過敏性腸症候群(IBS)は、主として大腸の運動および分泌機能の異常で起こる病気の総称です。IBSは、正式には便秘型、慢性下痢型、混合型、分離不能型(ガス型)の4つのタイプにわかれます。
今回のテーマは便秘型の特徴と対応策です。
目次
便秘型の特徴
機能性便秘
便秘には以下にあげるように、いくつかのタイプがありますが、便秘型IBSは、4、5のタイプの便秘です。
2)症候性便秘:内科的な病気が原因の便秘
3)薬剤性便秘:お薬の服用が原因の便秘
4)機能性便秘:偏った食事や運動不足といった生活習慣の乱れや、ストレスなどにより、腸の働きが低下することで生じるタイプの便秘。
5)便秘型IBS:腹痛や腹部不快感を繰り返すタイプの便秘。
4、5日以上排便がないと便秘
健康であれば、多くの場合、一日一回の排便があります。一日に2、3回、あるいは2、3日に一回の排便でも、特に問題がないケースが多いのですが、4、5日以上排便がないとなれば便秘です。
また、排便の際に硬い便やコロコロとしたウサギの糞のような便(兎糞状便)があれば、これはれっきとした便秘です。さらに腹痛や腹部膨満感があれば、便秘型IBSの可能性が高くなります。
便秘による様々な弊害も
便秘が続くと、腰痛が出てきます。腸に入りきれないほどの便がどんどん蓄積されることでお腹も張ってきて、血液の流れも悪くなり、腰痛を発症させます。
腰痛が悪化すると、椎間板ヘルニアやストレス性腰痛などを併発します。加えて、便秘が長く続いてしまうと精神的なストレスがかかり、うつ病を誘発する可能性も高まってきます。
便秘は命に関わるような大病ではありませんが、便秘を甘く見てはいけません。ほおっておくと、大腸がんや大腸ポリープといった命にかかわる大病にかかってしまう可能性も高まります。
女性に多い
IBSは、先進国に多い病気です。日本人では10〜15%に認められ、消化器科を受診する人の3分の1を占めるといわれるくらいです。
発症年齢は20〜40代に多く、男女比は1対1・6で、女性の発症率が高くなっています。中でも、便秘型のIBSは女性に多く、男性は下痢型が多くなっています。
便秘型IBSの原因
腸の動きが停滞している
IBSの原因は、まだはっきりとはわかっていませんが、ストレスが絡んでいることは間違いのないところです。脳がストレスを受けると、自律神経を介してストレスが胃や腸に伝達され、胃腸の運動異常を引き起こし、腹痛や便通異常が発生します。逆に下痢や便秘などの腸の不調も、自律神経を介して脳にストレスを与えます。
便秘型のIBSでは、自律神経の乱れによって腸の働きに異常が出てきて発症します。
そもそも、食べ物は大腸についた時点ではドロドロの液状です。そこから大腸を通るときに水分等が吸収されて、便としての形になっていいきます。
しかし、腸の動きが乱れると、便の水分が大腸で吸収されすぎ、硬い便の便秘となります。このような水分が抜けきって硬くなってしまった便が、ウサギの糞のようなは、兎糞状便です。
ストレスが腸の動きを狂わせている
腸の内容物を運ぶ「蠕動(ぜんどう)運動」をコントロールしているのが自律神経ですが、ストレスにさらされると自律神経に乱れが生じ、蠕動運動に異常が発生します。
また、消化管知覚過敏となり、心理的にも一種の強迫観念にとらわれるようになります。IBSの下痢型では、通勤・通学の電車の中や会議が始まる直前にしばしば現れます。
この状況は、症状がでてもすぐにトイレに駆け込めないような不安な環境です。いったんIBSの症状を経験すると、大きな不安を抱えて電車に乗り込むことになり、知覚過敏になってきた腸が反応し、腹痛、下痢の症状があらわれてきます。悪循環のスパイラルにはまってしまうわけです。
セロトニンに影響
腸の運動をコントロールするのは自律神経ですが、神経伝達物質、セロトニンも腸の運動に関与していることが分かっています。セロトニンの90%は、腸内で作られます。
ストレスがかかると、セロトニンの分泌が正常に働かず、腸の蠕動運動に異常が生じて、IBSの症状を発生させるとも考えられています。
身体的な負担による悪影響も
ストレスのほかに、身体的な負担による要因もIBS発症の契機となります。例えば寝不足や、身体的な疲労、急な寒暖差などは自律神経を乱す要因として考えられます。
もっとも、身体的な不安が直接的な引き金になるというよりも、身体的負担がストレスを呼び込んで発症につながるというべきでしょう。
食事の影響も受けている
IBSが腸の運動の異常であるからには、当然、食事の影響も無視できません。実際、IBSの治療の中には、食餌療法も取り入れられています。
よく知られているのが「FODMAP(Fermentable、Oligo-、Di-、Mono-saccaharides and Polyols)」です。
FODMAPは、「発酵性のオリゴ糖、2糖類、単糖類、ポリオール」という意味ですが、これらの摂取量が多いとIBSが悪化しやすいとされています。
治療法
IBSにとって、大切なことは日ごろからのストレス・ケアです。そのためには、生活習慣と食生活について、見直してみることも欠かせません。
日頃のストレスを減らす
ストレスを減らすにはどうすればいいのでしょうか。仕事のストレスを自分の意志でコントロールするには限度があります。働いている以上ストレスは、織り込み済みです。
それよりも、たまったストレスを発散する手法を身に付けることが重要です。週末には、気心の通じる友だちとの飲み会(ストレス発散会)をするとか、泣けそうな映画を観て思い切り涙を流するとか、スポーツ観戦にでかけるとか、人それぞれのストレス発散の手法を身に付けることをお勧めします。
健康的な生活を心がける
健康な生活とは、どんな生活なのでしょうか。考えてみると、私たちは、知らず知らずに不健康な生活に慣れきっていることに気づかされるものです。
健康な生活とは、具体的には次のようなことです。早寝早起きは無理としても、今より1時間早く寝て、1時間早く起きる。暴飲暴食を避ける。決まった時間に食事をする。休みの日には、なまった体に活を入れるための運動をする。
この中の一つを地道に実行するようになると、他のこともおのずから整ってくるものです。
食事に気をつかう
食事のポイントはいくつかありますが、IBSの食事で重要なのは、腸内の老廃物を体外に排出してくれる食物繊維を含んだ食品をとることです。
食物繊維には不溶性食物繊維と水溶性食物繊維がありますが、植物繊維なら何でも良いというわけではなく、偏らず、バランスを考えてとるようにしましょう。
ちなみに、不溶性食物繊維は、ごぼう、ブロッコリー、さつまいも、いんげん豆、大豆などなど、水溶性食物繊維は、わかめ、昆布、しいたけ、りんご、バナナなどです。
このほか、アルコール、コーヒー、辛いものなどの刺激の強い食物は要注意です。
薬を服用する
市販の便秘薬もありますが、できれば医師の診断を受けたうえで、飲む薬を決めることをお勧めします。というのも、同じIBSでも、下痢型には効果的でも便秘型には不適合という薬もあるからです。
また、症状によっては、男性と女性では、薬が子となるということもあります。
一般的な便秘対策を行う
以下に示すような、IBSを離れた一般的な便秘対策も実行してみましょう。
便の元がなければ、便も出るに出られません。朝食後は、便意がなくてもトイレに坐るような習慣をつくるようにしましょう。
●水分をしっかり摂る
水分が不足すると、便が固くなってしまい便秘になりがちです。
●体操
腹筋が弱って便が出てこないというケースもあります。腸の周りの筋肉を鍛えると便が出やすくなります。
●ツボのマッサージ
便秘解消に役立つツボは、「大腸愈(だいちょうゆ)」、「小腸兪(しょうちょうゆ)」、「足三里(あしさんり)」、「支溝(しこう)」)などがあります。
便秘を甘く見てはいけない
便秘で医者にかかるなんて、と尻込みする人が少なからずいます。
しかし、すでに述べたように命に関わらない小さな病である便秘は、やがてポリープやガン、あるいはうつ病といった厄介な病になる可能性があります。
なかでも、検査しても異常が認められないIBSの場合、専門の医療機関で、医師の指導を受けて、適切な治療に取り組むことが病気克服の早道です。