現在ADHDの治療薬として認められている薬はコンサータとストラテラの二種類です。
両者の効果は概ね同じですが、脳に作用するメカニズムは大きく異なります。それぞれの薬は一長一短があります。どのような違いがあるかまとめてみました。
目次
コンサータの特徴
中枢神経を刺激して脳の機能を活性化させる
人間が「やる気」を引き出したり「集中力」を維持するにはドーパミンという脳内物質が必要と言われています。ADHDの方に「集中力」「注意力」に問題がみられるはこのドーパミンの不足が原因と言われています。脳の中枢神経を刺激することでドーパミンの濃度を高めることでできます。
リタリンに変わる治療薬として登場
コンサータの主成分であるメチルフェニデートが薬剤として使用され始めたのはかなり古く1950年まで遡ります。メチルフェニデートを使用した薬で最も有名なものはリタリンです。リタリンは脳の中枢神経を刺激してノルアドレナリンやドーパミンなどの分泌を促す作用があります。
ADHD特有の集中力や落ち着きのなさの改善に効果がみられ、多くの病院で広く処方されていました。しかし強い作用がある反面、高い依存性を併せ持ち、一部の医師による無秩序な処方が多くの依存症患者を生み出しました。その為メチルフェニデートは非常に危険な薬品として世間に認知されるようになります。現在ADHDの治療薬としてリタリンは使用することは認められていません。リタリンに代わって登場したのがコンサータです。
リタリンとコンサータの違い
リタリンとコンサータの成分はメチルフェニデートです。メチルフェニデートは劇薬に指定されて危険な薬品です。ではなぜ同じ成分のリタリンと異なりコンサータは治療薬として認められたのでしょうか。
リタリンは服用してからすぐに強い効果が現れる一方で薬が作用する時間が非常に短い欠点がありました。その為一日3回の服用が必要だったのです。作用が急速な一方で血中濃度がピークを超えると急激に効果が弱まり、次の服用時は全く薬が作用していない状態ということになってしまいます。その極端な谷の状態が薬への渇望を増長させ、依存症を引き起こします。
コンサータは徐放性(じょほうせい)という特性でこの欠点を補いました。このタイプのお薬は服用してから時間をかけつつ徐々に溶け出し効果が現れ始めます。リタリンのような急激な効果はありませんが、薬の作用が長時間にわたって続くため、一日一度の服用で済みます。
薬の血中濃度の一定に保たれるため、次の服用時にも薬は切れていないのです。薬が欲しいという状況にはなりにくいので、依存症のリスクは減ったといえます。ただし劇薬であることは同じなので流通管理は他の薬剤と比較して厳格であり、上記のリスクを理解できる指定された医師の処方のみ調剤が可能です。
どんな作用があるか
メチルフェニデートがどのような作用でADHDの症状に対し効果を示すのかは実は十分にわかっていません。ADHDの方の脳はドーパミンやノルアドレナリンが不足していると言われています。ドーパミンやノルアドレナリンは人間の「集中力」や「やる気」を維持する上で必要不可欠です。
脳内に放出されたドーパミンなどの脳内物質のうち余ったものは、再び脳神経に取り込まれます。ADHDの傾向の人はそれらの物質が取りこまれてしまう量が多すぎると言われています。そのためドーパミン等が常に不足傾向にあるのです。メチルフェニデートは中枢神経内でそれらの物質が再び回収されることを妨害する働きがあると言われています。回収できなかったドーパミンなどは脳にとどまり続け作用し続けます。
この薬を投与すると落ち着きのなさや集中力の改善に効果を示す場合があります。学童期のADHD傾向の児童が服用することで落ち着いて授業に参加することが期待できるかもしれません。またラットの実験で短期記憶力が上昇するという報告があるため、物忘れ等にも効果があるかもしれません。この薬の目的はADHDの根治ではなく、症状の緩和です。なお6歳未満の患者に対する安全性は確立されていないため使用できません。
同成分のリタリンと比較して、効果は穏やかですが、正しく服用すれば安定した作用が続きます。成分のメチルフェニデートは危険な薬物である為医師の指示を無視した服薬は生命に重大な危険を及ぼします。ADHDというのはあくまで個人の脳の特性であるため、かならず治療しなければならないものではありません。コンサータの使用はADHDの症状緩和の選択肢の一つですが、薬を使用しない方法でも日常生活の質を改善させる手段が存在します。服薬によって得られるメリットと副作用などのリスクを比較しながら慎重に使用を検討してください。
副作用はあるの?
・小児に長期間投与した場合、体重増加が抑制されるというデータがあります。成長に悪影響を及ぼす可能性があるので、医師の指示によって服薬が中止されることがあります。
・過度の不安状態、緊張、興奮状態にある患者さんに投与すると症状が悪化する恐れがあります。
・興奮作用がありますので、不眠を予防するため午後以降の服用は原則としてできません。
・乱用すると依存症になりますので、医師の指示を絶対に守ってください。
・クロニジンという高血圧の治療薬と併用した場合、突然死のリスクがあります。
ストラテラの特徴
前頭葉のノルアドレナリン濃度を高める
リタリンやコンサータは脳の中枢神経を刺激することでドーパミンの放出を促しますが、ストラテラは脳の前頭葉のノルアドレナリンのみへ作用します。
ストラテラは前頭葉のノルアドレナリントランスポーターの回収を阻害する作用があります。ノルアドレナリントランスポーターというのは神経細胞から放出されたノルアドレナリンのうちの余ったものを細胞内に再び回収する運び屋のようなものです。回収された分だけ脳内のノルアドレナリンは減ってしまいます。ADHDの方の脳はノルアドレナリンが不足しているとも言われ、その不足が衝動性のコントールのしづらさの原因であると言われています。
ストラテラはこのトランスポーターがノルアドレナリンを回収することを邪魔する作用があります。トランスポーターが回収できなかったノルアドレナリンは脳内で作用し続けるので、ノルアドレナリンの不足を防止できるのです。またノルアドレナリン系の神経が活性化されると、前頭葉のドーパミンの分泌も活性化されると言われています。
前頭葉は中枢神経とは異なり人間の衝動性をコントールする部位で、ADHDの方特有の衝動性のコントールのしづらさの改善に効果が期待できます。リタリンやコンサータのようなに短時間での劇的な効果は得られない一方で上記の特性上依存性は生み出されにくいのです。
効果が現れるまでに時間がかかる
この薬にはリタリンやコンサータと異なり即効性はありません。効果がでるまでには数ヶ月以上の時間を要する場合もあります。ADHDの方の特性として、忘れっぽいことと飽きやすいことが挙げられます。
長期間に渡って安定して服用しなければ効果が得られないため。飲み忘れが続けば永遠に効果は現れません。短期的な結果が得にくいため、「飽き」が起きてしまい。飲むことを放棄してしまうこともあります。医師からストラテラを初めて処方される際にイーライリリー社が発行した、医師とのコミュニケーション手帳を渡されます。この手帳はストラテラの服薬チェックリストを兼ねており、毎日の服用状況と体調を記録することで安定、継続した服薬を期待できます。薬のよるあなたの変化は、自身よりも周囲が先に気がつく場合もあります。
コンサータとストラテラの併用は可能か
併用は禁忌ではありませんがコンサータもストラテラのノルアドレナリンに影響する薬なので、併用すれば相乗的に作用が増強されます。その為使用には十分な注意が必要です。一方の薬での効果が不十分な場合には併用される場合があります。
まとめ
・ストラテラは前頭葉のノルアドレナリンの濃度を高め、衝動性をコントロールしたり落ち着きのなさを改善するする作用がある。
・コンサータは短期間で効果が期待できる反面、依存性のリスクがゼロとは言い切れない。また処方できる薬局も限られている。
・ストラテラは中枢神経ではなく前頭葉のみに作用するため、依存性のリスクが無い。効果を実感するためには長期的かつ計画的な服用が必要。