前回、抗精神病薬が便秘を起こす原因について解説しました。今回はさらに展開して便秘を起こすとどうなってしまうのか書いてゆこうと思います。放っておいてもよいのかどうか、便秘になってしまったらどうすればよいのかなどです。日本で初めて2017年に日本消化器病学会関連研究会慢性便秘の診断・治療研究会から慢性便秘症診療ガイドラインが発表されました。ガイドラインの情報も織り交ぜながら簡単に説明していきます。
慢性便秘症って?
まず便秘のことを医学的には慢性便秘症と呼び、診断基準としては以下の6項目のうち2項目以上を満たしていて、これらの症状が6か月以上前からあり、最近3か月間は2項目以上ある状態が続いている人が慢性便秘症の診断がおります。
A,排便の4回に1回以上の頻度で強くいきむ必要がある。
B,排便の4回に1回以上兎便や硬便(硬かったり、コロコロした便)。
C,排便の4回に1回以上で残便感がある。
D, 排便の4回に1回以上の頻度で肛門が詰まった感じや便が出ない感じがある
E, 排便の4回に1回以上の頻度で摘便(肛門に指を入れて便を掻き出す)などの介助が必要である。
A~Eの項目が2項目以上、かつ3か月以上続いている場合は治療の必要があります。また上記を満たさない場合でも日常生活に影響を与えていれば治療開始することが望ましいため、まずは主治医へ相談することが望ましいです。
便秘になったらどうなるの?
便秘の原因はいくつもあります。前回は精神科薬による抗コリン作用によって引き起こされる便秘について書きましたが、こうした便秘を薬剤性便秘と呼びます。これは専門機関では大腸通過時間検査などで診断ができます。腫瘍や腫瘤によって器質的に便が出せなくなってしまう場合もあるため、薬剤性と断定するには、一通りの検査が必要です。症状が続く場合は消化器の専門医へ受診したほうがよいか主治医と相談しましょう。
便秘がより悪化するとイレウスという腸管が麻痺する合併症を起こすことがあります。イレウスになると絶飲食や点滴をする必要が出てくるため、当然入院することになります。症状は腹痛や腹部の張り、嘔吐が出現することがあります。軽視できない合併症の一つであり、排便コントロールが重要であることがわかります。
便秘の治療はどうするの?
薬剤性便秘を起こしている場合は原因となっている抗精神病薬を減薬して別の薬剤に変更する方法もあります。しかし別の薬剤に変えることで、抑えられていた統合失調症や躁うつ病の症状が再発する可能性もあるため、ただ減らしたり止めたりすればいいわけではありません。便秘を改善するために精神疾患を再発させては元も子もないため、慎重に治療計画を立てていく必要があります。しかし便秘を無視することもできませんので、便秘の原因を取り除くのではなく、便秘そのものを治療していくことも多いです。この方法だと薬を止めて再発するリスクを背負うよりも少ないリスクで便秘を改善することができます。
便秘にはセンノシド?
よく使用される薬剤にセンノシドと呼ばれる薬剤があります。センノサイドと呼ばれる主成分が腸に刺激を与えて、腸の動きを活発にしてくれる作用のある薬剤です。ドラックストアにも普通に販売されていますので使用している人も多いのではないでしょうか。商品名としてはコーラックやセンナ茶としてドラッグストアで販売されているものや、プルゼニドやアローゼンといった商品名で病院から処方されている人も多いかもしれません。このセンノシドという薬剤はパワーがあるため、あれだけ出なかった便が出てくれてスッキリなんて思う人も多いかと思います。しかし落とし穴もあります。この薬には依存と耐性があり、センノシドがないと排便できなくなってしまったり、量がどんどん増えていったことを耳にした人もいるのではないでしょうか。最終的にはこの薬剤が原因で便秘になることもあります。パワーが強い分、副作用もあるということですね。医療現場でもセンノシドが使われることが多くあります。そんなに悪い薬を?と思うかもしれませんが、レスキュー的な存在としては優れているのです。長期的に使用しない前提であれば強い効果があります。困ったときのレスキューとしては頼れる存在なわけです。
じゃあどうすればいいの?
センノシド以外にどういった薬剤が使われているのかといいますと、酸化マグネシウムという薬剤です。こちらもドラッグストアで販売されている薬剤ですので、目にしている方も多いかと思います。この薬剤は便の水分量を増やして便が硬くなってしまうことを防ぐことで、排便しやすくするという作用があります。前述の慢性便秘症ガイドラインでも酸化マグネシウムの使用はエビデンスA(推奨される治療)に設定されているほどです。しかしこの薬剤も副作用がないわけではありませんので、様子を見ながら使用していく必要があります。また、即効性にかけるため、今日が辛いという便秘にはすぐ効果が出ないという欠点もあります。もしそうなった場合は酸化マグネシウムで便をコントロールしながら、ダメなときはセンノシドでレスキューしてもらうという治療がよいかもしれません。また酸化マグネシウムはジェネリックもあるため、経済的な負担が少ないのも魅力の一つですよね。
便秘業界の新薬?
便秘治療薬として最近認可のおりたルビプロストンという新薬があります。アミティーザカプセルという商品名で処方されることがあります。これは新薬ですので当然病院でしか処方されません。酸化マグネシウムと同様に便の水分を増やして排便しやすくする作用なのですが、効果出現が早く、初回投与24時間以内の自発排便が60%と有効性がある薬剤です。また長期にわたり改善効果を維持できるため、期待されている薬剤です。当然この薬にも副作用がありますが、エビデンスAの治療方法であり、こちらも裏付けされた治療方法の一つです。いい薬ですが新薬のためジェネリックがなくその分値段もそれなりにすることが欠点の一つかもしれません。
まとめ
便秘は放っておくと危険な合併症を起こす可能性があるため、治療をしなくてはいけません。しかし下剤は今や簡単に手に入る薬剤の一つです。簡単に手に入るからといって大丈夫な薬というわけではありません。センノシドの依存や耐性ができてしまっている患者さんを多く見てきました。正しい知識を身につけて、排便コントロールができる人が少しでも増えてくれると嬉しいです。