強いストレスや悲惨で辛い体験などを原因として発症するのが、解離性障害です。今回のテーマである解離性健忘とは、解離性障害の中にあらわれる症状です。
そこでは、主として自伝的記憶(個人的な記憶)を思い出せなくなります。では、いったん失われた記憶は、戻ってくるのでしょうか。
目次
解離性健忘とは
「健忘」に「解離性」という言葉がついています。認知症や脳の器質的な損傷による物忘れ・記憶喪失とは異なるということです。では、解離性とは、どういうことでしょうか。
解離性とは?
解離性障害は、自分が自分であるという感覚が失われている状態です。私たちは、自分の思考や記憶や感覚が自分のものであるという確信を抱いて暮らしています(自己同一性)。
解離性障害の「解離」というのは、この感覚が崩れた状態です。たとえば、過去の記憶や自分自身の考え、あるいは感情、行動の一部が、自分の意識から勝手に切り離された状態です。
「解離」のメカニズム
では、どうしてこんな解離状態になるのでしょうか。原因としては、ストレスや災害、事故、暴行、性的虐待、監禁状態などの心的外傷が関係しているといわれます。
人は誰でも悲惨でつらい体験など思い出したくありません。そのため、悲惨な体験を思い出させる人や場所を回避することで自分を守ろうとします。
しかし、どんなに頑張っても回避できず、もうこれ以上耐えられないと脳が判断すると、脳は悲惨な感情などを自分の意識から切り離します。これが解離のメカニズムです。
解離性障害のさまざまなタイプ
解離性障害は、その症状によってさまざまな種類に分類されています。世界保健機構の診断ガイドラインでは、おもなタイプとして以下のようなものをあげています。
●離人症:自分が体験していることを、自分を見下ろす自分が眺めているような現実感覚が失われた状態。
●解離性とん走:突然、放浪に出て、放浪中は名前や住所などについての記憶が失われる。ただし、着替えや電車に乗るなどといった日常生活には支障はない。
●トランス:睡眠状態や宗教儀礼における祈祷師のように憑依状態になる。
●解離性同一障害:多重人格障害。一人の人間の中に複数の人格が存在する障害。
解離性健忘の症状
解離性障害の中の解離性健忘をもう少し詳しくみて行きましょう。
ストレスと心的外傷を契機として発症
解離性健忘は脳の器質的損傷ではなく、精神的ストレスや心的外傷を契機として発症します。具体的には、事件・事故や災害、虐待などのほか、借金や貧困といった経済問題、失恋や離婚といった異性・婚姻問題などが挙げられます。
10~30歳代の比較的若い年齢層に多く、男性のほうが女性よりも比較的に多いとされています。
失われるのは自伝的記憶
解離性健忘で失われるのは、自伝的記憶(個人的な記憶)です。「自分は誰か」、「自分は何処へ行ったのか」、「何をしたのか」、「そのときどう感じたのか」といった自分に関わった体験的な出来事を思い出せなくなります。
まれに、自分の名前も経歴も何もかもすべて思い出せない場合もあります。ただし、一般的な出来事や社会常識などの記憶は保たれています。
身に覚えのないことをやってしまっている
解離性健忘になると、日常生活の中で、身に覚えのないことをやってしまっていることがあります。正確には、その時々の自分の行動や発言の記憶がスポッと抜けているのです。
たとえば、メールの送信履歴の中にまったく記憶にないメールを送ったりしています。こういうことが重なると、なんだか怖くなり、不安になり、抑うつ症状を示すようになるケースもあります。
また、体験したことを忘れてしまうため、忘れていること自体に気づかないこともあり、解離性健忘の自覚のない人も少なくありません。
解離性健忘の種類
解離性健忘は、忘れ方の形によっていくつかの種類があります。
●選択的健忘:ある特定の間におこったできごとの一部分だけ思い出せて、他は覚えていないという症状です。
●全般性健忘:今まで経験してきたことをすべて忘れてしまう症状です。自分のことも忘れてしまうこともあります。
●系統的健忘:特定の分類に関する情報を思いだせなくなります。例えば恋人に関する記憶が思い出せなくなってしまうなどです。
●持続性健忘:新しい出来事を忘れてしまう症状です。
失われた記憶の期間は?
自己防御のために思い出したくない辛くて悲惨な体験の記憶が空白になっているというのが解離性健忘です。
解離性健忘の多くでは、1つまたは複数の記憶の空白期間がみられます。その記憶喪失の期間は、人によってさまざまです。
数分から数時間のことを忘れてしまっている人もいれば、数日間から数年間にわたって忘れてしまっている人もいます。中には、これまでに経験したことをすべて忘れてしまう例も報告されています。
記憶は戻るの?
直ぐにもどることもあれば、戻らないケースもあります。トラウマをどう乗り越えるかがポイントです。
解離性健忘になったサラリーマンの症例
あるサラリーマン(27歳)の症例を紹介します。会社に入って4年目のある日、朝起床すると、自分がなぜこの部屋にいるのか、そこは何処なのかが分からなくなっていました。
記憶を思い出そうとしても、大学を卒業した頃からの記憶が思い出せません。2日間ほど遁走し、自力で実家に戻ったところを母親に保護され、入院して治療に取り組むことになりました。
治療によって、発症時以降の記憶については思い出すことはできたものの、大学最後の半年間と就職して4年間の全てを思い出すことはできませんでした。原因としては、発症前の半年間、仕事で多忙を極めた状態が持続していたこと、同時に恋人との結婚にかかわる問題を抱えていたからだと思われました。最終的には、4年間の記憶がほぼ回復したが、発症前の約半年間は思い出せないままでした。
戻るケースと戻らないケース
トラウマになった状況やストレス環境から離れると、記憶がすぐに蘇るケースもあれば、健忘が長期に渡ることもあります。
症状の重さによって回復状況は異なるのですが、サラリーマンの症例のように解離性とん走を起こしたケースでは、健忘が長引き、一部の記憶が戻らないこともあります。
しかし、多くのケースでは健忘の原因となった状況から抜け出せば、欠落していた記憶がよみがえってきます。
解離性健忘症の治療
解離性健忘症の治療は、精神療法の中の支持的療法が中心となります。ここで用いられている「支持」には、患者さんを精神的にバックアップするという意味合いがあります。
つまり、患者が抱えている不安や、悩み、孤独感などを一緒に考え、解決の糸口を見つけていきます。支持療法では、患者の訴えに対して、その考えは間違っている、といった価値判断は行わず、根拠のない励ましも禁物です。
治療者は、患者の話に耳を傾け、患者との信頼関係を築いた上で、精神的に自立できるように誘導していきます。
記憶が回復くしない場合の想起法
支持的療法は一種のカウンセリングです。これで記憶が回復することもありますが、回復しない場合や、早急に記憶を取り戻す必要がある場合は、催眠と薬物を使用した想起法が用いられることがあります。
これは、催眠下において、まれにはバルビツール酸系またはベンゾジアゼピン系薬剤などの薬剤で誘導した半催眠状態で、治療者が患者に質問していく方法です。治療者は、患者の記憶障害の原因となった心的外傷の状況について言葉を選びながら質問し、徐々に思い出させて、自己同一性、連続性を回復させていきます。
ただし、この療法では、間違った記憶を作り出すリスクもありますから、他者や情報源による確認も必要になります。そのため、医師は再生された記憶が正確でない場合もあるということを告げ、患者の同意を得たうえで治療に取り組むことになっています。
専門医で治療に取り組む
たとえば、自律神経失調症になると、動悸、吐き気、下痢、便秘、頭痛、耳鳴りなどなどのさまざまな障害があらわれてきます。自律神経失調症の場合、それが根本治療ではないとしても、生活習慣の改善などの自己治療で、予防したり、病気の進行を遅らせたりすることができます。
しかし、解離性障害に関しては、有効な自己治療の手立てがみつかりません。専門の医師に診断してもらい、早期に的確な治療に取り組むことが重要です。
解離性障害の診察承ります
解離性障害の専門医が在籍している下記医療機関で診察を承ります。
鈴泉クリニック
溜池山王駅・国会議事堂前駅を出てすぐ近くの精神疾患診療を行うクリニック。うつ病、統合失調症、適応障害などの精神疾患診療、不登校、不適応、ひきこもりなど幅広く対応しています。
解離性障害の専門医「岡野憲一郎」が在籍。初診予約は大変混み合いますのでまずはお問い合わせください。
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