1.タブレットなどのツールを使った学習
近年の学校教育では、文部科学省による学校施設改善事業の一つとして学校ICT(情報通信技術)環境整備事業が推進されており、多くの学校で情報通信機器が設置されるようになりました。
この流れに乗って、タブレット端末を生徒に配布し学習に利用する学校も少なくありませんが、『鉛筆で紙に書かないと覚えられないのでは?』『のめりこみ過ぎないか』などなど、親世代の心配は尽きないのではないでしょうか。
一方で、授業のICT化が高い程「生徒の基礎科目の学力向上」や「生徒の学習態度の改善」について効果があるという調査報告(総務省,2012)も出ています。賛否両論のタブレットを、どのように学習に取り入れるべきか、効果的な使用方法について、心理士がお答えします。
2.タブレットを利用した学習のメリット・デメリット
タブレット等を利用した学習には、以下のように様々なメリットがあります。
子どもの興味や関心を引き付ける
学習の場所を選ばない(机やテーブルがない場所でも学習ができる)
情報量が多く、紙のようにかさばらない
絵や図だけでなく、音声や動画も利用して学習することができる
学習用のアプリやソフトを使うことで添削が容易になる
書くことの苦痛が大きいお子さんにとっては学習意欲が高まる
一方で、タブレットを利用した学習に対する批判も以下のように多くあります。
「書く」という経験が少なくなる
ゲームで遊んでしまったりSNSを見てしまったりする
タブレットの購入費用がかかる
ブルーライトによる影響がある(夜寝つきにくくなるなど)
すぐに解答がわかってしまう(わからない問題はすぐ確認してしまう)など
このように、タブレットを利用した学習については反対と賛成の意見がどちらも非常に多く、紙に書く従来からの学習とタブレットを利用した学習のどちらが良いのかわからなくなってしまう保護者や教育者も多いのではないでしょうか。
3.タブレット等を学習に使うべきか否か
紙に書かないと覚えられない?
タブレットを学習に利用することへの批判として代表的なものの1つとして、「紙に書かないと学習内容を覚えられないのではないか」というものがあります。実際タブレットを使うと、ペンをもって書くことよりは、指でタップしたりなぞったりといった動作のほうが多くなります。近年スマートフォンやタブレット向けのタッチペンも利用されますが、紙に書くことと比べると摩擦や筆圧の関係や手のひらの側面を画面におけないことなどから、全く同じ動作とは言い難くなります。タブレット学習で覚えたもの、特に漢字や英単語などの文字は、筆記テストなどの場面では書字の感覚を頼りに文字を思い出せないため、不利になるかも知れません。
タブレットの利便性
しかし、タブレットの利便性は非常に高く、紙に書くだけでの学習では得られないメリットがあります。例えば、疑問に感じた点をすぐに調べて知識の幅を広げることができる、子どもがタブレット端末を使いこなすことによって採点の必要などがなく保護者や教育者の時間が空く、などがあげられます。
紙に書く学習とタブレットを利用した学習、どちらにも大きな利点があります。どちらが優れているかという観点で見るよりも、どちらにも良いところがあるので両方を状況に合わせて併用していこうという考え方をするほうが、より子どもの教育に役立ちます。
4.どのようにタブレットを活用していくか
上で述べた通り、紙に書く学習とタブレットを利用した学習には、それぞれ様々な利点があります。また子どもの学習では、年代によってそれぞれの課題や学習の特徴があり、時期によってどのような学習をすると効果が高いのかが変わってきます。ここでは年代ごとに分けて、説明していきます。
4-1.就学前の子ども
保育園や幼稚園に通うお子さんや、それ以前のお子さんの場合、学習のためにタブレットを使う機会よりも、電車やバスの中で騒がないように動画を見せたりゲームをさせたりのように、保護者の負担の軽減のためにタブレットが使われることが多いと思います。また、知育という面からアプリを使われる方もおられるでしょう。
時間を限定して
子どもは、大人と比べると経験が少ないため、新しい刺激や珍しい刺激などに過敏に反応しやすいと言えます。中でも0歳~6歳前後の時期はその傾向が強いと考えられます。タブレットのアプリなどは、一般的なおもちゃや絵本といったものとくらべて音や視覚的な効果が多く、子どもにとって非常に刺激の強いものです。そのため、時に依存的になってしまったり、他のおもちゃに興味を示さなくなるかもしれません。そうならないために、しっかりとタブレットを使わせる時間を親が管理してあげる必要があります。1日15~30分程度にとどめておく方が良いでしょう。また、こうしたルールは、子どもと一緒に決めることも大切です。
4-2.小学校低学年(1~2年生)の子ども
実際に触って確かめる体験を優先
小学校の低学年では、ひらがなやカタカナ、漢字の学習を本格的に始める年代です。多くの子どもにとって、学習のために文字を書くという経験をする大切な時期になります。また、算数の学習においても、おはじきや数え棒などの具体物を使って物を数えたりする学習も、数の概念の形成のためにとても重要なことです。デジタルな世界で体験するよりも、実際に触って確かめる体験を多くする必要があります。
そのため、この時期にはタブレットを用いる学習ではなく、紙に書いて行う学習を行う方が、この時期に必要な要素の発達が促進されると考えられます。特に小学校に上がってすぐの時期には、子どもが勉強をしているときには親が横について勉強している様子を見てあげたり、できたことを褒めることで、学習の習慣をつけることができます。忙しくて難しい場合もあるとは思いますが、タブレットを与えて一人で勉強をさせることは避けたほうが良いでしょう。
4-3.小学校中学年(3~4年生)の子ども
この時期は、低学年のころと比べると、国語の学習で登場人物の気持ちや考えを推察するような問題が増えてきます。また、自分が考えたことや感じたことの要点をまとめて文章にしていくことを求められるようになります。そういった部分に関しては、問題集を解いて答えを見る学習よりも、アプリなどでヒントを見ながら思考を整理したり、動きのある見せ方やイラストを“見て”覚えたりすることが有効な場合もあります。
タブレットで理解を促進
算数や理科においては、具体的なものをグラフにしたり、図などを読み取ったりすること、少数や分数などの具体物で表しにくいものを扱う時間が増えます。また扱う長さの単位や数字も大きくなり、これも具体物で表しにくいものです。そういったものの理解に時間がかかる子どもには、タブレットを利用して動画やイラストの動きなどを合わせて学習することで、より理解が促進されると考えられます。
漢字や知識習得について書いての反復練習することは大事です。紙に書く学習をする際に、タブレットはその理解を促進させるための使い方が望ましいと考えられます。
4-4.小学校高学年(5~6年生)
微妙なニュアンスを含んだ言葉や態度を学ぶ)
小学校高学年では、相手の状況や気持ちを読み取りながら自分の考えを伝えることや、思いや感情が伝わるように文章を伝えることが求められるようになります。紙の問題集を解くだけでは、こういった微妙なニュアンスを含んだ言葉や態度、発音などは学びにくいと考えられます。タブレットでの音声を合わせた学習をすることで、話し合いの場面の実演を聞いたり、文章を読み上げてもらいながら表現のポイントを確認したりすることができます。
自分で疑問に思ったことを調べる
またこの時期には、自分でわからないことや疑問に思ったことを調べるという行動ができることも大切なことです。タブレットやインターネットを用いて、検索して調べるということは図書館などに行って調べることと比べると非常にハードルが低く、調べることへの抵抗を減らすことに繋がると考えられます。
4-5.中学校、高等学校
中学校以上になると、授業の進め方や求められるものが大きく変わってきます。例えば授業の進め方について、小学校までの授業は今までの復習も兼ねた内容で、全員がしっかりと理解してから次に進んで行く構成で授業が進んで行くことが多かったと思います。中学校になると授業で学ばなければいけない内容が大幅に増え、授業内での復習の時間は減ります。一昔前と比べると現在の中学校の授業はかなり丁寧な印象がありますが、それでも小学校と比べると進度は早く、理解に時間のかかる子どもたちは取り残されてしまう可能性があります。また中学校以上になるとそれまでと比べて、より結果(テストの点数)が求められるようになるという特徴もあります。
反復学習に使う
授業内で復習の時間が取れなくなるということは、復習は生徒個人に任せられることになります。学習内容も多くなり、より効率的に授業の復習をしていくことが求められます。また、高校受験や大学受験が視野に入ってくると、問題の反復学習等でより知識を定着させていくことが求められるため、タブレットによる学習が効果を発揮してくると考えられます。
4-6.読むことや書くことへの苦痛が大きいお子さんの場合
タブレットによる学習はメリットが大きい
年齢や学年と関係なく、文字を読むことや書くことへの苦痛が特に大きいお子さんの場合は、タブレットによる学習は特にメリットが大きいと言えます。
例えば、学習障害のために文字を書くことが極端に苦手な子や、学習障害でなくても手先の不器用さがある子などは、書くことへの苦痛から勉強への意欲が低くなってしまう可能性が高いです。こういったお子さんにとっては、書く負担がほとんどないタブレットのアプリを使った学習は、とても取り組みやすく効果的だと言えます。タブレットにはカメラ機能が付いた端末も多くあります。こういった機能を活用することで、ノートを書き写す負担も減ると考えられます。録音のアプリを使うことで、とっさに重要なことを記録することもできます。
学習障害のために文字を読むことが苦手なお子さんにとっても、文字の読み上げアプリを使うことによって読むことへの負担を減らすことができます。
集中が続きにくい特徴を持ったお子さんにとっても、イラストや動画などの目を引く教材を活用することで、学習に意識や興味を向けることができるかもしれません。
5.まとめ
タブレットを用いた学習には、紙に書く学習とは違った良いところがあります。タブレットでの学習はそのものをメインにするよりも、学校での学習の補助として使う方が効果的です。また、読み書きの苦手さを持ったお子さんにとっては、学習に取り組みやすい環境を作るという意味で、タブレットを用いた学習は意味のあるものであると言えます。
タブレットを用いた学習が良いか悪いかではなく、何を目的にしてタブレットを使うのかということを常に意識することが、それぞれのお子さんの学習にとってプラスになるのです。
<参考文献>
文部科学省(2010).「「教育の情報化」に関する手引について」,http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/1259413.htm (閲覧日: 2018年8月25 日).
総務省(2012).「平成24年度 総務省情報通信白書」,http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/h24.html(閲覧日: 2018年8月25 日).
河野俊寛(2012).「読み書き障がいのある子どもへのサポートQ&A」. 東京, 読書工房.
文部科学省(2015).「平成26年度 文部科学白書」,http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/html/hpab201501/1361011.htm(閲覧日: 2018年8月25 日).
ベネッセ教育研究所(2018).「乳幼児の親子のメディア活用調査 レポート [2018年]」,https://berd.benesse.jp/jisedai/research/detail1.php?id=5268(閲覧日: 2018年8月25 日).