依存とは、あるモノや行為に頼らないと正気を保てなくなる病気です。アルコールに依存する人は、アルコール依存症と呼ばれます。
やめる意志はあるものの、アルコールの誘惑に勝てず、何が何でも手に入れようとして、さまざまなトラブルを引き起こします。精神疾患としての依存症は、治りにくいという点では非常に厄介な病です。
目次
コントロールできない「依存」
害が出てもやめられない。依存症の人は自らの行動がコントロールできず、依存し続けて、やがて社会的、経済的に破滅していきます。家族や周囲の人たちを巻き込んで、害を及ぼすというのが依存症の怖いところです。
アルコール依存症は、意志薄弱な人の振る舞いというよりもれっきとした精神疾患の一つです。
依存しているものを手に入れられないと離脱症状が出る
依存症の特徴の一つは、依存しているモノが手に入れられなくなったら、離脱症状が発生し、不安やイライラなどが生じるということです。例えば、ニコチン中毒の人は、会議中に「早くタバコを喫いたい」と渇望し、そのことばかり考えて会議の話などは上の空になります。
それでも我慢していると、発汗、手の震えといった離脱症状(禁断症状)があらわれます。依存の対象となるモノによって離脱症状は異なりますが、イライラして落ち着かないといった程度の軽いものから、興奮や幻覚を伴うせん妄状態のような意識障害にいたることもあります。
「中毒」は「依存症」ではなく「毒にあたる」の意味
アルコール依存症の人をアルコール中毒と言うこともあります。同じ症状を指した言葉ですが、中毒と言うのは、「毒素にあたる」ということです。アルコール依存症の人は、一酸化炭素中毒のような毒素に中ったわけではありませんから、アルコール依存症と言うべきでしょう。
ただし、新入生の歓迎会でイッキ飲みして病院に運ばれたというケースは、アルコールの過剰・急激な摂取によるものですから、こちらは正真正銘の「(急性)アルコール中毒」です。
これとは逆に、一酸化炭素中毒の人を一酸化炭素依存症というとおかしなことになります。一酸化炭素に依存しているわけではないのですから。実際、中毒症の多くは、身体科にかかって治療しますが、依存症を治療するのは主に精神科です。中毒と依存は、科目の異なる病気です。
対象は様々
依存症は、かつては、薬物やアルコールなどの物質依存がほとんどでしたが、最近では対人関係の依存やプロセスへの依存も依存症とみなされるようになりました。
その結果、依存症の範囲が非常に広がってしまいました。ただし、プロセスへの依存症のすべてが病名になったわけではなく、DSM-5(アメリカの精神医学における診断基準マニュアル)では、ギャンブル障害(依存症)だけが病気としてリストアップされています。
様々な依存
依存症は、大きく物質依存、プロセス依存、関係依存の3つのタイプがあります。共通しているのは、自分の意思ではコントロールできないということです。
物質依存
物質依存症とは、手近なモノを食べたり、酒を飲んだり、たばこを吸ったり、薬を使ったりして、肉体的な快楽や刺激が得て、心の寂しさや不安を紛らわせて、一時的に現実逃避をしようとする依存症です。依存の対象となるのは以下のような物質です。
・たばこ(ニコチン)
・ドラッグ(薬物)
このほか、過食も物質依存症に含まれます。
プロセス依存
ある行為をする過程で得られる興奮や刺激を求めて、その行為にのめり込むところから、行為依存症とも呼ばれています。代表的なものがパチンコ、競馬などのギャンブル依存症です。依存の対象となる行為としては、以下のようなものが挙げられます。
・買い物
・仕事
・インターネット
・メール
・嘘や悪口
・痴漢
・万引き
・恋愛依存
・セックス依存
・リストカット
関係依存
人との関係に依存する症状で、対人依存症とも呼ばれます。関係依存とは、ゆがんだ上下関係で相手を支配、束縛したり、逆にしがみついたりすることによって、人とのつながりを求めようとするものです。対象となる関係性は、以下のようなものがあります。
・DV(ドメスティック・バイオレンス)
・児童虐待
・教祖
共依存
アルコール依存症の夫が多大の借金やいざこざを起こす。妻は夫の尻拭いに奔走して、献身する・・・。一見、自己犠牲の美談ともいえるような行為ですが、実は妻は、自分の献身を自己目的化して、そのことに価値を見出しているのです。このような関係が共依存です。
この自己犠牲のどこが問題かといえば、妻は夫を回復させるような活動を拒んでいるということです。こうした自己中心的な行為をイネーブリングといいます。イネーブリングは、アルコール依存症の家庭に見られるケースで、結果として依存症を悪化させ、夫が自立する機会を阻害しているのです。
依存性パーソナリティ障害
他の人から度を越して面倒をみてもらいたい、他人に依存しないと不安で仕方がないというのが依存性パーソナリティ障害です。この障害にかかっている人にとって、世界は「無能な私」と「有能な他者」でできています。何をするにも過剰なアドバイスを求めるのが特徴です。
また、職場などでは、服従を厭わないものの、責任を求められる立場を避けがちです。以下、主な特徴をあげておきます。
・自分の生活を仕切ってくれる人を求めている。
・その相手から理不尽な扱いを受けても服従している。
・自分が頼れる相手としてのパートナーを切実に求めている。
・自分の味方をしてもらいたい人のために、嫌な事でも、すすんでしてしまう。
・自分一人で生きて行かなければならない状況に太愛する恐怖感がある。
依存症の治療方法
自分が依存をしていることに気づくことが必要
アルコール依存症や薬物依存症の人多くは、自分が病気であることを認識しています。ところが関係依存の場合、病気の境界線があいまいなこともあって、自分の行為が依存症という病的な段階にあることの自覚が希薄です。
ですから、自分の振る舞いを冷静に振り返って、問題のある依存の状態にあることを認識することがポイントです。依存症であるということに気が付けば、これから取り組まなければならないことが何であるかもはっきりしてきます。
医療機関にかかることも考える
依存症というのは、自己コントロールができない病気です。自分の意志だけでは、依存を断ち切るのは難しいので、思い切って、症状が重くなる前に医療機関で治療に取り組むことをお勧めします。
アルコール依存症の場合、病院では「解毒治療」、「リハビリ治療」、「退院後のアフターケア」の3段階に分けた治療が行われます。「解毒治療」は一般病院で行うことも十分可能ですが、「リハビリ治療」や「退院後のアフターケア」なども考えると、精神科治療のノウハウをもつ医療機関で治療に取り組むのが効率的でしょう。
アルコール依存症の治療
入院すると、第1段階の解毒治療として、まず精神・身体合併症と離脱症状の治療が行われます。離脱症状の治療では、薬物でアルコールの肩代わりをさせ、徐々に減らしていきます。解毒治療は通常2~4週間かけて行われます。
精神・身体症状が回復してきた後に、第2段階のリハビリ治療に入ります。ここでは、病気に関する正しい知識が提供されると同時に、個人カウンセリングや集団精神療法などの治療が行われます。第2段階での治療は2ヶ月ほどかけて行われます。
第3段階は、退院後のアフターケアです。一般にアフターケアでは、「病院・クリニックへの通院」、「抗酒薬の服用」、「自助グループへの参加」の3つが基本です。
ギャンブル依存症の治療
統合失調症やうつ病など代表的な精神疾患では、薬物療法の有効性が証明されています。しかし、ギャンブル依存症に対しては、決め手となるような薬物療法はありません。
しかし、同じ問題を抱えた当事者同士が集まる自助グループの治療の有効性は、広く知られるところです。依存症を脱した人やまだ脱することができていない人が、ミーティングの場を持って語り合うことが治療につながり、長期的な再発防止にも効果があるとされています。
カウンセリングなどの精神療法がおこなわれる
専門の医療機関では、依存の対象や依存症の状態に合わせて精神療法の中の認知行動療法が実施されています。
認知行動療法というのは、誤った考え方を修正し、依存する行為からの脱却を目指す治療です。また、同じ悩みを持つ人と専門家のサポートを加えて話し合う集団精神療法なども行われています。
やめるという自分の意志が重要
アルコール依存症のリハビリ治療では、患者さんに飲酒がもとで起こったさまざまな現実の問題見つめさせ、断酒を決意させることを行います。やめるにやめられない依存症の治療の第1歩は、失われた意志を復活させ、辞める決意を表明することからスタートするということです。