てんかんに合併しやすい精神障害はどんなものがある?


てんかんの特色は、突然意識を失って「てんかん発作」を繰り返す症状にありますが、もう一つ、発達障害、不安障害、うつ病などの精神疾患と併発しやすいことでも知られています。今回は、こうしたてんかんとの併発のケースをまとめてみました。

てんかんとは

まず、てんかんの原因と症状をまとめておきます。

慢性の脳疾患

世界保健機関(WHO)は、てんかんを次のように定義しています。「てんかんとは、種々の成因によってもたらされる慢性の脳疾患であって、大脳ニューロンの過剰な発射に由来する反復性の発作(てんかん発作)を特徴とし、それにさまざまな臨床症状及び検査所見がともなう」。

大脳の神経細胞(ニューロン)は、一定の規則正しいリズムで活動していますが、この神経細胞が、突然一時的に異常な電気活動(電気発射)を起こすことにより生じるのがてんかん発作です。

てんかんのタイプ

てんかんは大きく「症候性てんかん」と「突発性てんかん」に分けられます。

症候性てんかんは、生まれた時の仮死状態や低酸素、脳出血、脳梗塞、脳外傷など、脳に何らかの障害や傷を起因として起こります。突発性てんかんは、異常が見つからない原因不明のてんかんです。

このようにてんかんは、原因がわかるものとわからないものがありますが、前者が全体の約4割、後者が残りの約6割を占めるとされます。

全般発作と部分発作

以上は原因による分類ですが、症状(発作)という観点から分類すると部分発作と全般発作に分けられます。

全般発作は、文字通り脳全体の神経細胞が異常興奮を起こすことで発作が起き、意識消失を伴います。意識を失う発作から、筋肉のけいれんやこわばったりすることなど様々です。部分発作は、脳の一部の神経細胞が異常興奮を起こすことで発作が始まるタイプのものです。

発作時に意識障害がない場合を「単純部分発作」といい、意識障害を伴っている場合は「複雑部分発作」といいます。なお、部分発作から全般発作に変化する二次性全般化発作というものもあります。

てんかんの合併症

てんかんにはいくつかの合併症が存在します。代表的なものとしては発達障害があげられます。これは、発達障害もてんかん発作の要因となるような脳障害が存在するからだと考えられています。

一方、てんかんの発作を続けていると性格や気質が変わったり、突発的に異常な行動を取るようになることが指摘されています。つまり、てんかん発作の二次障害として、不安障害やうつ病などを発症するケースがみられます。

てんかんと発達障害

発達障害とは、発達過程の初期の段階で何らかの原因によって発達が阻害された障害です。その結果、認知、言語、社会性、運動の機能などに問題が生じる障害です。

発達障害は脳の機能障害

発達障害は、先天的な脳機能障害が原因となって生じますが、なぜ脳の機能障害が引きおこされるのかについては、まだ完全に解明されていません。

発達障害には、重症心身障害(重複障害)や視聴覚障害、脳性麻痺,知的障害、自閉症、てんかんなどが含まれます。発達障害支援法では、知的障害(精神発達遅滞)を合併していない、IQ70以上を発達障害と定義しています。

発達障害の主なタイプ

発達障害には、自閉症、アスペルガー症候群を含む自閉症スペクトラム(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)など様々なタイプがありますが、生まれつき脳の一部の機能に障害があるという点が共通しています。

また、これらのタイプが併存しているというケースも少なくありません。発達障害の主なタイプの内容をまとめると、以下のようになります。

●自閉症スペクトラム(ASD)
ASDの中のアスペルガー症候群とは、知的障害を伴わない自閉症のことで、高機能自閉症とも言います。相手の気持ちを察することができず、コミュニケーションが難しいとされる発達障害です。

●注意欠如・多動性障害(ADHD)
7歳までにあらわれるもので、発達年齢に見合わない多動・衝動的なふるまい、あるいは不注意などを特徴とする障害です。ADHDは、俗称ジャイアン型(多動-衝動優勢型)とのび太型(不注意優勢型)の二つに分けられます。

前者は、衝動性が強く、あれこれといろんなものに手を出して活動的ですが、あくまで衝動的にやっているので何もやり遂げられないことがしばしばです。後者はうっかりミスが多いタイプです。

●学習障害(LD)
全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の事柄のみが不得手という障害です。たとえば、読み書き等の一部のことが極端に苦手だったり、字がうまく読めなかったりします。

高い併存率

てんかんと発達障害の併発率が高いことはよく知られていることです。てんかんの発生時期は、幼児期(1~5歳)もしくは思春期(11~18歳)の二つの時期にピークがありますが、幼児期では、20%にASD、30%にADHDの併存が報告されています。

逆に発達障害小児でのてんかんの併存率は、ASDで5~38%、ADHDで12~17%です。また、てんかん発症後の小児のうち3分の2に発達障害様症状が認められたという報告もあります。

てんかんと知的障害

「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障をきたしているために何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」が知的障害です。

知的障害とは

具体的には、知能検査による知能指数が70までのもので、運動機能やコミュニケーション能力、学習能力などが同年齢の水準に達しない人たちです。知能指数の程度に応じて最重度知的障害(IQ~20)、重度知的障害(IQ21~35)、中度知的障害(36~50)、軽度知的障害(IQ51~70)4つに類別されています。

発達障害よりも高い併発率でてんかんと知的障害の併発も良く知られているところです。中でも重度の知的障害と身体障害をもつ「重症心身障害」では、およそ30〜60%にてんかんを合併するとされています。

発達障害よりも併発率が高いのは、元々の病気である脳の障害に左右されるところが大きいようです。てんかんの中でも併発率が高いのは、症候性全般てんかんです。特発性てんかんでは一般的に知的障害を認められていません。

てんかんと精神障害

てんかんはうつ病、不安障害などの精神障害と深くかかわっています。その併存率は、うつ病で11~40%、不安障害で15~20%という報告もあります。てんかん発作では、精神症状に似た症状があらわれます。

てんかんとパニック障害

不安障害というのは、不安を主症状とする精神疾患群をまとめた総称で、強迫障害、対人恐怖症、パニック障害などがその代表的なものです。てんかんとの併発率が高いのはパニック障害です。

突然理由もなく、動悸やめまいがしてきて、吐き気や手足の震えといった発作を起こすのがパニック障害(発作)です。このパニック発作は、死んでしまうのではないかと思うほど強いものです。

似て非なる発作も

てんかんと同じように脳を原因として併発している不安障害もありますが、注意すべきは「偽発作」と呼ばれる似て非なる発作があることです。

パニック障害では「このまま死んでしまうのではないか?」という恐怖心に捉われますが、実際に倒れたり、意識を失くして失神に至ることはありません。これに対して てんかんは、意識がなくなります。

また発作の時間に大きな違いがあります。パニック障害は30分以上1時間未満で発作が起きますが、 てんかんは僅か数分で発作が収まってしまいます。

症状が似ている過換気症候群

不安障害の中に過換気症候群という発作の頻度の高いものがあります。突然の不安感から息苦しさや動悸が激しくなり、両手両足のしびれ、そして意識ももうろうとしてきます。

最終的に、全身けいれんと同様に激しい発作や騒ぎ立てたりします。問題なのは、てんかん発作とこの不安発作が、一人の患者さんに同居していることがあるということです。

てんかんの二次障害としてのうつ病

うつ病の患者は、人口の2~4%だとされていますが、てんかん患者に限ってみると11~44%にものぼるというデータがあります。その原因としては、てんかん患者の生活の質(QOL)が著しく低下していることがあげられています。

てんかんの患者は、てんかん発作という厄介な発作を抱え、てんかんに対する偏見もまだ残っています。こうしたストレスにさらされ、ストレスが蓄積した結果、二次障害としてうつ病を誘発するとも言われています。

早期の発見、早期の療育、早期の治療

てんかんの発作を一度でも見た人は、その発作のありさまに恐怖感をいだかれたのではないでしょうか。しかし、近年の医療技術の進歩で、病状をコントロールできるようになってきています。

ですから、いちはやく兆候に気づき、正確な診断のもとで早期に治療・療育に取り組むことが重要です。そのことによって、他の疾患との併発を防ぎ、負のスパイラルに陥るリスクを避けることができます。


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