近年精神科領域で使用される薬剤は多くが副作用の少ない新薬に移行されてきています。中でも統合失調症や躁うつ病等に使用される抗精神病薬という分類の薬剤のうち新しいものは非定型抗精神病薬と呼ばれます。従来から使用されている薬剤を定型抗精神病薬と呼びます。【定型抗精神病薬=ダメな薬】というわけではありません。それぞれ特徴がありどちらも現役で使用される薬剤です。長年精神疾患を患っている方や、覚せい剤等による薬剤性精神疾患の方には定型抗精神病薬が使用されることもあります。今回は抗精神病薬と便秘の関連性について書いていきます。
抗精神病薬については以前の記事もご参照ください
https://www.allin1.co.jp/service/psychotherapy/blog/s-medicine/
抗精神病薬ってどんな薬?
前述した定型抗精神病薬や非定型抗精神病薬にはさまざまな効果が期待され使用される薬剤です。幻覚や妄想の改善のみならず、興奮や攻撃性など昂った気持ちを抑えてくれる鎮静効果もあります。そして、それらの効果は脳の神経伝達物質に作用することで発揮されます。今回は便秘に関するテーマに沿って話をするため、ドーパミン受容体に限定して話を進めます。
抗精神病薬にはドーパミン受容体をブロックする作用があります。幻覚や妄想は脳内のドーパミンが過剰になることで生じていると言われており、過剰になったドーパミンを遮断することで幻覚や妄想が抑えられるという効果を元に使用されます。しかしドーパミンをブロックする過程で、他の受容体であるムスカリン受容体もブロックしてしまうことで、抗コリン作用という作用が体に生じてしまうことがあります。ドーパミンをブロックしたら、ムスカリン受容体もブロックしてしまって抗コリン作用が生じるという、治療における害のある副次的作用が起こるわけです。
抗コリン作用って何?どんな影響が?
抗コリン作用についてもう少し掘り下げましょう。抗コリン作用とはアセチルコリンという副交感神経を刺激する神経伝達物質の刺激をブロックしてしまう作用のことです。体のアセチルコリンがブロックされるとどうなってしまうのか。答えは全身に影響が出ます。人間の様々な臓器に影響を与えます。
主な症状
- 口渇
- 便秘
- 悪心
- 排尿障害
- 眠気
- 顔面紅潮
- 立ちくらみ
- 目眩い
- かすみ目
- 吐き気
- 食欲不振
- 胃部不快感
- 動悸(心悸亢進)
- 不整脈
アセチルコリンの刺激をブロックすると、副交感神経の働きが思うように効かなくなってしまい、このような様々な作用を起こしてしまいます。ここだけ聞くと怖い薬のように思えますが、副作用のない薬は存在しません。どんな治療をするにも副作用はつきものです。
副交感神経って何か?
では副交感神経は何なのか。簡単に言うとリラックスをつかさどる神経です。主に眠っているときなどに働く神経です。つまりリラックス神経なのです。リラックス中は、心臓は深くゆっくり動きます。消化管は蠕動運動を活発にして食物を消化していきます。消化しなくてはいけないので、胃酸も増えます。尿や便を出そうとします。食後眠くなるのは消化するために副交感神経が働きリラックス状態になるためです。そんな時は、副交感神経が優位(活発)とも言われます。こういった副交感神経のはたらきを妨害する作用が抗コリン作用です。リラックス状態になるときに起こる臓器の動きができなくなります。心臓もゆっくり動かないから動悸がしたりします。消化管も思うように働かないから、食欲が出なくなったり吐き気がしたりします。便を押し出そうとする働きも弱くなるので便秘になります。つまり、【副交感神経が妨害される=リラックス状態の動きができなくなる】というわけです。
まとめ
さて、ここまでの説明で抗精神病薬と便秘の関連性がわかっていただけたのではないかと思います。抗精神病薬はドーパミンをブロックする薬剤で、ドーパミンをブロックしたついでにムスカリンもブロックしてしまうことがある。ムスカリンをブロックしてしまうとアセチルコリンの働きがブロックされ、副交感神経の働きを阻害することで、消化管の働きが抑えられ便秘になるのです。