自律神経失調症と運動との関係が今回のテーマです。散歩やジョギングなどの有酸素運動が効果的ということはご存知のはずですが、それよりもハードな筋トレは有効なのでしょうか。
目次
そもそも自律神経失調症とは?
まず、自律神経失調症とはどんな症状なのかおさらいをしておきます。自律神経失調症とは、ストレスを主とした原因によって自律神経が上手く機能しないことによって起こる身体的・精神的症状の総称です。
自律神経の乱れがさまざまな症状をもたらす
私たちの人体に張り巡らされている神経は脳、脊髄の「中枢神経」と体中に張り巡らされている「末梢神経」に分けられ、末梢神経は、体性神経と自律神経に分けられます。体性神経というのは、意思によって体の各部を動かす神経、意思に関係なく刺激に反応して身体の機能を調整するのが自律神経です。
ところで、自律神経は、さらに交感神経と副交感神経に分けられます。交感神経は、体を活発に動かすときに働き、副交感神経は、体を休めるときに働きます。交感神経をアクセルに例えるならば、副交感神経はブレーキの役割を担った神経です。
通常では、この二つの神経がバランスをとりながら体の状態を調節していますが、強いストレスなどを受けるとこのバランスが崩れることがあります。この二つの神経のアンバランス状態によってあらわれてくる様々な症状が、自律神経失調症とよばれる症状群です。
自律神経失調症の多様な症状
自律神経失調症の症状は、数えきれないくらいあるといわれています。まず、めまい、全身倦怠、頭痛、手足の痛み、動悸、息切れ、不眠、食欲不振などなどの身体的症状があらわれます。
一方、怒りっぽい、不安になる、気分が落ち込む、やる気が出ない、自己嫌悪に陥る、物事に集中できない、物忘れがひどくなり、記憶力が低下するなどの精神症状もあらわれます。
特徴的なのは、同時にいくつもの症状があらわれ、時間とともに症状が変わってくることです。身体的症状を例にとると、頭痛やめまいに悩まされていて、症状がおさまったと思ったら、じんましんがでてきたといった具合です。
ストレスが大きな要因
自律神経失調症の一番大きな要因は、ストレスと生活習慣の乱れです。アルコールを要因とするケースや体質的な要因も挙げられますが、日常生活を営む中で鬱積したストレスと生活の乱れが自律神経の失調を誘発します。
ところで、ストレスというと人間関係の悩みといった心のストレスを連想しますが、体に負担がかかる不眠、疲労の蓄積といった体のストレスもあることを見逃さないようにしましょう。
自律神経失調症は季節の変わり目に乱れることがあります。一体に、交感神経は冬に活躍し、副交感神経は夏に活躍しやすいと言われていますが、この気温の変化に体がうまく適応できないと、アクセルとブレーキのギアチェンジが不調になり、自律神経が乱れます。
うつ病を誘発することも
憂うつで気分が落ち込む、すべてがむなしく思えてきて何となく悲しくなる、やる気がなくなって、全身がけだるいなどの抑うつ状態が長期にわたって続くのがうつ病です。自律神経失調症であらわれる精神的症状は、うつ病とよく似ています。
しかし、自律神経失調症は、病気というより、精神疾患の症状によく似た「症状」です。これに対して、うつ病は精神の病気です。但し、自律神経失調症による身体症状から、うつ状態になり、うつ病に移行するケースもみられます。
運動は、なぜ自律神経失調に効くのか
自律神経失調症の対策として推奨されているのは、有酸素運動です。有酸素運動とは、多くの酸素を必要とする運動をさします。ゆっくり走るジョギング、ウォーキング、エアロビクス、エアロバイク、ゆっくりした水泳などが有酸素運動です。
ストレス発散効果
自律神経失調症の大きな要因はストレスです。ストレスを発散させるもっとも手っ取り早くて誰でもできるのがジョギング、散歩などの有酸素運動です。
考えてもみてください。休日に時間を作って、公園でジョギングしてひと汗かく・・・。汗と一緒にストレスが蒸発してしまうような爽快な気分になるはずです。
そうして、いったんこの体験を味わうと、続けてみようという気になります。すると、自然と生活の乱れも修正されてくるものです。
有酸素運動の仕組み
交感神経(活動神経)は激しい運動などで働き、副交感神経(リラックス神経)はリラックスや深い深呼吸などで働きます。有酸素運動は主に副交感神経を活性化させる運動です。
有酸素運動をしているときは、交換神経も働いていますが、同時に眠っていた副交感神経が活発に働き、自律神経のバランスが回復する効果があります。30分を目安に定期的に有酸素運動を実践するようにしましょう。
運動するとセロトニンが増える
ストレスに晒されると脳の前頭前野・海馬などが萎縮し、BDNF(脳由来神経栄養因子)が低下してきます。BDNFが低下すると、セロトニンやノルアドレナリンなどの分泌も不活発になります。
ここで注目すべきはセロトニンです。セロトニンは、ドーパミン、ノルアドレナリンとともに脳内や中枢神系で働く三大神経伝達物質です。
快楽や喜びの感情を司るのがドーパミン、怒りや不安の感情を司るのがノルアドレナリン、そしてこの二つの神経伝達物質を制御し、精神を安定させるのがセロトニンです。
つまり、セロトニンが低下すると、これら二つのコントロールが不安定になりますが、運動をするとこのセロトニンが増加すると言われているのです。
朝日を浴びて運動する
日に当たるセロトニンが増えるといわれています。実際に、日照時間の短い冬には季節性のうつ病が発症するともいわれているのです。
できることなら、朝日を浴びて運動することをお勧めします。なぜなら、朝早く起き出して運動するということは、生活習慣の乱れを克服した証拠ともいえるのですから。
筋力トレーニングも効果的?
これまでに述べてきた有酸素運動は、穏やかな運動です。ところが、筋トレというちょっとハードな運動も効果があることがわかってきています。
海外で注目されている無酸素運動の効果
有酸素運動に対して無酸素運動というのがあります。無酸素運動は、基礎代謝を増やす運動で、筋力トレーニング、短距離走などをさします。
最近の海外での研究では、無酸素運動も抗うつ効果があることが報告されています。この抗うつ効果は、自律神経失調症にも適用できます。
筋トレによる抗うつ効果
東海大学の保坂隆先生は、「不安とうつに対する運動療法の有効性」という論文で海外における最近の研究事例を紹介されています。
その一部を引用すると、40人のうつ病患者を<ランニング群(有酸素)> と<筋トレ群(無酸素)>に分けて運動させたところ両群とも抗うつ効果が認められたため、有酸素、無酸素運動はともに抗うつ効果があることが明らかになったと報告されています。
あくまで有効な手段の一つ
ざっと、自律神経失調症に効果のある運動療法をみてきましたが、これが全てでないことはいうまでもありません。運動療法はあくまで、補助的な療法ですから、過信するのは禁物です。
症状がひどいようなら、専門の医療機関で診断をうけた上で、本格的な治療に取り組むようにしてください。治療のメインは、休養、薬物療法、精神療法です。
ちなみに、薬物療法では、セロトニンとノルアドレナリンに働きかけるSSRI(選択的セロトニン再取り込阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込阻害薬)が用いられています。