強迫性障害の縁起恐怖とは?【症状、原因、克服方法】


とある人の例でお稲荷さんの赤い鳥居に何か不吉なものを感じ、赤い自動販売機の近くは通りたくないという方がいます。赤い蓋のペットボトルも買いません。普通の人から見れば、この不可解な恐怖がいわゆる縁起恐怖(強迫性障害)と呼ばれるものです。

縁起恐怖とは

不合理な行為や思考を自分の意に反して反復してしまうのが、強迫性障害と呼ばれる精神疾患です。

強迫性障害の症状の一種

強迫性障害としてよく知られているものに、何回も何回も手を洗わずにはいられない洗浄強迫(不潔恐怖)があります。ガスの栓は閉めたのだろうか、ドアの鍵はかけたのだろうかと何回も確認せずにはいられないのは、確認強迫と呼ばれる強迫障害です。

今回紹介する縁起強迫は、縁起が悪いと思われるものを極端に恐れる症状です。

強迫観念と強迫行為

強迫障害とは、強迫観念と強迫行為がセットとなった精神疾患です。強迫観念というのは、本人の意思と無関係に頭に浮かぶ不快感や不安感を生じさせる観念です。それは、誰にでもみられる観念ですが、普通の人はたいして気にせずやりすごします。ところが、強迫性障害の人は、それが強く感じられ、長く続きます。

強迫行為というのは、不快な存在である強迫観念を打ち消そうとする行為です。たとえば、手にバイ菌がついているという強迫観念を打消し、振り払うために手の肌が荒れるくらい何回も手を洗う行為が強迫行為です。

それが、不合理で、不毛な行為であるとわかっていてもやめられません。強迫観念にとりつかれて強迫行為を行うのが、強迫障害と呼ばれる精神疾患です。

「縁起が悪いこと」を極端に恐れる

とにかく、縁起が悪いと思われることを極度に恐れます。周囲のモノや状況に不吉な意味づけをして、それによって不吉なことが起きると考えます。

縁起が悪いと思われる日には、家族が身に着けていた靴や服をゴミにだせません。そうすると、家族に悪いことが起きそうな気がしてならないのです。

4(死)や9(苦)や13などの縁起の悪い数字を口にしたり、接したりすると何か悪いことが起こるかもしれないと恐れます。やがて、「死」や「凶」についての言葉が心に浮かんできて、ある種のおまじない的な特定の行為を行わないと病気になるかもしれない、不幸な出来事が起こるのではないかという強迫観念に苛まれることになります。

縁起の悪いモノを避ける、ゲンを担ぐということは、普通の人でもあることですが、それが過度の思い込みとなって、生活に支障をきたすようになってきます。

おかしい考えであることには気が付いている

これは強迫性障害全般にいえることですが、大半の強迫障害の人は、自分の中の強迫観念が不条理であるということを自覚しています。しかし、わかってはいるけれど、強迫行為をやめられないのです。

このような自覚があるのですから、奇異な考えを信じきっている統合失調症の人の妄想とは異なります。自覚があるから、恥じの意識があり、人知れず悩みます。

宗教上の強迫観念にとりつかれている人は、罪の意識を感じていることもあります。そのため、自分だけの秘密として家族に内緒で強迫行為をしたり、理屈の通らない理由をつけてごまかそうとするケースもあります。

逆に自分自身で処理できなくなると、先に紹介した縁起の悪い日のゴミだし忌避という強迫行為を家族に手伝わせようとし、家族を巻き込んだ強迫行為となるのです。

本人はもとより、家族を巻き込んで生活に支障をきたすというのが、強迫性障害の厄介なところですが、救いは、犯罪のような反社会的行動にはつながらないということです。

原因は詳しくはわかっていない

強迫性障害の原因は、詳しくは分かっていませんが、二つの説が考えられています。

一つは、大脳基底核、辺縁系、脳内の特定部位の障害や脳内の神経伝達物質であるセロトニンやドーパミンの働きの低下に伴う神経系の機能異常です。一つは、心理的要因です。

一体に、強迫障害の人は、すべてをコントロールしようとし、それが可能であるという万能的な自己像をもっていますが、その背後には、自己不全感が関与し、自己不信という根源的不安を防衛し、自己の完全性を維持することが強迫障害の温床になっていると考えられています。

縁起強迫の症状

アメリカのテレビドラマ『名探偵モンク』の主人公は強迫性障害者でした。イギリスのサッカー選手、ベッカムも自分が強迫性障害であることを告白しています。強迫障害の人は、何を恐れているのでしょうか。

モンクとベッカムの症状

もと警察官であった名探偵モンクは、特定の銘柄のミネラルウォーターしか飲まず、料理は調理過程を見たものだけしか口にいれません。また、バイ菌に対する恐怖は過度の恐怖があり、握手あとにはかならず除菌ティッシュで手を拭きます。

こんな具合に、非常に多くの恐怖症を抱えているのですが、例えば水道の水を出されたりすると、途端に取り乱し、パニック症状に陥ります。ベッカムは、自分の強迫障害に関して次のようなことを告白しています。

●全てがパーフェクトでないと、気が済まない。
●ペア、偶数、直線でないと気持ち悪いと感じる。
●冷蔵庫に入っている飲み物の本数が奇数だと1本どこかにやる。
●ホテルでも雑誌やリーフレットが全て引き出しの中に入ってないとくつろげない

縁起が悪いこととは

ベッカムのペアや偶数へのこだわりは、縁起恐怖のカテゴリーに含まれるものです。先にふれたように縁起障害の人は、仏滅といった宗教的に縁起が悪いとされる日や、4や9や13といった不吉な数字に恐怖を感じます。

蜘蛛、蛇などの特定の生き物、色、方角なども恐怖の対象です。また、特定の行動について自分で決めた手順から外れることを嫌い、自分で決めたルールから外れると、不安な気持ちになり、行動を最初からやり直したりします。

異なる強迫症状があらわれる人もいる

名探偵モンクの主たる強迫障害は、不潔なものを異常に恐れる潔癖症と洗浄強迫ですが、10という数字にこだわるなど縁起強迫も交じっているようです。

ベッカムの場合は、不完全恐怖と縁起恐怖が見られます。このように強迫障害の人は、いくつかの種類の異なる強迫症状を併せ持っているケースが多いようです。

うつ病などを併発することがある

強迫性障害で見過ごせないのは、それが他の精神疾患の一つの入り口であるということです。つまり、その背後には、うつ病、統合失調症、境界性パーソナリティ恐怖が潜んでいる可能性があります。

この場合、強迫を生み出す基礎疾患の治療が必要になります。早期に専門の医療機関で正確な診断を受けて治療に取り組むことをお勧めします。

縁起強迫の克服方法

専門の医療機関で、早期治療に取り組むことをお勧めします。

専門の医療機関では暴露妨害療法

医療機関では、精神療法の一つである、曝露反応妨害法と呼ばれる治療が行われます。これは、不安になる状態に身をさらし(暴露)、不安をぬぐう強迫行為を我慢する(反応妨害)というものです。

例えば、恐怖の対象が数字の4や9であったら、積極的にこの数字を見ることで不安な状態をつくり、そういった不安をぬぐう行動も我慢します。最初のうちは、不安感が強く耐えられないように感じますが、続けていくと徐々に不安に感じる気持ちは小さくなっていきます。

この不安療法は、自分でもできそうですが、症状の程度では「生兵法は大怪我のもと」になるリスクも否定できません。加えて、強迫障害の背後にはうつ病などの精神疾患が控えているのですから、早期に専門の医療機関で正しい診断を受けるべきでしょう。

薬物療法

強迫症状が強い場合は、暴露反応妨害療法が施せませんから、薬物療法も行われます。薬物療法では、主としてセロトニンの働きを改善するためのSSRIという抗うつ薬が用いられます。

まずは異常な状態にあることに気づくこと

強迫障害の人は、自分の症状を性格のせいにして、精神疾患であるということに気づかないひとがいます。また、薄々気が付いていても、精神科に足を運ぶことを躊躇う人も見かけます。

自分の症状を冷静に見つめ、異常だと気がついたら、うつ病などの精神疾患が併発する前に、早期の治療に取り組むようにしてください。


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