今回取り上げるのは、典型的なうつ病といわれる内因性のうつ病で、大うつ病とも言われます。うつ病に「大」がついていますが、これは重いという意味ではありません。
英語名の「Major depressive disorder」を直訳した結果で、本当のうつ病というニュアンスの言葉です。果たして、この大うつ病は完治するのでしょうか。
目次
うつ病とは
原因別のうつ病の分類
うつ病は、その原因を基準として、内因性うつ病、心因性うつ病、身体因性うつ病に分類することができます。今回取り上げる内因性うつ病とは、特定のストレスはないにも関わらず自然に発症し、症状が反復するうつ病のことです。
心因性うつ病とは、自分の許容範囲を超えたストレスが長く続くことによって発症したうつ病です。身体因性うつ病とは、アルツハイマー型認知症などのように脳の障害といった身体の病気を起因として発症したうつ病です。典型的なうつ病とされるのは、内因性のうつ病です。
憂鬱な気分に支配される毎日
人は誰もが憂鬱になるときがありますが、ある時期が過ぎると憂鬱な気分が消えていきます。
ところが、うつ病の憂鬱はこうした一過性の憂鬱ではなく、長く続き、何事に対しても暗く落ち込んだ気分になります。つまり、毎日、憂鬱な気分に支配され、思考や意欲といった精神機能までが低下していきます。
これを抑うつ状態といいますが、こうした状態が2週間も続くと、うつ病の可能性が考えられます。
うつ病の様々な症状
憂鬱で気分が落ち込み、何をする気にもならない、というのがうつ病の特徴ですが、眠れない、食欲がない、疲労、倦怠感がとれないなどの身体的症状も顕れてきます。
<抑うつ気分+思考力の低下+意欲の低下+身体症状>といった心身からのエネルギー喪失状態がうつ病です。
ちなみに、うつ病の診断基準では下記の9項目のうち5つ以上の症状が認められ、2週間以上持続しているとうつ病と診断されます。
② 何をしても楽しく感じられない(興味、喜びの著しい減退)
③ 体重や食欲の増加か減退
④ 不眠または過眠
⑤ 身体の動きが遅くなり、口数が少なくなる(精神運動焦燥または制止)
⑥ 疲れやすく気力も減退
⑦ 生きている張り合いが感じられなくなり、自分はダメだと責めたてる(無価値観、または過剰か不適切な罪責感)
⑧ 思考力と集中力減退、決断困難
⑨ 死んだら楽になるかと考えてしまう(死についての反復思考)
他の精神疾患を併発することも
うつ病で注意しなければならないの、別の精神障害を併発しやすくなるということです。もっとも警戒しなければならないのが、パニック障害やPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの不安障害です。
パニック障害になると、外出もままならなくなりますから、仕事を続けることが出来なくなり、社会的な立場を失うことにつながります。こうした併発を防ぐ意味からも、早期治療に取り組むことが重要になってきます。
うつ病とセロトニンの関係
心因性のうつ病の引き金になるのはストレスですが、内因性のうつ病の場合、ストレスと無関係に発症するケースもあります。また、ストレスを受けた結果、どういうプロセスで抑うつ状態になるのかの根本の原因は、十分に解明されていません。
分かっていることは、セロトニンやノルアドレナリンなどの脳内の神経伝達物質の働きが悪くなっているからではないかということです。まだ解明の途中ですが、セロトニンやノルアドレナリンに作用する薬がうつ状態に効くことは、臨床の場で実証されています。
非定型うつ病
これまで、内因性のうつ病について触れてきました、最近注目されてきているのが非定型のうつ病です。うつ病の主たる症状は、気分の落ち込み、意欲や食欲・集中力の低下、不眠などですが、非定型うつ病は、何か楽しいことや望ましいことがあるとガラリと気分が変わります。
うつ病は何があっても元気が出ないのに対して、非定型うつ病では、出来事に過敏に反応して気分が明るくなります。しかし、明るく気分が晴れ渡っても、またどんよりとした暗い天気に様変わりします。お天気うつ病ともいわれるゆえんです。
20代~30代の女性のうつ病の8割は、非定型うつ病だと言われています。
参考までに、非定型うつ病の主な症状をあげてみました。先に挙げた大うつ病の症状と比較するその違いがはっきりとわかります。
② 興味と喜びの喪失はあまり認められない。
③ 食欲の不振や不眠よりも食欲増進、過眠になりがち。
④ 疲労感倦怠感が強い
⑤ 疲れやすく気力も減退
⑥ 無価値観や罪責感は希薄
⑦ 恐怖感不安感が強い
⑧ 夕方に憎悪しやすい(うつ病は朝に憎悪しやすい)
⑨ 周囲の言動に過敏に反応しやすい。
仮面うつ病
うつ病の中には、仮面うつ病と呼ばれるうつ病もあります。他の身体的な症状という仮面によって、うつ病本来の症状が見えにくくなっているうつ病です。
たとえば、心臓がキリキリ痛むという身体的症状(仮面)があるため、てっきり仮面の方の病気だと思い込んでいる状態です。しかし、いくら治療しても一向に改善しません。そうした試行錯誤の果てに精密検査をしたら、実はうつ病だったということになります。
ちなみに、身体症状としては、疲労感(倦怠感)、睡眠障害、食欲減退、頭痛、肩こり、便秘、下痢、心悸亢進、胸部圧迫感、呼吸困難、頻尿、性欲減退、月経不順、めまい、視覚異常、聴覚異常、ほてりなどがみられます。
いずれにしろ、仮面うつ病の本質は「うつ病」ですから、仮面を捨てて、一日も早くうつ病の治療をスタートさせることが肝心です。
うつ病は治らない病気?
再発するうつ病
内因性うつ病は、うつ病性挿話(エピソード)と呼ばれることがあります。
①精神症状のない状態から、②抑うつ気分といった精神症状を呈したあと、③精神症状を認められない状態に回復する場合、精神症状が出ていた期間②を挿話(エピソード)と呼びます。
統合失調症が時間とともに進行性の経緯をたどるのに対して、うつ病ではその対極の挿話性の経過をたどります。ということは、うつ病の場合、再発に注意しなければならないということです。
回復するまでの3つの段階
うつ病は、回復までに時間がかかるのが一般的です。その過程は、急性期、回復期、寛解期(再発予防期)の3つの段階にわけることができます。
それぞれの段階の期間は、個人差がありますが、一つの目安として、それぞれの段階の期間と治療をまとめてみました。
うつ病の診断を受けると、抗うつ薬による薬物治療が始まります。1~3カ月ほどで症状が軽くなるのが一般的ですが、人によっては半年以上かかるケースもあります。
●回復期
回復期にはいると、調子が良い日だったのに、翌日には悪化するといった一進一退を繰り返し、徐々に改善していきます。注意しなければならないのは、調子のよい日が続いたからといって、「もう治った!」と勝手に判断して服薬を中止することです。
●寛解期(再発予防期)
回復期を過ぎ、症状が安定すると、寛解期です。寛解期とは、症状が一時的に軽くなったり、消えたりしている時期のことです。社会復帰も可能な状態で、うつ病は治った、といえるでしょう。
うつ病の場合、「根治した」とはいわず「寛解期」という言葉を使います。寛解期は必ずしも完治した状態ではなく、病気が再発する可能性も含まれた状態です。
うつ病の治療方法とは
休養、薬物療法、精神療法が、現在のうつ病治療の3本柱です。まず、ストレス環境から離れて、心身を休養させることからスタートです。
薬物療法では、抗うつ薬による治療が行われ、これと並行して、認知行動療法などによる精神療法がおこなわれます。
休職も選択肢のひとつ
心因性のうつ病の場合は、引き金となっているのはストレスですから、ストレス環境から離れて、休むことが治療の第1歩です。ところが、うつ病になる人の多くは、きまじめで、休むことに抵抗感や罪悪感を持っていて、何とかがんばって休まないようにしようと思いがちです。
うつ病が病気であることを理解し、医師に休むことを勧められた場合は、思い切って休職するということも考える必要があります。中途半端な休養は、かえって症状をこじらせかねません。
抗うつ薬による薬物療法
うつ病の原因は、現在、すべてが解明されているわけではないのですが、最近の研究では、脳内の神経細胞の情報伝達にトラブルが生じているという説が有力になってきています。
この伝達を担うのがセロトニンやノルアドレナリンといわれる神経伝達物質ですが、何らかの要因で神経伝達物質の機能が低下し、情報の伝達がうまくいかなくなることによって、うつ病の状態が起きていると考えられています。
そこで、薬物療法では、セロトニンとノルアドレナリンに働きかけるSSRI(選択的セロトニン再取り込阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込阻害薬)が用いられています。
SSRIは、セロトニンの量を調節する器官であるセロトニントランスポーターに働きかけて、セロトニンを調整する薬、SNRIは、セロトニンとノルアドレナリンの両方の調整を行う作用をもつ薬です。
支持的精神療法
精神療法の中心となるのは、支持的精神療法と認知療法です。支持的精神療法というのは、医師との対話で、本人が抱えているつらい症状や悩みを話していきます。それらの悩みに共感してもらうことで、感情の発散が促され、うつ病の人が抱きやすい罪悪感や自責の念を和らげる効果があります。
認知療法
うつ病の人は出来事の捉え方や考え方や捉え方が、悲観的です。このうつ病患者に特有の認知のパターンを修正するのが認知療法です。
認知療法では、うつ病の人の考え方自体を改めて、悲観的な思考を避けるように働きかけることで症状の改善を図ります。
その他の治療方法
うつ病の治療では、絵や粘土による芸術療法や音楽を使った音楽療法というのがあります。また、薬物療法で効果が得られない場合には、頭皮に電極をつけ、電流を流す電気けいれん療法などがあります。
うつ病はコントロールすることができる
うつ病は長い服薬の治療と心身両面での節制が求められる精神疾患です。「完治した」と言わず、病気の再発をも含む「寛解」という言葉を使わざるを得ませんが、社会復帰ができるかどうかという基準でみれば、うつ病は治る病気です。
寛解しても再発の恐れはゼロではありませんが、服薬と節制を守れば、コントロールが可能な病気です。なお、ネットなどでは、薬の副作用を過度に取り上げた不確かな情報が出回っていますが、惑わされて勝手に服薬を中止したりすると、これまでの治療が水の泡になってしまいます。もし、薬が自分の身体に合わないようだったら、担当の医師に相談して改善するようにしてください。くれぐれも自己判断で指示された服薬を中止しないようにしましょう。