仕事に行きたいのに子どもがご飯を食べてくれない、「歯を磨いて」「おもちゃを片付けて」って言ったのにやらない、しつこく言ってもやらないからイライラして結局怒ってしまう、お子さんを育てていてこんな経験はありませんか。
今回は、こういった“親の声かけに対して行動できない子どもへの対応”について考えていきたいと思います。少しでも皆さんのお力になれれば幸いです。
1 お子さんの行動がゆっくりな理由
行動が遅いお子さんに対して声をかける前に、まずお子さんの行動が遅い理由について考えてみましょう。お子さんの行動が遅い(もしくはできない)理由として考えられるものとして、以下が挙げられます。
①環境的要因
・お子さんの好きなテレビがついていたり、おもちゃが目について集中できない
・お父さんが仕事で早めに出た、などいつもと違う様子がある
・着るものや履くものがわからない
②身体的、精神的要因
・寝不足、熱があるなどの体調不良
・子どものストレスになる出来事があった
(直前に強く叱ってしまった、前日に学校等で何らかのトラブルがあった等)
・学校(幼稚園や保育園)に行きたくないと感じている
・お母さんに甘えたい(やってもらいたい)と思っている
③性格的要因
・何事も慎重に、丁寧に行う性格
・集中が切れるのが早い
・着るものや食べる順番などにこだわりを持っている
④発達的要因
・ことばの理解がゆっくりで、保護者の方の声かけを理解できていない
・手や指がうまく使えず、食べたり服を着るのに時間がかかる
・衣服の着脱や食事のとり方が身についていない(習慣化するのに時間がかかる)
その他にも理由は考えられますが、大まかにまとめると上記のようなことが当てはまるのではないかと思われます。お子さんがスムーズに行動できるようになるために、まずはお子さんの様子をよく観察し、何がお子さんの行動を妨げているのか考えてみましょう。そして、お子さんの行動が遅い原因や理由がわかったら、次に改善できるところに目を向け、対応策について考えていきましょう。
それでは、次からは今回のポイントとなる対応についてご説明していきたいと思います。
2 お子さんが少しだけスピードアップするために
①環境を整える
まずはお子さんが集中できる環境を作りましょう。他のことが気にならないようにテレビは消し、おもちゃは目につかないところに片付けてしまいましょう。可能であればテレビを見る部屋、遊ぶ部屋と食事をする部屋、着替える部屋を分けるとより良いかと思いますが、おもちゃを布で覆ってみるなどのやり方もあります。そして、食べるものや着るもの、かばんなどは目につくところに用意し、お子さんが進んで食事、準備ができるようにしましょう。
また、お子さんがより行動しやすくなるように、以下のような工夫もできます。
使う食器や衣服は子どもの好きなものにする
→好きな色、キャラクターの食器や衣服を用意すると、お子さんも食事や着替えが楽しみになるかと思います。また、自分の食器でないと食べられないお子さんや、お気に入りの服でないと着られないお子さんもいると思いますので、食器や衣服はなるべくお子さんの好みに合わせ、一貫して使用するのがよいかと思います。
一日のスケジュール表を作る
→朝の準備や帰ってからの片付けなど、次に何をするのかを目で確認できるように、一日のスケジュール表(例:顔を洗う→朝ごはん→歯磨き→着替え)を作ると、お子さんもスムーズに行動できるかと思います。その際、文字ではなく、絵や写真、イラストを使うとお子さんもより理解しやすくなりますね。また、小学校2年生くらいからは、時計のイラストを一緒に入れることで、時間の流れを感覚的に身に着けることにもつながります。
②言葉かけを工夫する
環境を整えることについて簡単にまとめましたが、上記の環境整備に加え、言葉かけにも工夫を加えることで、お子さんの行動がさらに素早くなることが考えられます。「~しなさい」と命令口調で言ったり、「早く!」と急かすような言葉を使うと、お子さんに不安や怒りといったマイナスの感情が積もり、かえって動きを遅くしてしまいます。お子さんのやる気を出させるために、またスムーズに行動できるように、イライラしていても急かしたり怒ったりせず、一呼吸おいてから声をかけてみましょう。
それでは、行動をスムーズにする声かけとして代表的なものをご紹介いたします。
実況中継をしながらほめる
→子どもはほめられると承認欲求(認められたいという欲求)が満たされ、“もっと頑張ろう”“やってみよう”というやる気が生まれます。片付けができなかったり、支度や食べるのが遅いと「何でできていないの」と思ってしまうこともあるかと思いますが、“できていない”ことに目を向けるのではなく、“できた”ことに目を向け、「たくさん食べたね」や「電車のおもちゃは片付けられたね」と積極的にほめてみましょう。その際、行動したことを実況中継することで、お子さんも自分のできた行動を振り返ることにつながります。そして、“もっと頑張ってみよう”というやる気とスムーズな行動につなげることが可能となるのです。
カウントを活用する
→お子さん自身で身支度をしていると準備に取り組むのに時間がかかったり、遊んでいてなかなか次の行動に移れないこともあるかと思います。そのようなときは、「あと10秒でご飯おしまいね」や「5秒数えたら片付けだよ」のようにカウントを活用してみましょう。制限時間を設定することで子どもは時間を意識し、今行っている行動に集中するようになります。また、次の行動に移るときの切り替えにもつながります。一日のスケジュールのところで時計のイラストを入れるという記載があったかと思いますが、時計を指さして「ご飯は長い針が12まで」や「〇時になったらお家を出るよ」のように声をかけることも有効です。
3 最後に
親の声かけに対して行動できない子どもへの対応として、環境を整えることや声かけを工夫することをご説明させていただきました。しかし、あくまで記載したことは一例で、全てのお子さんに有効というわけではありません。お子さんの性格によって声かけや環境整理の工夫の仕方も異なってくると思いますので、まずはお子さんの様子をよく観察し、お子さんの好みや性格に合わせて対応を考えてみるのがよいかと思います。
また、途中で述べましたが、お子さんに怒りや悲しみ、不安といったマイナスの感情があるとスムーズに動けなくなってしまいます。ちょっとお子さんの様子がおかしいな、と感じたら、お子さんの話をじっくり聞いたり、親子でスキンシップをとったりして不安感を減らしてあげるとよいでしょう。
お子さんの自主的な行動を促すだけでなく、お母様もお子さんと関わっていく中で嫌な気持ちにならないようにご参考にしていただけたら幸いです。
4 参考文献
塩川宏郷 (2015). 『発達障害の子どもが伸びるほめ方・しかり方・言葉かけ』. 東京, 河出書房新社.
西村則康 (2015). 『子どもがぐんぐんやる気になる魔法の声かけ』. 東京, 主婦と生活社