3)インターネットゲームに費やす時間が段々増大していく。
4)やめようと思っても止められない。
5)過去の趣味や娯楽への興味の喪失。
6)心理社会的な問題を知っているにも関わらず、過度にインターネットゲームの使用を続ける。
7)家族、治療者、または他者に対して、インターネットゲームの使用の程度について嘘をついたことがある。
8)無力感、ざいせきかん、不安などの否定的な気分を避けるため、あるいは和らげるためにインターネットゲームを使用する。
9)インターネットゲームへの参加のために、大事な交友関係、仕事、教育や雇用の機会を危うくした、または失ったことがある。
ゲーム症・障害で派生する深刻な二次的障害
ゲーム症・障害になると、神経過敏になり、ゲームから離れると一種の離脱症状がおきてきます。イライラや不安が募り、注意力や集中力が失われ、心ここに在らずといった状態になります。また、うつ状態に陥ることも珍しくありません。
その結果、不登校や引きこもりを誘発するということにもなりかねません。ゲーム症・障害が深刻な韓国の場合、ネット依存の75%が何らかの精神疾患を併発しているとの報告もあるくらいです。
ゲーム障害が引き起こす具体例
早くからネット依存の問題に取り組んできた国立病院機構久里浜医療センターの事例を紹介しておきます。同医療センターの外来患者の90%はオンラインゲームに依存している患者さんですが、「ゲーム障害が原因で過去6か月に起きた問題」という統計では、つぎのような問題が発生しています。
・引きこもりが33%、
・物に当たる・壊すが51%、
・家族に対する暴力が27%、
・朝起きられないが76%、
・昼夜逆転が60%です。この結果、12%が退学・放校となり、7%が失職しているということです。
ゲーム依存症にならないための予防策
わが国ではまだ認知度が低いゲーム症・障害ですが、これまで述べてきたようにそれは日常生活や人間関係に大きな支障をきたす深刻な疾病です。アルコール依存症などは大人の病ですが、ゲーム依存症は子どもたちにも蔓延するという点でより深刻な病です。そこで、それを防ぐための予防策のポイントをあげておきます。
大切な家族の絆
依存症の原因の一つとして指摘されているのが、「居場所のなさ」です。安心できる居場所、心が和む居場所がないために、ゲームの世界に逃げ込むということになるのです。
その居場所の中で、もっとも安心できるが家庭・家族です。家族の中の誰かがゲーム症・障害になったということは、家族のきずなにほころびがでている証拠だということもできます。家族の絆を大切にして、風通しのよい家族関係を維持することが予防につながります。
上手にストレス発散を
ストレス発散のために飲んでいた酒が、いつの間にか手放せなくなり、アルコール依存症になってしまったというケースは少なくありません。ミイラ取りがミイラになってしまうケースです。これはゲーム症・障害にもあてはまります。
加えて、インターネットゲームなどは、随所に“ハマる”工夫が凝らされていますから、依存症になる確率が高いと言えるでしょう。ゲーム以外にストレス発散の手段を用意しておくことがポイントです。
ゲームを取り上げても治らない
コンピュータのオンラインゲームにハマってしまって勉強どころではない子どもに対して、パソコンを取り上げたり、制限ツール導入したりするのは考え物です。依存症というのは、つらい現実からの緊急避難、あるいは自己治療という側面があります。
ゲームの世界に逃げ込むことで、自殺などの最悪のケースが避けられたともいえます。であってみれば、ゲームを禁ずる前に、そうした緊急避難を強いた環境ということに目を向けなければならないでしょう。
また、思春期の子どもなら、どのような手段を使ってもゲームを続けようとしますから、単に取り上げるだけで成功することはほとんどありません。むしろ、暴言、暴力などの反撃にあって、周囲が大変な思いをすることになります。
ですから、子どもに自分の問題を理解してもらい、自らゲーム時間を減らす、または完全に止めるように決断させ、それに向けて家族で努力するように導いてゆくことが大切です。
専門の医療機関で治療に取り組む
引きこもりからゲーム症・障害になったというケースがある一方で、ゲーム症・障害から引きこもりになったというケースがあります。前者のケースでは、まず引きこもりの治療に取り組み、後者の場合は、ゲーム症・障害の治療に取り組まなければなりません。
冒頭に述べたように、ゲームづけになっている状態は、いまやれっきとした病気と認定されるようになりました。全国に依存症の治療を専門的に行う医療機関がありますし、ゲーム症・障害などの特定の依存症の治療を得意とする医療機関もあります。地域の保健センター、保険所、精神保健福祉センターに相談して、医療機関を教えてもらい、早期に治療に取り組むことをお勧めします。
オンラインゲームは21世紀のアヘン
2015年現在、日本全体で約5000万人がインターネットを利用し、スマートフォンの利用者は4800万にのぼると言われています。ストレスや何かのはずみでゲームにハマってしまいゲーム症・障害になるリスクは年々高くなってきています。
実際、こうしたネットのオンラインゲームを「21世紀のアヘン」と警鐘をならす専門家もいます。ですから、ゲームに興じるとき、この危険を十分に自覚しておく必要があります。不幸にしてハマってしまって身動きが取れなくなったら、専門の医療機関に相談し、早めの治療に取り組むようにしましょう。