うつ病になると、憂鬱で気分が落ち込み何をする気にもなれなくなります。加えて、眠れない、食欲がない、疲労や倦怠感がとれないという身体症状もあらわれてきます。
こうしたうつ病を克服するためには、専門の医療機関で治療に取り組むことが重要ですが、最近では、日常の食事によって、症状を改善する(悪化させない)という知見も見られるようになりました。そこで、最新のうつ病の「食事療法」についてまとめてみました。
目次
うつ病に食事は関係あるの
栄養素や食生活と関係は深いとされている
腹痛や下痢や便秘などの身体症状を改善するための食事療法というのは、素人にも分かりやすい関係です。しかし、精神症状の一つであるうつ病と食事の関係というと素直に頷けないところがあります。
しかし、最近の研究では、食生活とうつ病は深い関係があることが分かってきています。その鍵の一つがセロトニンです。
精神を安定させるセロトニン
セロトニンは脳内神経伝達物質の一つで、精神を安定させる働きをします。ところが、何らかの要因で神経伝達物質の機能が低下し、情報の伝達がうまくいかなくなることによって、うつ病の状態が起きていると考えられています。
そこで、薬物療法では、セロトニンとノルアドレナリンに働きかけるSSRI(選択的セロトニン再取り込阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込阻害薬)が用いられています。こういうことがわかってくると、セロトニンを含む食物を摂取すれば、いいのではないかと思われてきます。
セロトニンを分解するトリプトファン
ところが、セロトニンをそのまま食べても脳には届きません。というのも、摂取されたセロトニンは、胃や腸などの消化管で消化されて血管内に入りますが、脳に入るために必要な入口である脳血管関門を通れません。
しかし体内で合成されるセロトニンの原料ともいうべきトリプトファンは脳血管関門を通過できることがわかっています。ですから、意識するのはセロトニンの摂取よりもトリプトファンの摂取の方がよいでしょう。
効果があるとされている食生活や食事
食生活とうつ病にはある種の相関関係があることがわかりました。では、具体的にどのような食事がうつ病に効果があるのでしょうか。
トリプトファンを含む食品
トリプトファンはタンパク質を多く含む食べ物に含まれています。具体的には肉類や魚類、たらこなどの動物性タンパク質、また納豆など豆類の植物性タンパク質にもある程度含まれています。
ただし、肉類を中心とした食生活は、うつ病リスクをあげるという報告もあります。ですから、魚類や豆類を中心とした食事でタンパク質を摂取するというのが良いでしょう。
ビタミンB群
ビタミンB群が注目されているのは、セロトニンの合成を促進する物質だと考えられているからです。直接セロトニンを作る材料ではないものの、ビタミンB群を摂取するとセロトニンが作られやすくなります。
なかでも重要なのがビタミンB6、B9(葉酸)、B12です。これらのビタミンは、以下のような食物に含まれています。
ビタミンB6 | かつお・まぐろ・牛レバー・さんま・バナナ |
ビタミンB9(葉酸) | 菜の花・枝豆・ほうれん草・からし菜・レバー類 |
ビタミンB12 | 牛レバー・鶏レバー・カキ・さんま・あさり・にしん |
和食と地中海式食事
加工食品の多い西欧式食事よりも、地中海式食事や和食が望ましいとする見解もあります。地中海式食事と言うのは、野菜や果物、豆類、魚介類、穀物が豊富である一方、肉や乳製品(チーズやバター)はそれほど多く使わない食事です。
同じような食材が多く使われているということで、和食も注目されています。全体としていえることは、魚類、豆類、野菜、キノコ類、果物を中心とした食生活がうつ病の方の精神状態の改善には良いようです。
規則正しい食生活
うつ病に効果があるとされる食品をあげてきましたが、これらの食品をたくさん摂取すればうつ病に効くという即効性があるものではありません。これらの食品をバランスよく摂取していれば、それなりの効果が期待できるというレベルのものです。
それよりも実行したいのは、三度の食事をバランスよく規則正しく摂るということです。バランス良く食べることで、食べ物の栄養素は本来の役目を果たします。そのことによって、期待されている食品の栄養が脳に届きます。
また、また規則正しい食事は、規則正しい生活があってこそ実現できます。この生活態度が、うつ病のおおきな要因の一つであるストレスの解消につながることになるのです。
しないほうが良いとされている食生活や食事
ここでは、なるべく避けたい食生活や食事についてのポイントをまとめますが、一言で要約すれば、乱れた食生活を断ち切る、ということにつきます。
朝ご飯を食べない
三度の食事を規則正しく摂るというのが、うつ病に限らずあらゆる病気に対する根本的な予防法です。朝食を抜くということは、この原則に違反していますから、明らかにバツです。
また、朝食を抜くと自律神経も乱れがちになり、イライラして精神に負荷をかけることになります。
食事は体のリズムを調えるのに重要な役割を果たしています。仕事にかまけて、三度の食事の中で朝食は一番抜かれがちですが、生活のリズムを維持するためにも、決まった時間にきちんと食べるようにしましょう。
また、朝食をとっても、せかせかと早食いしては、せっかくの朝食も台無しです。
なるべく避けたいファストフード・ジャンクフード
海外の調査ですが、スペインのラスバルマス大学、グラナダ大学が9000人を対象に調査を行ったところ、ハンバーガー、ピザ、ドーナツなどをよく食べる人は、そうでない人に比べてうつ病リスクが高まるという結果になったということです。
調査によれば、ファストフードを最も多く食べた人と、最も少なく食べた人を比べると、うつ病リスクは51%上昇したということです。
カフェインの過剰摂取
一日に5杯も6杯もコーヒーをのむというカフェインの過剰摂取も避けたいところです。なお、カフェインは珈琲だけではなく、コーラやパワードリンクにも使われていますので、この分も含めて摂取量を減らしましょう。
食べ物は薬ではない
「〇○に効く食べ物」という広告を目にしますが、食べ物は薬ではありませんから、それを摂取したから病気が治るというものではありません。あくまで、それらの食べ物をバランスよく、長期間にわたり規則正しく摂取すれば、症状が改善する可能性があるということを忘れないようにしてください。
そのためには、食べ物そのものもさることながら、三度、三度の正しい食生活が重要です。