適応障害が原因の引きこもり、社会復帰はできる?



内閣府の「若者の生活に関する調査報告書(平成289)によると、広義のひきこもり状態にある者は、54.1万人、狭義のひきこもり状態にある者17.6万人となっています。
引きこもりの原因は様々ですが、今回は適応障害が原因で引きこもりになった人たちにスポットをあて、社会復帰への道を考えてみました。

引きこもりとは?

現在、厚生労働省は、「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態」を引きこもりと定義しています。
時々は買い物などで外出することもあるという場合も「ひきこもり」に含めます。

引きこもり人口100万人

広義の引きこもり54.1万人というのは、15歳~39歳までの人たちを対象にした調査です。
最近では、40歳以上の引きこもりも増えてきていて、すべての世代を含めると100万人近いのではないかと推測されています。
人手不足が深刻な中にあって、これだけの潜在的労働力が眠っているわけです。

増える社会的引きこもり

引きこもりの要因としてあげられるのが、統合失調症、適応障害などの精神疾患です。
実際、10年くらい前までのサポート対策としては、精神疾患のためになかなか社会参加が出来ない人に対する地域精神保健が中心になっていました。

しかし、最近では、10代で不登校をしている人々の数が増加してきています。その結果、就学年齢を過ぎても、会社に就職して社会人として自立できない人も増えてきています。
そこで、狭義の精神疾患とは呼べないのに「ひきこもり」を呈している人々へのサポート体制に重点がうつってきています。
この引きこもりは「社会的引きこもり」と呼ばれていますが、今回のテーマは、精神疾患を原因とする引きこもりです。
「病気ではない引きこもり」(社会的引きこもり)は、別の機会にふれることにします。

生物学的要因による引きこもり

引きこもりの要因としては、大きく二つに分けることができます。

一つは、精神疾患などの生物学的要因が影響して引きこもり状態に陥っているケース。
一つは、いじめや会社でのパワハラなどで心理的に追い詰められて引きこもりになったケースです。先にあげた社会的引きこもりがこれに該当しますが、数的には、前者のケースが多いようです。
なお、生物学的要因と言うのは、適応障害、統合失調症、うつ病、強迫性障害、パニック障害などの精神疾患にかかっている人々の引きこもりです。

適応障害と引きこもり

ICD-10(世界保健機構の診断ガイドライン)では、適応障害を「ストレス因により引き起こされる情緒面や行動面の症状で、社会的機能が著しく障害されている状態」と定義しています。
この適応障害を一つの要因として、引きこもりという状態に陥るケースが少なくありません。

引きこもりと関係する精神疾患

厚生労働省の「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」では、引きこもりと関係が深い精神障害として、以下のような精神障害をあげています。

1 適応障害

2 不安障害

3 気分障害

4 強迫性障害

5 パーソナリティ障害

6 統合失調症

7 対人恐怖的な妄想性障害や選択制緘黙など児童思春期に特有な精神障害

8 広汎性発達障害

9 注意欠如・多動性障害

10 知的障害・学習障害

引きこもりの18%は、精神科への通院・入院歴がある

「若者の生活に関する調査報告書」によると、引きこもりの人たちの18%は、それまでに精神科の医療機関に通院・入院しています。
引きこもりが精神疾患と深いかかわりがあることがわかります。
ちなみに、一般の人は、4.5%です。

元凶はストレス

引きこもりの要因の一つにあげられる適応障害ですが、では、適応障害の要因は何かと言うとストレスです。
中でも職場におけるストレスから適応障害になり、ついに引きこもり状態になってしまったというケースが少なくありません。
先にあげた「若者の生活に関する調査報告書」によると、引きこもりの人たちの27%が「正社員だった」人たちで、「契約社員だった」人が35%、「働いたことがない」人は27%です。つまり、引きこもりの人の大半は、職場経験のある人たちです。

ストレス因のたまり場としての職場

適応障害のストレス因のたまり場ともいえるのが職場です。
仕事そのものに対するストレスと同時に職場の中の人間関係からくるストレスがきっかけになることもあります。
ですから、仕事はバリバリできるのに、人間関係がうまくいかなくて発症するというケースも少なくありません。

適応障害から病名のつく精神疾患へ

適応障害は、ストレス環境に耐えきれずおこるものですが、実は、他の精神疾患には当てはまりきれない症状の時につけられる病名という側面があります。ですから、他の精神疾患であると診断されるとつけられない病名です。
注意しなければならないことは、適応障害はうつ病のほかにその他の精神疾患に移行するケースがあるということです。
つまり、病名の付く精神疾患に移行するわけです。

適応障害から引きこもりへ

適応障害といってもいろいろなタイプがあります。
早稲田大学人間科学部の野村忍教授は、適応障害のタイプとして、症状別に以下のように分類されています。引きこもりもこの中に含まれています(タイプ6)。

1)    不安気分を伴う適応障害(不安、神経過敏、心配、いらいらなどの症状が優勢)

2)    抑うつ気分を伴う適応障害(抑うつ気分、涙もろさ、希望のなさなどの症状が優勢)

3)    行為の障害を伴う適応障害

4)    情動と行為の混合した障害を伴う適応障害(情動面の症状(不安、抑うつ)と行為の障害の両方がみられるもの)

5)    身体的愁訴を伴う適応障害(疲労感、頭痛、腰痛、不眠などの身体症状が優勢)

6)    引きこもりを伴う適応障害(社会的ひきこもりが優勢)

引きこもりからの社会復帰への道

適応障害を起因として引きこもりになった場合、まず、適応障害の治療に取り組むべきですが、このほか公的サポートを活用することも視野にいれておきましょう。

カウンセリングによる認知療法

精神科の医療機関では、主に認知行動療法と呼ばれるカウンセリングで治療を行います。
ストレスに対して本人はどのように受け止めているかを観察していくと、受け止め方にあるパターンがあることが多く見られます。
このパターンに対してアプローチしていくのが認知行動療法です。
また、現在抱えている問題と症状に焦点を当てて、治療者と被治療者が協同して解決方法を見出していく問題解決療法もあります。
このほか、情緒面や行動面に対しては、薬物療法も採用されています。

引きこもり地域支援センター

厚生労働省では、「ひきこもり対策推進事業」を創設してひきこもり対策に取り組んでいます。その相談窓口として都道府県や指定都市に設置されているのが、「ひきこもり地域支援センター」です。
センターには、社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士などひきこもり支援コーディネーターがいて、ひきこもりの状態にある本人や家族が、地域の中でまずどこに相談したらよいかなどの第1次情報を提供しています。
この情報をもとに、自分にあった支援機関を探し、対策に取り組むことをおすすめします。

就労移行支援事業所を利用する

就労移行支援事業とは、就労の意志のある65歳未満の障害者(精神障害も含まれます)を対象に、就労に必要な知識と技能などを実施する訓練機関です。
運営しているのは、社会福祉法人、営利法人(株式会社)、地方公共団体、NPO法人、医療法人などですが、訓練のほか就活支援もおこなっています。
就労移行支援事業所は、一種の訓練機関ですから、利用料金が発生しますが、所得などを基準にした所得区分によって、ある一定の所得以下の場合は、無料になっています。(表参照)
また、交通費は原則、自己負担ですが、一部の自治体では一定の基準を満たす方を対象に交通費の助成金を出している場合もあるようです。
詳しくはお近くの自治体の行政窓口で確認してください。

●就労移行支援事業所の利用料金
区分 世帯の収入状況 負担上限月額
生活保護 生活保護受給世帯 0円
低所得 市町村民税非課税世帯㊟1 0円
一般1 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満)㊟2 9,300円
一般2 上記以外 37,200円

㊟1:3人世帯で障害者基礎年金1級需給の場合、収入が概ね300万円以下の世帯が対象となります。
㊟2:収入が概ね600万以下の世帯が対象になります。

 

引きこもりの長期化をさけるために

適応障害を起因とする引きこもりは、専門の医療機関で障害そのものを治療することを優先しなければなりませんが、本人が出たがらないという厄介な問題があります。
そこで、多くの場合、家族相談から始まります。
「本人がいなければ無意味では?」という疑問もあるかもしれませんが、家族相談は非常に有意義です。

まず、医師が家族からの情報をもとに、受診や介入のタイミングをはかります。また、ひきこもり初期の段階で家族に適切な対応方法を伝えることで、親子関係の改善をはかることができるのです。
いったん引きこもり状態になると、その状態が長期化するというのが引きこもりの特色です。
一日も早く、専門機関に相談し、専門的な治療に取り組み、通院できるような段階になったら、並行して社会復帰のための支援機関を活用することをお勧めします。