先ごろ、NHKのテレビで発達障害の子どもと偏食の問題が取り上げられていました。発達障害の子どもたちは、偏食になりがちだというのです。なぜでしょう?これが今回のテーマです。
目次
発達障害の特徴
発達障害とは、発達の進み方が平均よりも早いところや遅いところがあって、勉強や友だちとの関係をうまく築けないで苦しむ障害です。知能が低かったりするわけではないのに、コミュニケーション能力や、落ち着きや、読み書きなど、一部のことが極端に苦手です。
能力に極端な偏りがある
発達障害の代表的な障害に自閉症スペクトラム(ASD)があります。ASDの子どもは、空気が読めませんから、場にそぐわない発言をしてしまいがちです。好きなことはとことん突き詰めますが、興味のないことにはまったく無関心です。考えを表に出すことが苦手で、無駄なおしゃべりを嫌います。一方で、人見知りせず、相手を選ばず、自分のペースで話す子供もいます。
こんな具合にASDの子どもは、コミュニケーション能力や相手の気持ちを推し量る想像力が乏しいので、変わっていることが目立ちます。しかし、一方でひとつのことへの集中力や活発性が際立っているというプラス面も持っています。
目立つ自閉症スペクトラム(ASD)での偏食
発達障害はいくつかのタイプがありますが、代表的なものが自閉症スペクトラム(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)です。この中でしばしば偏食がみられるのがASDです。
ASD児の極端な能力の片よりは、偏食へのつながりを暗示するかのように思われます。なお、自閉症スペクトラムは、以前は自閉症、アスペルガー症候群などと別々の障害とされていたのですが、一つの連続した症状としてまとめた新たな分類方法です。
相互的な対人関係の障害、コミュニケーションの障害、興味や行動の偏り。
●注意欠如・多動性障害
発達年齢に見合わないような多動・衝動性、あるいは不注意、またはその両方の症状。
●学習障害
知的発達には問題はありませんが、読む、書く、計算するなど特定の事柄が苦手。
原因は生まれつきのもの
発達障害は生まれつき脳の機能が通常と異なって発症するとされています。ただ、そのメカニズムは解明されていません。最近研究が進んでいるASD(自閉症スペクトラム)については、遺伝的要因が関与しているということがわかってきています。
たとえば、兄弟のうち一人が発症すると、もう一人の発症率が高まることがわかっています。とはいえ、遺伝子が全く一緒のはず一卵性双生児の場合、一人だけしか発症しない傾向が見られます。ということは、遺伝要因以外にも、環境要因が考えられるということです。
環境要因としては、親の年齢、出産時の合併症、妊娠時の食事、汚染からの影響などが考えられています。症状の特質から、家庭における教育やしつけのせいのように思われがちですが、後天的な家庭の教育は無関係です。
環境を調整して良い方向へ導ける
発達障害は、生まれつき脳の発達が通常と違っているためにあらわれる先天的な障害ですから、現在の医療技術では根治は望めません。しかし、その特性を本人はもとより家族や周りの人が理解し、日常の暮らし方や過ごし方を工夫すれば社会的に適応し、もって生まれた得意分野の能力を生かして、しっかりと生きて行くことができます。
また、一時的に症状を落ち着かせる薬を用いることで、適応の手助けをおこなうこともあります。
なぜ発達障害が偏食につながるのか
ASD児を対象にした「自閉症児の食嗜好の実態と偏食への対応に関する 調査研究」によると、偏食に困っている保護者は、81.2%に達しています。また、幼児群での偏食は、89%にも上っています。
極端な「偏食」
こだわりが強いASD児の偏食は、かなり頑固で、極端な形で現れます。例えば、白米や食パン、豆腐など白いものしか食べないという子どもいれば、イチゴやコロッケを嫌うケースもあります。
いかにも美味しそうな、赤くてぽっちゃりと丸いイチゴの中にあるツブツブが、気味が悪い、怖いというのです。コロッケのサクサクした食感が、ASD児には、口の中を針で刺されているように感じられ、「痛くて食べられない」と訴えるケースもあります。ほかにも食べているときの音が気になってしまうなど、感覚過敏の傾向がみられます。
ASD児の感覚過敏
ASD児の感覚は過敏だと言われています。まぶしい光に過敏に反応する視覚過敏、嫌な音に過敏に反応する聴覚過敏があれば、臭いや触覚、味覚に過敏に反応する臭覚過敏・触覚過敏・味覚過敏があります。
ASD児の偏食は、こうした食事の時に働く感覚が過敏なために生じていると考えられます。大人の味覚では、苦みのある山菜や野菜が独特の美味として好まれますが、ASD児にとっては、苦さ10倍、20倍かもしれません。
食感や歯ごたえのいいものも、砂だしに失敗したあさりを食べるようなじゃりじゃりした砂を噛むような不愉快な触覚かもしれません。こうした過敏な感覚が、偏食を誘発していると考えられています。
ASD児の強いこだわり
ASD児の強いこだわりも偏食の要因になっています。ASD児は、変化するものへの適応が苦手です。嫌いなものでも、試しに食べてみようという努力が希薄です。
ですから、一度「これは受け付けない」と思ったものは、いつまでも嫌いなままで、これを頑として守ります。このこだわりが、偏食を固定化し、特定の何かを食べずに、逆に特定の何かだけを食べようとします。
無理強いは逆効果
「なんでも食べなきゃ、強くならないからね」とか。「贅沢言ってはいけません」などのスパルタ式の厳しいしつけは、普通の子どもならまだしも、ASD児には通用しません。
そのようなことをすれば、眼を離した隙に食べられるものを探し出したりします。また、かんしゃくで対抗され、場合によっては脱水症状や栄養失調で入院する結果を招くこともあります。無理強いは逆効果です。
徐々に食べられるものを増やしていく
食べられるものを食べさせるというのが基本です。一体に、ASD児は、菓子類を好みます。それは味がはっきりしているからだと思われますが、これらの好きなものからスタートし、あとは食事の仕方や調理法を工夫して徐々にメニューを増やしていきます。
ちなみに、先に紹介した「自閉症児の食嗜好の実態と偏食への対応に関する 調査研究」では、好きなもののベスト10は次のようになっています。
①フライドポテト
②麺類
③揚げ物
④スナック菓子
⑤ジュース
⑥ハンバーグ
⑦カレーライス
⑧混ぜご飯
⑨スパゲティ
⑩ケーキ
食べてもらう工夫さまざま
ASD児の偏食を克服するために、食事の仕方や食べ物の選び方や調理法に関して、専門家の様々な工夫を紹介しましょう。
●完食を目指す。完食したら褒める。
●完食できるようになったら、普段食べているものの他に1種類だけ、食べられるものと似たような味、形、食感のものを増やしてみる。
●新しい食べ物に挑戦する場合、スプーンの先にほんの少しだけのせた程度の量から始める。見た目や匂だけで拒否反応を示したら、さっと引っ込めていつもの食べ物に変える。母親との信頼関係を壊さないために。
●固いものが食べられない子どもには、食材をミキサーにかけたり、ふやかしたりして食感を軟らかく仕上げ、反対に、軟らかい舌触りが苦手な子どもには、具材を素揚げして、サクサクの食感で提供するなど調理法を工夫する。
専門機関に相談する
あまりに偏食が強くて、どんなに工夫しても食べてくれないという場合は、栄養補助食品やサプリメントで、栄養をカバーするということも考えられます。
しかし、この場合は、療育センターなどの専門機関に相談することをお勧めします。療育センターでは、発達障害児の偏食にも取り組んでいます。
偏食は対応をしっかりすればなおりうる
育ちざかりの子どもの偏食は、とても気になるところです。それも先天的な感覚過敏やこだわりといった疾患によってもたらされているとなると、普通の子の偏食とはちがって、心配や不安も倍加します。
しかし、数少ない特定のものしか食べられなかった子供が、数年かかったとしても、工夫次第では少しずつ食べられるものが増えてくるというケースも少なくありません。
無理矢理に嫌な物を食べさせられることがないということを子供が理解し、食べることで親が喜んでくれるということが分かってきたら、「興味はないけど食べてもいい」くらいに変化し、うまくいけば食べることを楽しむようになる時が来ることも期待できます。