てんかんは突然に発作が起こり、気を失うなどしてしまう病気です。
0.5%から1%、おおよそ100人に1人がてんかんを発症するともいわれており、さらにいつでもだれにでも発症する可能性があります。
車を運転中にてんかん発作が起きることで大きな事故のきっかけになってしまうなど、とても危険な面がありますが、8割ほどのてんかんは治療によって発作を抑えることも可能なため、適切な治療を受けることは極めて重要です。
目次
てんかんの症状
「てんかん発作」が繰り返し起こります。発作は脳内の電気信号が過剰になることで起こり、症状は脳内のどこの電気信号が過剰になったかによって変わります。ピカピカと光が見えるようになる発作もあれば、気を失って全身が痙攣する発作もあるなど、症状は様々です。また、てんかんは発作中に気を失うものもありますが、気を失わないものもあります。
「てんかん」というといきなり人が意識を失って全身が痙攣するというイメージで想像されがちな一方で、実際のてんかん症状のあらわれ方は多種多様なため、てんかん発作を起こしてもそれがてんかんであると気が付かないこともあります。
てんかんの症状以外の性質もまちまちで、小児期に発症して、それ以降は数年に一度発作が出て成人になるころには発作が出なくなるてんかんがある一方で、抗てんかん薬の服用などの治療をおこなっても発作が止まらず、社会生活に支障をきたすこともあります。
「全般てんかん」と「部分てんかん」
発作のタイプは人によって違いますが、大きく分けると、「全般てんかん」と「部分てんかん」の二つに大体は分けられます。
全般てんかんは脳の大部分の電気信号が過剰になることによっておこります。全般てんかんの発作では、基本的には意識障害が起こります。気を失って全身がけいれんするという「てんかん」という名前から想像しがちな症状も全般てんかんで起こります。
しかし、急に意識がなくなって倒れることもなく短時間ぼんやりするという「てんかん」という名前からは想像しづらい、目の前で誰かがそうなってもてんかんであると気づかないような症状も全般てんかんでは起こります。
部分てんかんは脳の一部で電気信号が過剰になることで起こります。その興奮した脳の一部がどのような役割を持っているのかによっててんかんの症状が変わります。体を動かす役割を持った脳の一部が興奮すると体が痙攣したりしますし、感覚をつかさどる部分が興奮すると本当は存在しないはずの光が見えたりします。
てんかんは大きく分けると部分てんかんと全般てんかんに分けられますが、部分てんかんから始まって脳の興奮が広がっていき、全般化していくこともあります。また、部分てんかん、全般てんかんのどちらともいえず、分類不能とされる転換もあります。
部分てんかんの「単純部分発作」と「複雑部分発作」
部分てんかんでは発作の時に意識障害が発生するものもあればしないものもあります。意識障害が発生しないものは「単純部分発作」、意識障害が発生するものは「複雑部分発作」とそれぞれ呼ばれます。
単純部分発作では意識障害が発生していないので、てんかんを発症した本人が、自分がどのような発作を起こしているのかを確認することもできます。本人の意識がある状態で体の一部が勝手に動いたり、不思議な光や音を感じたりします。
複雑部分発作では、意識障害が発生し、いきなり動かなくなったり、口をもごもごさせたり、ふらふらと歩き回るといった意味のない動作を繰り返したりします。意識障害が発作で発生しますが、発作が起こる前に本人が前兆を感じ取ることもあります。
実際には意識障害が起こっているのですが、転倒したりせずに発作による行動をしているところをほかの人が見ると、本人が自分の意思で急に変な行動をとり始めたように見えることもあります。
てんかんの原因
てんかんには、原因不明の「特発性てんかん」、原因が明らかな「症候性てんかん」があり、その割合は6:4ほどです。
特発性てんかんは、実際に発作が起こっているにもかかわらず、その原因となる異常が脳のどこにも見つからないというものです。特発性てんかんが発症するかどうかに関しては、体質が関係しているといわれています。
特発性てんかんを発症する時期は小児期が多く、これは子供の脳がどんどん発達している状態であることなどが関係しているといわれています。
症候性てんかんは、てんかん発作の原因となるものがはっきりとしているてんかんです。脳卒中や脳腫瘍などが原因になっています。
症候性てんかんを発症するのは高齢者が多く、これは例にあげた脳卒中や、脳梗塞といった脳血管障害などの、てんかんの原因となる症状を発症するのは高齢者に多いためです。
高齢者に多いといっても、症候性てんかんの原因となる脳梗塞などは高齢者に限定されたものではないので、小児期や青年期にも症候性てんかんは発症します。脳血管障害以外にも、小児期であっても先天性の疾患が原因の症候性てんかんなどが発症しますし、青年期を含め、様々な時期に外傷が原因の症候性てんかんになることがあります。
てんかんの誘発因子
発作を誘発するものとしては、睡眠不足や心身の疲労、光などの特定の刺激があります。
人によって誘発の程度は違いますが、特定の条件で必ず、あるいは高い確率で発作を起こすという人もいますので、てんかん発作が起きる場合はその時の状況についてもしっかりと把握しておくことが重要です。
てんかんと遺伝
てんかんは発症するとものによっては一生の付き合いになってしまい、なおかつ理由が不明なケースも多い難しい病気です。そのため、てんかんが遺伝してしまうのではないかという考えに至る方もいらっしゃいますが、てんかんは基本的には遺伝しません。極めて一部の種類のてんかんは遺伝しますが、その限られたてんかん以外は遺伝しないと考えられています。
しかし、てんかん自体は遺伝しなくても、てんかんになりやすい体質自体はいくらか遺伝し、てんかんの方の子供はてんかんになる確率が少し高いともいわれています。
てんかんの治療方法
てんかんの発作を抑える抗てんかん薬での治療が行われます。抗てんかん薬を飲み続けることで発作が起こらなくなったら普通に生活することができますが、症状は突然、一時的に現れるので、てんかんの発作がもう起こらないと判断するのは難しく、時間がかかり、長期間の薬物療法が多くなります。
また、抗てんかん薬は原因が脳梗塞などと明らかな症候性てんかんよりも、原因のわからない特発性てんかんに対しての方が、効果が出やすい傾向にあります。
抗てんかん薬にはいくつもの種類がありますが、これは「てんかん」といっても、すべての人が全く同じ発作をしているわけではなく、薬の効き目がまちまちであることが原因です。そのために、何種類もの薬の中からよりその人に効果を発揮できる抗てんかん薬を選んでいくことになります。
抗てんかん薬による薬物療法以外にも、食事療法や機械を体に埋め込む治療方法もあり、また、原因がはっきりしているてんかんの場合は外科治療で治療できる可能性もあります。
抗てんかん薬について
主だったてんかんの治療には抗てんかん薬が用いられますが、その薬剤はカルバマゼピンやトピラマートなど、多くの種類があります。てんかんでどのような症状が表れるかは様々であるように、どの抗てんかん薬がどの症状のてんかんに効果を発揮するのかも様々です。
また、めまいや眠気などの抗てんかん薬自体の副作用もまた、一様ではありません。抗てんかん薬によってはアレルギーが出る人もいますし、妊婦の方への投薬には不向きなものもあります。薬によっては用法容量を守らなかった場合の危険性も高くなります。
そのため、いくつも抗てんかん薬がある中で、てんかん症状や薬の副作用、その他妊娠しているのかどうかなどの状況を考慮したうえで、使用される抗てんかん薬が決定されます。
副作用が怖いと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、処方された分をしっかり飲まないとてんかん発作を抑えることができませんので、しっかり薬を飲んだうえで、副作用と思われる気になる点があれば医師に相談することが重要になります。
てんかんがある人の車の運転について
近年、車の運転中のてんかん発作によるものと思われる事故がしばしば発生しています。車の運転手にてんかん発作がおこって気を失ったり体を自由に動かせなくなったりし、本人の意思とは関係なく車が暴走することが原因となっていると考えられます。このようなことから、てんかんの人が車の免許を保持することは難しいと思われるかもしれませんが、条件付きでてんかんを発症したことのある人も車の免許の取得、更新をおこなうことができます。
てんかんを発症したことのある人の車の免許の取得、更新の条件には「2年間以上運転に支障をきたす可能性のあるてんかん発作が起こっておらず、今後症状が悪化して発作が起こるおそれがないという診断が医師によってなされている」というような内容のものがあります。このような条件などを満たし、しっかりと自分がてんかんであることを申告するなどすれば、てんかん歴のある人でも免許の更新、取得ができます。
また、条件を満たしていれば、抗てんかん薬を飲み続けている人でも車を運転することができますが、車を運転する前に抗てんかん薬を飲み忘れないことが重要であり、求められます。
てんかんがある人の生活で気を付けるべき点
てんかんによる運転免許の制限など以外にも、てんかんのある人、特に気を失ってしまう全般てんかんの人は、日常生活において気を付けなければ命の危機におちいってしまうことがあります。特に一人で生活している人は家でてんかん発作によって危険な状況になっても救助が遅れてしまいます。
入浴は特に気を付けなければならないところです。入浴中に気を失うてんかん発作が起こってしまった場合は、おぼれてしまうこともあります。家族がいる方は、入浴する前に家族に声をかけるなど、入浴中に家族に気をかけてもらうことが重要になります。一人で暮らしている方の場合は湯船にお湯をためてはいるのはやめて、シャワーですますようにすることでリスクを減らすことができます。
火を使う調理も注意です。調理している最中に発作が起こると火事になってしまう危険性があります。そのため、なるべく火を使わない調理方法を選ぶ、コンロなどは火事防止のための機能がついたものを利用するなどといったことが重要になります。
また、アイロン等の熱を発する機器の使用にも十分な注意が必要になります。
その他にも、海や山でのレジャーでは発作が起きると危険な状況になることもあるため、注意が必要です。
駅のホームの端っこや車道のそばに立つことも、発作の際には重大な事態になることがあるため、気を付けなくてはなりません。