生まれつき脳の発達が通常と違っているために、幼児のころからあらわれてくるいくつかの特徴的な障害が発達障害です。
コミュニケーション能力のゆがみや、過剰な衝動性があらわれる発達障害は、最近では「大人の発達障害」などと呼ばれることもあります。実は発達障害だったのに、大人になるまで気が付かなかったというケースです。発達障害では、早期に発見し、それぞれのタイプに応じた取り組みが非常に重要です。
目次
そもそも発達障害とは
発達障害はいくつかのタイプに分類されています。今回とりあげるアスペルガー症候群、ADHD(注意欠如・多動性障害)、学習障害は、発達障害に含まれる障害ですが、このほか、自閉症、チック障害なども含まれます。
発達障害は、生まれつき脳の一部の機能に障害があるという点が共通していますが、同じ人にいくつかのタイプの発達障害があることも珍しくありません。そのため、同じ障害がある人同士でもまったく似ていないように見えることがあります。個人差がとても大きいという点が、発達障害の特徴といえるかもしれません。
発達障害|病名から知る|こころの病気を知る|メンタルヘルス|厚生労働省
原因は生まれつき
子どもが発達障害だと診断されたとき、自分の育児が間違っていたのか、と思って落ち込むお母さんがいます。しかし、発達障害は生まれつきの先天的な脳の障害ですから、育児やしつけといった広い意味での教育によって生じたものではありません。
ただし、発達障害の特徴をメリットにできるか、単なるデメリットにしてしまうかは教育が大きく関係します。
「発達障害」の特徴はまちまち
発達障害は、自閉症スペクトラム障害(自閉症・アスペルガー症候群)、ADHD、学習障害などの総称ですが、この中の一つのタイプにみられる特徴だけをあらわすわけではありません。
また、どれか単一の発達障害だけがあるとは限らず、いくつかの発達障害の特徴的な症状が同時にあらわれるることがあります。
デメリットばかりではない
発達障害の育児は大変ですが、一方で、過剰な衝動性の裏側に特殊な能力を秘めています。たとえばアスペルガー症候群は、コミュニケーション能力に欠陥が見られる一方で、一つのことを集中して深く追究していくのは得意だといわれています。つまり、夢中になって一つのことに取り組むという能力を秘めているケースがみられるのです。
多動性が問題になるADHDは、エネルギッシュで行動的であるとも言えます。このように発達障害は、外にあらわれるマイナス面の裏にプラス面が潜在した障害でもあります。
環境が合えば優秀に
ですから、その人に合った取り組みをすることが、とても重要になってきます。ところが、発達障害の秘められたメリットを知らずに、普通の人並の成長を願って教育したり、障害だということに気づかずに就職したりすると、本人の能力を出し切れないまま苦しむことになります。
発達障害では、本人の特徴に合わせた環境が重要で、最適の環境に恵まれれば、優秀な結果を残すことにもつながってきます。
乳幼児の健康診査
以下に述べるような、公的な健康診査が乳幼児の成長段階に応じて実施されています。
健康診査では、健康状態のほか、発達の進み具合も調べられ、この審査で発達障害の疑いが指摘されることもあります。障害の発見が早ければ早いほど、より有効な対策を講じることができます。
1歳6か月児健康診査
満1歳6か月の子供を対象に行われ、1歳半検診とも呼ばれる健康診査です。発達障害であるとの診断はまだ確実にはわかりませんが、おおむね発達が遅れているかどうかはわかります。
3歳児健康診査
3歳の子ども行われる心身の様々な検診です。社会性や生活習慣の発達の確認、問題行動があるかどうかの確認、言葉の発達の確認、視力・聴力の確認、疾病の有無などの審査が行われます。
このとき、発達障害と判明することもあります。逆に言えば、三歳未満の子どもは、まだ発達障害であるかどうかの判断は下せないということです。
5歳児健康診査
5歳くらいになると、衣服の着脱や排泄など基本的な生活習慣はほぼ一人でできるようになります。また、スキップやジャンプが上手になり、箸が上手に使えるようになり、友だちとの協調性や共同性が出てきて一緒に遊べるようになります。この5歳児を対象に行われるのが5歳児検診です。
3歳児検診よりも発達の遅れなどがより大きくあらわれてわかりやすくなっているので、より正確な発達障害の診断が行いやすくなっています。
就学時健康診断
小学校に入る前の10~11月ごろに行われるのが就学時検診です。ここでは、以下のような検査が行われます。
・脊柱(せきちゅう)および胸郭(きょうかく)の病気および異常の有無
・視力および聴力
・眼の病気および異常の有無
・耳鼻咽頭の病気および皮膚の病気の有無
・歯および口腔の病気および異常の有無
・その他、知能、循環器、呼吸器、消化器、神経系についての検査(知能障害、結核、心臓の病気など)
知能検査の結果によっては、発達障害の可能性を指摘される場合もあります。ただし、引っ込み思案の子どもの場合、検査のとき緊張して本来の力を発揮できなかったということも考えられます。
必要以上に不安にならず、納得できなかったら専門家に相談されることをお勧めします。小学校は幼稚園などよりも人間関係や環境が複雑で負担も増えるため、発達障害という診断がされた場合には、普通級以外の選択肢についても考慮しなくてはいけないケースもでてきます。
ADHDは?
ADHDは注意欠陥性多動性障害とも呼ばれ、多動性、衝動性、不注意が目立ちます。学童期の子どもには3~7%に存在し、男児の方が女児よりも数倍多いと報告されています。
特徴
じっと座っていることができず手足をもじもじする、席を離れる、おとなしく遊ぶことができない、いつも動き回っていてしゃべり過ぎる、順番を待つのが難しい、他人の会話やゲームに割り込む、などの症状があらわれるのがADHDです。
7歳までにあらわれるとされていますが、症状の程度によって、「多動‐衝動性優勢型」、「不注意優勢型」、「混合型に分類」されます。
学校の勉強でうっかりミスが多い、課題や遊びに集中できないというのは、不注意優勢型の症状です。
一般的には成長とともに軽くなる場合が多いのですが、不注意や衝動性の症状は半数が青年期まで続き、その半数は成人期まで続くと報告されています。
幼少時のあらわれ方
とにかく動き回るという特徴が幼いころからあらわれます。幼児期は、動き回るのが当たり前ですが、4歳前後になっても、全く落ち着きがなく、はたから見て様子がおかしいほど動き回っているとADHDの可能性があります。
対処方法
集中力の欠如で勉強がなかなか進まない、というのがADHDの子どもを抱えたお母さんたちの悩みです。勉強などに集中しないといけないときには、本人の好きな遊び道具を片づけ、テレビを消すなど、集中を妨げる刺激をできるだけ周囲からなくすようにしましょう。
また、集中時間を短めに設定して、適度に休憩して、一度にこなさなければいけない量を少なめにし、効果的に休憩をとるようにしましょう。
アスペルガー症候群は?
アスペルガー症候群は自閉症スペクトラムともいわれ、コミュニケーションがうまく取れない発達障害としてよく知られるようになりました。
特徴
アスペルガー症候群は広い意味での「自閉症」に含まれる障害です。幼児期には言語発達の遅れがなく比較的わかりにくいのですが、成長とともに対人関係の不器用さがはっきりしてきます。
コミュニケーション能力に問題があり、物事のやり方を固定して、それにこだわる、特定のことに強く熱中する、といった特徴があらわれます。「適当にやっておいて」などの抽象的な表現や比喩的な表現の理解がとても苦手です。
また、感覚が過敏で余計な情報も感じ取ってしまうということがあります。最近では、幼児期に診断を受けるケースも増えてきています。早い時期に診断されれば、症状に対する効果的な取り組みができ、ひいては子どもの潜在的なプラスの能力の発達をサポートすることことに繋がります。
幼少時のあらわれ方
人と目を合わせなかったり、人の感情を顔などから理解するのが苦手です。
具体的には、ひとり遊びを好む、ごっこ遊びがうまくできない、同じ遊びを繰り返したがる、行動がパターン化し融通がきかない、などの症状があらわれます。ルールに従順ですが、融通がきかないので、突発的な出来事には弱いという特徴もみられます。
対処方法
抽象的な表現はなるべく使わないようにし、具体的でわかりやすい言葉で話して、集中できる場を作ってあげることがアスペルガー症候群の子供には必要です。
また、集団生活ではストレスをためやすいので、早い時期から、子どもにあった支援を専門家に相談して、子どもが安心して力を伸ばしていく環境づくりが重要です。
学習障害は?
全般的な知的発達に問題はないのに、読み、書き、計算などのごく一部の種類のことだけが極端に苦手になるのが学習障害です。
特徴
文字を読むこと、書くこと、計算することなど、ごく一部の行動の一つ、あるいはいくつかだけが極端に苦手になります。その一方で、それ以外のことには特に問題はみられません。有病率は、2~10%という報告もあります。かなり身近な障害といえるでしょう。
幼少時のあらわれ方
学習に関する発達障害ですので、学習が始まった以降にその特徴は現れます。学習にも個人差がありますから、すぐに学習障害であるとわかるわけではありませんが、小学生のころには一般的な発達との間の何らかの差が見られる子供がいます。
ただし極端に苦手とすることが、小学生以降の学習内容であった場合には、それを学習する時期に発覚することになります。このように症状があらわれる時期には、かなりのばらつきがみられます。
対処方法
苦手なことが子供によって違いますから、それに合わせた学習を行います。たとえば、読むことが苦手な子どもには、大きな文字で書かれた文章を指でなぞりながら読んであげたり、書くことが苦手なこどもには大きなマス目のノートを使い、計算が苦手の子どもには、絵を使って視覚化するなどの方法が実行されています。子供の精神的な負担をなるべく減らすような工夫が求められます。
子どもに合わせた学習環境を
突出して苦手の分野がある一方で、エネルギッシュな行動力や好きな分野では、突出して夢中になるというのが発達障害の子どもたちの特徴です。メリットとデメリット、マイナスとプラスが密接に関係しています。
ですから、子どもの特徴にあわせた教育を施すことで、プラスの面を引き立たせることにつながります。そのためには、早期に診断して、発達障害を受け入れ、最適の教育を行うことが重要になってきます。