精神障害者保健福祉手帳は、精神障害者に国から発行される障害者手帳です。精神障害者保健福祉手帳は、てんかんの患者さんにも適用されます。
精神障害者福祉手帳とは
障害者が様々なサービスを受けられるようになる手帳
現在、我が国には3種類の障害者手帳が発行されています。身体障害者を対象としたものが身体障害者手帳、知的障害者を対象としたものが療育手帳、そして精神障害者を対象としたものが精神障害者保健福祉手帳です。
精神障害者保健福祉手帳は、精神障害者の自立と社会参加の促進を図るため設けられたもので、手帳を持っている人には様々な公的支援策が講じられています。
精神障害者保健福祉手帳の対象となるのは・・・
発達障害などを含む何らかの精神疾患により、長期にわたり日常生活または社会生活への制約がある人が対象です。この中にはてんかんも含まれています。
ただし、知的障害はあるが精神障害はないという人には療育手帳が交付されるため、精神障害者保健福祉手帳の対象とはなりません。知的障害と精神障害の両方がある場合は、両方の手帳を受けることができます。精神障害者保健福祉手帳の対象となる疾患は下記のような疾患です。
●うつ病、そううつ病などの気分障害
●てんかん
●薬物やアルコールによる急性中毒又はその依存症
●高次脳機能障害
●発達障害(自閉症、学習障害、注意欠陥多動性障害等)
●その他の精神疾患(ストレス関連障害等)
障害年金と精神障害者保健福祉手帳は別物
後述すように精神障害者保健福祉手帳には1級から3級までの等級があります。障害年金にも障害の程度に対応して1級から3級までの等級があることから、二つを混同している人もいるようですが、この二つは別の制度です。
精神障害者保健福祉手帳や身体障害者手帳は、病気や怪我によって日常生活に支障がある人に交付され、この手帳を提示すると交通機関での運賃が割引になったり、公共施設の入場料が割引になったりと、各種サービスが受けられます。
障害年金も同じように病気や怪我によって日常生活に支障がある人対する支援制度ですが、障害年金は年金ですから、公共施設の割引サービスなどではなく、障害を負ったことによる収入減を補うための金銭的支援制度です。
精神障害者保健福祉手帳の等級基準と支援の中身
精神障害者保健福祉手帳には障害の程度に応じて等級がつけられています。所得税や住民税などは、等級によって税金の額が減額されます。
1級から3級までの等級
精神障害者手帳には等級があります。重い順に1級、2級、3級となっています。
等級の大まかな区分をまとめると以下のようになります。
2級:精神障害であって、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの。
3級:精神障害であって、日常生活若しくは社会生活が制限を受けるか、又は日常生活若しくは社会生活に制限を加えることを必要とする程度のもの。
てんかんで申請した場合の等級基準
先に述べた等級は、精神障害の症状に対応した基準ですが、てんかんの場合は、以下に示す①~④の発作の頻度を基準に、等級が定められています。
② 意識障害の有無に関わらず転倒してしまう発作が月に1回以上あらわれ、常時介護が必要な場合
③ ぼーとしてじっと動かなくなってしまい、意識を失ってしまうが倒れない発作
④ 意識がはっきりしているが、意図した動きができない発作。
■ 表1 てんかんの等級の目安
1級 | 上記で述べた①と②の発作が月に1回以上あらわれ、常時介護が必要な場合。(日常生活を1人で送ることができない) |
2級程度 | 上記の①または②の発作が年に2回以上おこる場合。③または④の発作が月に1回以上現れる場合。(日常生活を送るうえで援助が必要) |
3級程度 | 上記の①または②の発作が年に2回未満おきる場合。③または④の発作が月に1回未満おきる場合。(日常生活や仕事など社会生活に制限を受けている状態) |
■ 全国一律の支援(サービス)と自治体ごとの支援
精神障害者保健福祉手帳を提示すると公共料金の減免や割引などの支援(サービス)を受けることができます。支援の内容は、全国一律のものと各自治体や事業所ごとの支援があります。
■ 表2 精神障害者保健福祉手帳で受けられる支援の例
全国一律の支援 | 自治体・事業所ごとに行われていることがある支援 |
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公共料金等の割引 NHK受信料の減免 税金の控除・減免(表3参照) 生活福祉資金の貸付 障害者職場適応訓練の実施 | 公共料金等の割引 鉄道、バス、タクシー等の運賃割引 携帯電話料金の割引 上下水道料金の割引 心身障害者医療費助成 公共施設の入場料等の割引 手当の支給等 通所交通費の助成 軽自動車税の減免 公営住宅の優先入居 |
等級による税金の控除
表2まとめた支援は、等級に関わりなく一律に受けられる支援ですが、所得税や相続税は、等級に応じた控除が定められています。これをまとめたのが表3です。
■表3 等級による税金の控除
所得税の控除 | 1級は40万円の控除、2級・3級は27万円の控除 |
住民税の控除 | 1級は30万円の控除、2級・3級は26万円の控除 |
相続税の控除 | 1級は85歳に達するまでの年数1年につき×12万、2級・3級は85歳に達するまでの年数1年×6万 |
贈与税の非課税 | 1級は非課税6000万、2級・3級は3000万 |
自動車税・自動車取得税 | 1級は税の軽減 |
市区町村役所の障害福祉課に申請する
精神障害者保健福祉手帳の申請窓口は、市区町村役所の障害福祉課です。申請は、家族や医療機関関係者などが代理で行うこともできます。
申請に際しては、診断書が必要です。診断書は、精神障害の初診日から6か月以上経ってから、精神保健指定医(または精神障害の診断又は治療に従事する医師)が記載したものです。このほかに本人の写真も必要です。
なお、診断書記述料は病院によってそれぞれですが、一定の金額を助成してくれる制度がある自治体もあります。事前に確認してみてください。
有効期限は2年
身体障害者手帳と違って、精神障害者福祉手帳は2年の有効期限が設けられています。更新時には診断書も提出し、支給か不支給か、等級は何級かということも新しく判断されることになります。
てんかんの概要
一見、精神障害とは無縁なようなてんかんにも精神障害者保健福祉手帳が適用されるというのが今回のテーマです。そこで、最後にてんかんの症状と治療に関して簡単にまとめておきます。
てんかんは発作が起きる疾患
てんかんは、突然意識を失う「てんかん発作」を繰り返す病気です。大脳の神経細胞(ニューロン)は一定の規則正しいリズムで活動していますが、この神経細胞が、突然一時的に異常な電気活動(電気発射)を起こすことにより生じるのがてんかん発作です。
てんかんは大きく「症候性てんかん」と「突発性てんかん」に分けられます。
症候性てんかんは、生まれた時の仮死状態や低酸素、脳出血、脳梗塞、脳外傷など、脳に何らかの障害や傷を起因として起こります。突発性てんかんは、異常が見つからない原因不明のてんかんです。
このようにてんかんは、原因がわかるものとわからないものがありますが、前者が全体の約4割、後者が残りの約6割を占めるとされます。
発症する年齢は決まっていなくいずれの年齢層でも可能性はありますが、小児と高齢者での発症率が特に高いといわれています。
人によって様々なてんかん発作の現れる
てんかん発作というと、気を失って倒れて、全身がけいれんする恐ろしい症状を連想しがちですが、実際の症状は実に多彩です。てんかん発作は、脳のどの範囲で異常な電気発射が起こるかにより異なります。
てんかんは発作の部位を基準に、部分発作と全般発作に分けられますが、部分発作では、後頭葉の視覚野で起これば光がチカチカ見え、手の領域の運動野で起これば手がピクピク動く、側頭葉で起これば前胸部不快感や既視感などの症状を示します。
一方、全般発作では電気発射が脳全体広がるため、意識を失う、倒れて全身を痙攣させるなどの症状になります。そのため、患者さん自身は周囲の状況がわからない状態となります。
また、全般発作には、ミオクロニー発作(身体の一部、または全体が一瞬ぴくんと動く)や、脱力発作(突然身体の力が抜け倒れる)、自動症(手足、口をもそもそと動かす)などがあります。
てんかんが現れるタイミングは人による
人によって、睡眠中のときに現れる人、目が覚めているときに現れる人、どちらの場合でも現れる人などタイミングは様々です。一般に覚醒型(34%)、睡眠型(45%)、混合型(21%)という統計がありますが、年齢とともにこの型が変化することがあります。
思春期に発症するてんかんに「覚醒時大発作てんかん」というのがあります。これは文字通り多くは朝方、強直間代けいれんの大発作をおこします。
抗てんかん薬での治療が行われる
てんかん発作によって短い時間とはいえ意識が消失するということは、社会生活を営む上で大きなハンディキャップになります。
てんかん治療の目的としては、いかに発作を減らし、意識を失う回数を減らすかになります。治療方法としては、主に抗てんかん薬の調整による薬物療法が実施されています。
ただ、てんかん発作が本当にもう起こらないかどうかを判断することが難しいため、長期間、薬を飲み続けることにいなります。自己判断で薬を中断しないことが、発作を防ぐうえで重要です。
支援のメリットを利用するために一度は申請するか考えてみても
精神障害者保健福祉手帳を持つことによって受けられるさまざまな支援について述べてきましたが、てんかんの患者さんの中には、「精神障害」という名前を気にしてためらう人もいます。
しかし、交付される手帳には、「障害手帳」とあるだけで、疾患の名前がわからないような配慮もされています。ですから、てんかんの症状をもつことで日常生活や社会生活に支障をきたしているなら、ためらうことなく精神障害者保健福祉手帳を申請されることをお勧めします。