【精神科のお仕事シリーズ】リストカットがやめられない人への対処方法とは?【実演】動画内容


精神科のお仕事シリーズ動画がスタート

精神科のお仕事シリーズの動画が始まりました。
このシリーズは精神科医燎現場のやりとりを紹介する企画となっています。
普段見ることのできない精神科医療従事者たちの仕事を知ってもらえたらと思います。

精神科のお仕事シリーズ第一弾のテーマは「リストカット」
リストカットをしている人のうち、そのほとんどが精神科にはかかっていないことをご存知でしたか?また精神科にかかっている人のうち、リストカットをしている人も実はそこまで多くありません。

しかし中には深刻なリストカットの常習化を起こしている患者さんもいます。そんな方には、根気よく、長い支援が求められています。
今回の動画ではとある精神科訪問看護のリストカットがやめられない人へのGoodとBadな対応を実演しました。

※動画用に誇張・アレンジをした表現が含まれています。実在の個人や団体などとは一切関係ありません。

境界性パーソナリティ障害の診断を受けた30代女性のリスカさん

今回の患者さんは境界性パーソナリティ障害の診断を受けている30代女性のリスカさんです。

境界性パーソナリティ障害とは?

はじめに境界性パーソナリティ障害について説明しましょう。 境界性パーソナリティー障害とは、孤独に対する耐え難さがあり、見捨てられることを避けるために、死に物狂いで努力したり、他の人間に世話をしてくれるように仕向ける形で、自殺の素振りをみせるなどの特徴がある精神障害です。 そして、境界性パーソナリティー障害の人はリストカットなどの自傷行為が度々認められます。 自傷行為の理由は衝動的なものから、自分が悪い人間であることの埋め合わせのためや、相手の気を引くためなど様々だと言われています。

  • 孤独に耐えられない
  • 見捨てられないように死に物狂いになる
  • 世話をしてもらうよう自殺の素振りを見せる

境界性パーソナリティ障害では
リストカットなどの自傷行為が度々見られます。

自傷行為の理由は・・・

  • 衝動的に
  • 自分への罰
  • 相手の気を引くため

など様々。

症例紹介(リスカさん)

それでは、症例の紹介を進めます。
リスカさんは、一人暮らしをしている方で、気持ちが落ち込むと家事も仕事もできなくなり、不規則な生活を送ってる方です。ふと思いこむと自暴自棄になり、リストカットを繰り返します。
多い時には1日に10数回繰り返すこともあります。
このような患者さんに、我々、精神科医療職は、日々どのような支援をしているのか、Badとgoodな例を用いて、見ていきましょう。

リスカさんの特徴
  • 一人暮らし
  • 気持ちが落ち込むと仕事や家事ができない
  • 生活が不規則
  • 思い込むとリストカットを繰り返す
  • 多いときは1日10数回することもある

リストカット発見時の対応

Badさんの場合:叱りつける

Badさん
Badさん

リスカさーん、こんばんは~
訪問看護のBadです~

リスカさん
リスカさん

鍵空いてるので入ってきてください

Badさん
Badさん

お邪魔します。リスカさーん、入りますよー。

Badさん
Badさん

はっ!!!

リスカさん
リスカさん

さっきリスカしました。

Badさん
Badさん

なんでそんなことしたんですか!
命が惜しくないんですか??親が悲しむとは思わないんですか?
これだと入院することになっちゃいますよ!

リストカットは問題行動であると決めつけてしまうと、支援者はやってはいけないことをしていると感じてしまいます。
すると、駄目でしょ!とただただ注意したり、叱ったりすることに繋がることがあります。
そして、叱りつけるという行為は、リストカットの減少に繋がらないと考えられており、事実、現場で、叱りつけることで、リストカットが解決するパターンはほとんどありません。
怒られたからやめるというような、単純なものではないのです。

Goodさんの場合: リスカは対処行動の一つ

Badさん
Goodさん

大丈夫ですか? 出血は止まっていますね。
リスカさん、何か辛いことでもあったんですか?
良かったら、何があったか教えてもらえませんか?

リストカットは問題行動ではなく、本人の対処行動の一つと考えましょう
リストカットは本人が対処しきれない問題や苦悩に直面したときに
他の対処方法がとれずにしている場合が多いです。
通常、皆さんが何か辛いことがあったときにすることがありますよね。例えば、愚痴を聞いてもらうとか、おいしいものを食べに行くとか、カラオケに行くとか、それぞれ自分に合った、対処方法というものがあると思います。
リストカットがやめられない人の多くが、この何か辛いことがあったときに、愚痴を言う代わりにリストカット、カラオケに行く代わりにリストカットという対処行動なのです。
勿論、健康的な対象方法をしていないという事実はありますが、そこは置いておいて、まずは、本人の苦悩に目を向けることが解決の第一歩です。

リスカさん
リスカさん

本当はリストカットなんてしたくない。
やめたいけど、でもどうしたら止められるのかわかんない。
気づいたらやっちゃってる。今回もそうだった。

Badさんの場合: そんなのは気持ちの問題

Badさん
Badさん

止めたいのに止められないのは意思の強さの問題
ちゃんと決意できてる?
こんなのは気持ちの問題だからね?

リストカットの常習化は気持ちの問題で解決できるものではありません。
先ほどの叱るという行為に意味がないという話と同じで、本人の止めたいという気持ちの弱さがリストカットの原因となっているわけではありません。
辛い何かから逃げるための、対処行動が、リストカットしかないからやっているのです。
そして、気持ちが弱いと突っ込んでしまうと、余計に「自分は気持ちの弱いダメな人間だ」と塞ぎ込んでしまい、かえってリストカットを助長させる結果になりかねません。

Goodさんの場合: リスカをしながらも何とか日々乗り切っている

Badさん
Goodさん

そうだよね、リストカットしちゃうくらいしんどいことが続いているんだよね。
そんな毎日をリストカットしながらも何とか乗り切ってるんだよね。
どうしたらやめられるのかわからないなら、少し考えてみましょうか。

リストカットが常習化している人は
辛い毎日を何とかリストカットをしてでも乗り切っているのです。
リストカットの対処をせざるを得ない状況であることに理解を示して
本人の止めたい気持ちを支持していきましょう。

リスカ以外の方法なんて思いつかない(対処方法の模索)

リスカさん
リスカさん

リストカット以外の対処行動を見つけるのはわかったけど
そんなの思いつかない。だってリストカットしかやったことないもん。

Badさんの場合:リスカさんは対処方法見つけられないと決めつける

Badさん
Badさん

いきなり考えるのは難しいですよね。
じゃあ何か辛いことがあったら好きな音楽を聴くっていうのはどうですか?
私もそういう対処方法をやってるから、やってみるといいかもしれない。
ダメなら頓服を飲むってことをしてみましょうか。

対処方法をどうするかという話題で、すぐに言える人はいません。
考えても出てこない=対処方法を見つけられないと決めつけてしまい、
こちらの主観であれこれ方法を提示しても、本人が自分で決めた対処方法ではないので、長続きもせず、うまくもいきません。

Goodさんの場合: 対処方法が自分で考えられるように誘導する

Badさん
Goodさん

なかなか思いつかないですよね。
自分の対象方法はすぐには見つからないものです。
まずはリストカットをしていない時間帯には、何をして過ごしているのか書き出してみませんか?
なにかヒントがあるかもしれません。

対処方法の模索は自分で決めたことを実践してみることが大事です。
まずはどういう日常生活を送っているのか、細かく書き出してみることで
無意識で行っている対処方法を発見する手掛かりになるかもしれません。
何が好きなのか、何をしているときは、リストカットのことを考えないで済んでいるのかなど、実生活からヒントを導くことが重要です。

対処方法をやってみよう(対処方法の実践)

リスカさん
リスカさん

訪問看護師さんと相談して、辛いことがあったら、
趣味のヨガとかストレッチをやるっていうのを対処方法でやってみるって決めたけど
辛いときにヨガなんてできなくて、
やっぱりリストカットしちゃったなぁ。私ってなんてダメな人間なんだろう・・・。
やるって決めたのに・・・。

Badさんの場合:別の対処方法をやればうまくいくと考える

Badさん
Badさん

対処行動をやるって一緒に決めたじゃないですか。
どうしてやらなかったんですか?自分で決めたことじゃないですか。
どうしたらできるようになりますかね?考えてみてくださいよ。

あれこれやっても止められないのがリストカット

これまでの説明では、何か対処方法を見つけ出し、実践することができるようになれば、リストカットがやめられると思ってしまいそうですが、それでもやめられないのがリストカットです。
支援者のやめられるという過度な期待は、ときに態度として現れてしまう可能性があります。
また、「あんなに一緒に考えたのに、あの人はダメだ、リストカットなんてやめられない人だ。」と、支援者の落胆や諦めに繋がりかねないので、期待を過度に持つことはやめましょう。

Goodさんの場合:それでもまたやっちゃうのがリストカットの常習化

Badさん
Goodさん

辛いときにヨガできなかったんですね。
そんなにすぐにうまくいくものじゃないですよ。
根気良く探していきましょう。
では、今回の反省を踏まえて、次はつらいときにもできる気軽な対象方法を見つけてみましょうか。

どんなに対処方法決めても、改善しても、
繰り返してしまうものです。
リストカットから抜け出すのはすごく難しいので、
根気よく、諦めない支援が必要です。
駄目だったら、次はどうすると一歩一歩進んでいくような支援をしています。
このように、私たちは日々患者とかかわっています。