発達障害の中にADHDと呼ばれる障害があります。発達年齢に見合わない多動‐衝動性、あるいは不注意、またはその両方の症状が、7歳ころまでに現れるとされる症状です。
学童期の子どもには3~7%存在するとされていますが、最近では子どもだけではなく大人になってからADHDと診断される人も多く、注目を浴びています。このADHDの中で意外と知られていないのが、うっかりして何かを忘れることが多くなるということです。
目次
ADHD3つのタイプ
ADHDは、3つのタイプがあります。
一つは、不注意が目立つタイプ(不注意優勢型)。
一つは、両方が目立つタイプ(混合型)です。
ADHDの8割は、混合型です。
多動性、衝動性
多動性は、おとなしくじっと座っていることができないなど、とにかく、そわそわして、体が動いてしまいます。
静粛を保つべき公共の行事の場で、静かにできないということもあります。貧乏ゆすりや指で机をたたき続けるなどの中には、ADHD系の多動性に由来するものがあります。
このほか、順番待ちが苦手だったり、他の人の会話にいきなり割り込んだりすることも多動性の中に含まれる症状です。衝動性は、計画性のなさであらわれますが、後先を考えられず、カッとなることも衝動性の一つに数えられています。
不注意
気が散って、物事に集中できない、好きなことには集中出来るが、切り替えが苦手することが苦手、忘れ物をなくすことが多い、ボーとしていて人の話をきいていない、仕事や懐疑に集中できない、などの特徴をもつのが不注意優勢型です。
忘れ物につながる特徴
不注意優勢型の場合、忘れ物が多くでてきます。約束を忘れたり、時間に遅れたり、締め切りに間に合わないということが出てきますから、仕事に支障をきたし、周りから顰蹙を買うことになります。
周りの人の迷惑もさることながら、一番つらいのは当の本人です。
全般的な対策方法
ADHDは、生まれつきの障害ですから、治すことができません。そこで、ADHD特有の問題行動をより小さい範囲におさえるための工夫が求められます。まず、ADHDの全般的な対応策を紹介します。
投薬
多動性などの特性を抑えるための薬物療法もありますが、あくまで一時的なもので、根本的な治癒には結びつきません。薬物療法では、投薬期間中にうまくいったという経験による心理的なプラス面を期待しているという面があります。
ただし、薬は人に合わない場合もあり、副作用も見られます。また、薬に頼り過ぎたり、服用期間中に止めたりすると逆効果になることもありますから。医師としっかり治療方針を相談した上で、用法用量を守って使用することが大切です。
環境調整
集中力の欠如がみられるADHDでは集中を妨げそうなものを遠ざけたり、伝える言葉や指示はなるべくわかりやすいものにすることが基本です。子どもの場合、勉強などに集中しないといけないときには、本人の好きな遊び道具を片づけ、テレビを消すなど、集中を妨げる刺激をできるだけ周囲からなくすようにします。
また、集中時間を短めに設定して、適度に休憩して、一度にこなさなければいけない量を少なめにし、効果的に休憩をとるようなことも行われています。この学童児に対して行われる対策は、大人の対策としても応用できるはずです。
忘れ物対策
ADHDは、大人になってから急に症状が強く現れるものではないのですが、実際は子どものころよりも困難になることが多いはずです。
というのは、親や先生たちのサポートがなくなり、かつ、就職すれば社会人としての責任を求められるようになるからです。ここでは、この困難さのなかでも特に負担の重い忘れ物に対するいくつかの対応策を紹介します。
リスト、メモをしておく
物を忘れないようにしておくには、メモをしておくのが一番です。メモは、常日頃持ち歩くようにしましょう。また、やるべき仕事を書きだし、優先順位をつけて、目につくところに貼っておいて、やり終わったら消すようにします。
ただ、ADHDの人は同時並行的な作業も苦手ですから、話を聞くと同時にメモをとるという行動も簡単ではありません。そこで、相手に断った上で、テープレコーダを使用するということも考えられます。
物を置いておくところを決めておく
物をあっちこっちにおいて置くと、いつの間にか意識の外にはずれ、どこに何があるかわからなくなったりします。そこで、保管場所を一覧表にまとめ、目に付くところに貼っておくことをお勧めします。定期的に整理をして、物を増やさないようにするのもポイントです。
確認を習慣づける
何事にも確認が重要です。外出先に何かを忘れてきたりするときは、確認不足が原因であったりします。
仕事や帰宅の途中にカフェなどに立ち寄ったりしたときは、レシートをとる前に、荷物の確認をすることを義務付けする。とにかく、確認作業を習慣としてできるようになったら、外出先に何かを忘れる可能性はぐっと減ってくるはずです。
親も一緒に確認などをする
まだ幼い子供の場合は、親が一緒に確認するようにしましょう。お手本を示すというスタンスで、くどいほど一緒に確認するようにしてほしいものです。
忘れたときの対策も
ADHDに限らず、絶対に忘れ物しないという人はまれです。ADHDの人にとって、重要なことは、忘れ物をしてしまった時の対策をあらかじめ決めておくことです。
2つ用意できるものなら2つ違うところに用意しておいておけば、いざ忘れ物をした時にも安心ですし、日ごろの心理的負担もいくらか減ります。
ほかにも忘れ物につながる疾患が
ADHDだと基本的に忘れ物が増えますが、逆に、忘れ物が多いからといってADHDであるとは限りません。特に昔はそうではなかったのに、最近忘れ物が多いという状態の裏には何らかの精神疾患が隠されているかもしれません。
認知症
考えられる精神疾患の一つが認知症です。年をとるにつれ、正常に発達した種々の精神機能が慢性的に減退・消失することで、日常生活・社会生活を営めない状態になるのが認知症です。
認知症は、ADHDと違って、後天的な精神疾患です。認知症は、お年寄りの精神疾患だと思っている人も少なくないようですが、最近では18歳から45歳までに発症する「若年性認知症」が注目されています。
認知症の主たる症状の一つに記憶障害があります。昔は物覚えもよかったのに、最近、急激に物忘れするようになったというケースでは、認知症の可能性の一つとしても考えられます。
うつ病
うつ病は文字通り、憂うつな気分に支配され、意欲や気力が萎えてくる精神疾患です。その結果、思考力、記憶力、判断力なども低下してきます。頭がボーとする、頭が働かない、物忘れがひどくなったというのは、うつ病の典型的な症状です。先に若年性認知症の可能性についてふれましたが、実際はうつ病のこうした症状が因となって忘れ物をするというケースが多いようです。
物忘れがひどいようなら、精神科医に相談されることをお勧めします。
工夫と習慣化が大切
ADHDは、一生付き合わなければならない宿病のようなものです。しかし、メモを取る、確認の習慣化に取り組む、環境調整を行うなどなどの工夫で、不利益を最小限にする対応策も用意して備えることができます。
ADHDは、「打つ手はある宿病」だということを忘れず、自分にあった対応策に取り組んでください。なお、大人のADHDの相談窓口としては、発達障害者支援センター、障害者就業・生活支援センター、相談支援事業所などがあります。