発達障害者や知的障害者の寿命は健常者に比べて短いという「噂」があります。これは根拠のある事実でしょうか。
仮に噂を裏付ける事実があったとして、より長く生きるための方法はあるのでしょうか。
発達障害者、知的障害者の寿命の実際は
発達障害者や知的障害者を対象とした直接的な平均寿命のデータはありませんが、関連のデータからある程度の予測をすることはできます。
全体の平均寿命は男性80歳、女性87歳
平成28年の簡易生命表によると、男性の平均寿命は80.98歳、女性の平均寿命は87.14歳です。
人生80年の時代、というより女性にとっては90年の時代を迎えようとしていますが、この平均寿命を基準に発達障害者と知的障害者の平均寿命をみていくことにします。
65歳以上の知的障害者は9%
厚労省の「障害保健福祉施策の動向等平成26年」にこんなデータがありました。これは身体障害者、知的障害者、精神障害者を年齢別にみたものです。
●知的障害者⇒65歳未満91% 65歳以上9%
●精神障害者⇒65歳未満64% 65歳以上34%
65歳以上の知的障害者の割合が突出して低くなっていることがわかります。65歳以上を生きぬくのは10%未満です。精神障害者の比率も、身体障害者にかなり低くなっています。
発達障害者の平均寿命
よく引用される報告に、スウェーデンのカロリンスカ研究所のデータがあります。それによると、発達障害の中の自閉症スペクトラムの人は、健康的な人に比べ平均的寿命が18年も短いというものです。
もう少し詳しく見て行くと、自閉症スペクトラムのみの人は、健常者よりも平均寿命が12年短く、自閉症と学習障害の両障害を抱えている人の平均寿命はなんと30年も短いというものでした。また、自閉症と学習障害の両障害をもつ人が自殺する可能性は一般平均の9倍近いものになるというものです。
精神障害者の平均寿命
発達障害は二次障害として精神疾患を誘発する可能性が高いとされています。そこで、精神疾患と平均寿命の関係を示す報告を探したところ、こんなデータがありました。これは、東京大学医学部附属病院精神神経科の近藤伸介助教や笠井清登教授たちが、三鷹市の「巣立ち会」と共同で行った研究報告です。
それによると、1992年から2015年末までに精神科病院長期入院を経て退院し、地域生活に移行した利用者254名のうち、死亡した45名について、損失生存年数という指標を用いて調査を行った結果、精神疾患を有する人の平均余命が一般人口に比べて22.2年以上短いということが明らかになりました。
様々な負荷を負って生きる人たち
冒頭に述べたように日本には、発達障害者と知的障害者を対象とした直接的な平均寿命のデータはありません。厚労省のデータからは、知的障害者と発達障害者たちの平均寿命が健常者に比べてかなり低いことは、推測できます。
その原因については後述しますが、要約すれば、知的障害者や発達障害者は、さまざまな負荷を抱えて生きていて、そのことによって心身がすり減り、命を縮めているということになりそうです。
発達障害・知的障害がもたらす日々の困難
一般的に発達障害や知的障害を持つ人は、障害を持ってない人が普通に行えることができません。また、常識的な感じ方、考え方も異なっています。「適当にやって」といわれても、その「適当」がよくわからないのです。このため、日常生活はもとより社会生活に支障をきたしてしまいます。
その結果、さまざま種類の負荷を背負って生きています。
職場、学校に適応できないことによるストレス
ある特定の能力が低いというのが発達障害の特色です。PDD(広汎性発達障害)では、コミュニケーション能力が低く、抽象的な表現の汲み取りが苦手ですが、規則性などへのこだわりが強く、一つのことを追究していくのは得意といわれています。
このように、発達障害の人は、知的能力には問題がないのに、能力のバランスが崩れているためにある特定のことがらができない、あるいはミスをします。こういう障害を抱えていると学校や職場といった社会的な場では、さまざまなストレスを受けることになります。
このストレスが精神疾患などの二次障害を誘発し、心身にボディーブローのようなダメージを与え、寿命が削り取られていくと考えられています。
ストレスが様々な精神疾患を誘発
ストレスによって誘発される代表的な精神疾患が、うつ病や、アルコール依存症です。発達障害者のストレスも例外ではありません。
うつ病にかかると、心身のエネルギーが著しく低下していきます。また、ストレスを起因とするアルコール依存症は、寿命を縮める代表的な疾患です。
自殺と事故
うつ病の症状の中に希死念慮というのがあります。「死について繰り返し考える」ようになる症状です。当然、健常者に比べると自殺率が高くなり、これが平均寿命を引き下げにつながっています。
このほか、知的障害の人は、事故、服薬による副作用なども平均寿命にマイナスな影響を与えていると考えられています。
なお、高齢の知的障害者は、街中でなかなか見当たらないということを理由に、平均寿命の短さを説明するむきもあります。しかし、これは知的障害者の多くが施設で暮らしているということによるもので、この事実で平均寿命の短さを説明するには無理があります。
感覚雅敏による負担が大きい
発達障害の人の中には、感覚過敏の人がいます。触覚、視覚、聴覚が過敏なため、普通の人には気にならない光や音が耐え難いものとなります。
発達障害者は、このような発達障害特有の心身への負荷の大きいストレスにさらされてもいるのです。
より長生きするためには
発達障害、知的障害の人の寿命が健常者に比べると短いのは事実のようです。しかし、医療技術の向上や、効果のある薬も増えたことで、昔に比べると極端に寿命が短くなるということはないようです。暮らし方次第では、より長生きすることも可能です。
よりストレスのない環境を作る
すでにみてきたように、寿命を縮めている元凶はストレスです。いかにストレスの少ない生活環境を確保するかがポイントになります。
そして、ストレスを少なくする第一歩は、規則正しい生活をすることに尽きます。
障害者手帳や障害年金をもらう
ストレスのない環境づくりの一つとして積極的に利用したいのが、さまざまな支援サービスです。実際、福祉施設や医療施設、それに民間のボランティア団体などによるサービスも増えてきています。
その支援サービスの中には、障害者手帳や障害年金といった自治体などからの経済的支援も含まれています。
二次障害は早期に治療する
発達障害の二次障害として、社会不安障害、強迫性障害、うつ病・うつ状態などの精神疾患が誘発されることはすでにみてきた通りです。
発達障害は治すことができませんが、これらの二次疾患として精神疾患には、症状を良くするための治療法が用意されています。
精神疾患を誘発している場合は、専門の医療機関で治療に取り組むようにしてください。
仕事をする・続ける
発達障害の人は、自分の特性にあった仕事に就くと、普通の人以上の評価を得ることも可能です。適材適所が実現できる仕事につけば、ストレスも減り、何よりも生きがいを持つことができます。
このことによって、心身のエネルギーが高まれば、当然、長生きにつながります。
日頃のケアで健康的に長生きできる可能性が増える
医療技術の進歩と国の福祉政策の整備で、発達障害者や知的障害者への支援サービスが充実してきています。統計こそないものの、昔にくらべると平均寿命は確実に伸びているものと予測されます。
諦めることなく、前向きに考え、身近な日ごろのケアを怠らず、支え合って暮らしていくようにしてほしいと思います。