適応障害は、環境の変化に適応できず、そのストレスによって心身に何らかの症状があらわれる精神疾患です。
環境が大きく変化した時に誰にでも起こり得る病気で、有病率は5~20%とも言われています。
目次
仕事における適応障害
ICD-10(世界保健機構の診断ガイドライン)では、適応障害を「ストレス因により引き起こされる情緒面や行動面の症状で、社会的機能が著しく障害されている状態」と定義しています。
ストレス因のたまり場としての職場
適応障害のストレス因のたまり場ともいえるのが職場です。
仕事そのものに対するストレスと同時に職場の中の人間関係からくるストレスがきっかけになることもあります。
ですから、仕事はバリバリできるのに、人間関係がうまくいかなくて発症するというケースも少なくありません。
環境の変化がきっかけになりやすい
もう少し具体的に見てみましょう。
新卒の新入社員というのは、入社そのものが大きな環境の変化です。
「五月病」と呼ばれる症状があります。
これは、入学や入社という未経験の新しい環境になじめない新人がかかる適応障害の一種といってもいいでしょう。
出世して管理職になった人がかかるケースも少なくありません。
本人は意識していなくても、責任感が重くのしかかり、これがストレスとなって発症するというケースもあります。
適応障害の症状
適応障害は、心と体と仕事の面にあらわれます。
心の変調としては、不眠、不安、気分の落ち込み、イライラなどがでてきます。
体の変調としては、胸のドキドキ、吐き気、便秘、めまい、ふるえなどの症状がでてきます。
また、仕事に集中できない、考えがまとまらない、物忘れがひどくなるなど、仕事に差し障のある症状がでてきます。
このほか、酒量が増える、タバコが増えるなどの行動面でも変調をきたしてきます。
適応障害とうつ病との違い
適応障害のさまざまな症状は、うつ病とよく似ています。
ただし、うつ病は常に憂うつで、何事も楽しめないのに対し、適応障害はストレス環境から離れると症状が改善します。
たとえば、仕事上の問題がストレス因となっている場合、仕事から解放された休日になると憂うつ気分も和らぎ、趣味を楽しむことができる場合もあります。
しかし、うつ病となると環境が変わっても気分は晴れず、持続的に憂うつ気分は続き、何も楽しめなくなります。
また、意欲も喪失し、食欲が低下し、不眠などがでてきます。
こうした抑うつ状態が2週間以上続くようであれば、うつ病をの可能性が高くなります。
白い目で見られがちな症状
同じストレスでも大きな負荷になる人もあれば、それなりにやり過ごせる人がいます。
たとえば、新人研修を受けて、似たような業務を行っていても、それを楽にこなしてしまう人もいれば、負担に感じる人もいるはずです。
このようにストレスには、個人差があります。
したがって、適応障害は、環境要因のほかに本人要因があるということなります。
ここから、適応障害に対して、「その程度のストレスで病気になるなんて・・・」、とか「(本人が)甘えている」いった具合に白い目で見られがちです。
しかし、周りから見れば些細なことでも、本人と折り合いがつかない部分と言うのは、誰しもあることですし、本人自身もそのことは承知の上で、どうにも出来なくて悩んでいます。
適応障害と転職
適応障害のストレス要因が職場にあるということが明らかになった時、その職場を離れる、つまり転職するというのは選択肢の一つです。
しかし、転職に際しては、そのデメリットも考慮に入れた上での決断が求められます。
転職のメリット 心機一転、再スタート
転職のメリットは、何と言っても心機一転して、再スタートができることです。
特に社内の人間関係がストレス要因になっているような場合、「転職しかない」、と思い込むのは頷けるところです。
というのも、会社側が本人のストレスを配慮して人事異動を行うということはあまり期待できません。
そうして、ストレスに耐えている間に、うつ病へ移行するというケースもありますから、事態をより悪化させないためにも転職は有力な選択肢になります。
転職のデメリット
心機一転の再スタートということは、仕事の面でゼロからのスタートということです。
転職者の中には、いったん休職して転職したというケースもあります。
この場合、適応障害による休職は転職先に伝えないか、伝えた場合は完治して問題はない、と申告しているはずです。
したがって、ゼロからのフルスタートということになり、今度は業務面でのストレスが大きくなることが予測されます。
十分に転職先をリサーチする
転職の理想は、ストレスの少ない職場で、これまでの業務経験を活かせる職場であることです。
そのためには、事前に転職先の人事制度や社風、業務内容などネットなどで検索し、十分にリサーチしたうえで決断しなければなりません。
同じ職場でやっていけることもある
転職も一つの解決策ですが、その前に復職を前提した休職も検討しましょう。
むしろ、転職よりも先に、休職⇒復職コースを検討すべきでしょう。
会社の対応も期待できる
適応障害という診断のもとで休職し、復職する場合、会社の方で環境に配慮して復帰のバックアップする会社が増えてきています。
たとえば、一定期間、残業・休日出勤・出張不可などの指示が、産業医から人事部を通じて出されます。
部署や立場が違うだけでも変わる
復職に際して、従来のストレスの多い部署から別の部署へ配属されることもあります。
部署が変わり、人間関係の環境が変わって、たとえばストレスの元になっていたパワハラ上司がいないだけで、気持ちが明るくなり、やる気も復活してきます。
自分を見つめる
適応障害のストレス因として、本人要因も無視できないところです。
本人要因と言うのは、本人の考え方や感じ方の歪みです。
ですから、休職するにしろ転職するにしろ、今、自分が直面しているストレス環境と向き合って、何がどうストレスになっているかを冷静に見つめる態度も欠かせません。
また、自分なりにストレス発散の手法を身に付ける努力も必要です。
とはいえ、自分で処理できないから適応障害になったということでもおありますから、症状がひどい場合は、専門医の診断を受けて治療に取り組むことをすすめします。
広いものの考え方をする
適応障害の治療は主として精神療法の中の認知行動療法と呼ばれるカウンセリング方法が用いられています。
その主眼は、本人の認知(考え方や感じ方)のパターンをカウンセリングによって明らかになった問題点を修正していく療法です。
要は、もっと広いものの見方あや考え方をしましょう、ということにつきます。
そして、このことを自覚して本人が主体的に取り組むことがポイントです。