潔癖性は強迫性障害?違いは?【症状、原因、治療方法】


手の汚れや体の汚れが気になって、何度も手を洗い、シャワーを浴びる人がいます。さて、この人は性格的にキレイ好きな人(潔癖症)でしょうか、それとも「不潔強迫」と呼ばれる強迫性障害の人でしょうか。

潔癖症と強迫性障害の違い

潔癖性とは

部屋の中の細かい汚れに敏感で、衛生的なことを強く意識して公衆トイレの洋式便所に座れない、という人がいます。

こういう綺麗好きの人を私たちは「潔癖性」と呼びますが、潔癖性は医学的な用語ではありません。

病気というより性格(強迫性格)の問題といってもいいでしょう。

強迫性障害とは

強迫観念に呪縛されて、これを打ち消そうとする「強迫行為」を行わずにはいられないのが強迫性障害です。強迫観念というのは、自身の意思とは関係なく、頭から離れない不快、不安な気持ちを生じさせる観念です。それは、誰にでもみられる観念ですが、普通の人はたいして気にせずやりすごします。ところが、強迫性障害の人は、それが強く感じられ、長く続きます。

強迫行為というのは、不快な存在である強迫観念を打ち消そうとする行為です。たとえば、手にバイ菌がついているという強迫観念を打消し、それを振り払うために手の肌が荒れるくらい何回も手を洗う行為が強迫行為です。それが、不合理で、不毛な行為であるとわかっていてもやめられません。強迫性障害とは、この強迫観念と強迫行為がセットになった精神疾患です。

主な違い

では、潔癖症(ここでは強迫性障害ではない超きれい好きという意味で使います)と強迫性障害の不潔強迫との違いはどんなところにあるのでしょうか。たとえば、体の汚れが気になって1時間近くかけて風呂に入る人がいたとします。この人は、単にお風呂好きの潔癖症かもしれないし、ひょっとしたら強迫性障害かもしれません。

もし、家族の誰かが、「長風呂されると、他のものが困るんだから」と苦情をいって、その言葉を気にして、少し早めに風呂から上がるようになったら、潔癖症の可能性が高いです。それでも直らないようなら、強迫性障害の疑いがあります。

また、潔癖症の人なら、「いい風呂だった」といって風呂上りにリラックスしていますが、強迫性障害の人は、むしろ緊張しています。というのも、強迫性障害の人は、自分で決めた手順で入浴したのだろうか、手順のなかに欠けたところはなかったろうかと考えているからです。

潔癖症と強迫性障害の違いは、自分の意志で行っているのか、強迫観念に支配されて行っているのかの違いということになります。強迫障害の人は、自分で洗い方をコントロールできないのです。

潔癖症、強迫性障害(不潔強迫)の症状

汚れを過剰に気にする

不潔強迫は、様々なタイプの強迫性障害の中の一つです。普通は一回手をしっかり洗えば大丈夫なのに、強迫性障害ではことあるごとに手を洗ったり、何回も繰り返し手を洗い続けます。

また、他の人が触れたと思われるものには、一切触れなくなることもあります。こうしたこだわりは、潔癖症の人にも程度の差こそあれあらわれますが、手を洗うだけでなく、全身を洗うようになったりすると、これは強迫性障害の可能性が高いでしょう。

「汚れている」というイメージ、不安が大きい

常識的な感覚からみれば、強迫性障害の人が感じるほど汚れていないし、仮に汚れがあっても支障がないように思われる場合にも、強迫性障害の人にとって、耐え難いことです。汚れ、不潔という観念が異常に膨らみ、それが不合理なことだとわかっていても、「汚れている」というイメージや不安がその人の中で大きくなり、どうしようもなないのです。

このように、不合理な行為や思考を自分の意に反して反復してしまうのが、強迫性障害の症状の特色です。

周囲に「清潔」を強制する

潔癖症と強迫性障害の違いの一つに、他者を巻き込むかどうかをあげることができます。強迫性障害の人は、自分のこだわりや不安感が大きすぎるあまり、周囲の人に自分がしているのと同じような儀式ともいえる行動を要求することがあります。

強迫性障害の人は、自分が抱える強迫観念が、理不尽で、不合理なものであることを自覚していますし、人知れず思い悩み、恥じらい、場合によっては、罪の意識を持っています。

そのために、強迫観念や強迫行為を家族や友人たちにも隠し、弁明のための不合理な理由付けをしているケースが少なくありませんが、自分自身で処理しきれなくなると、家族に強迫行為を手伝わせようとする場合があります。これが「巻き込み」と呼ばれる強迫性障害特有の症状です。

強迫性障害の原因ははっきりしていない

強迫性障害の原因は特定されていませんが、ストレスが増大する現代社会の中で、過度の防衛反応として強迫的思考や行動が誘発されるのではないかと考えられています。

また、神経生物学的な要因や性格などの心理的要因との相互作用を介して発症に至るのではないかという説もあります。このほか、脳内の神経伝達物質、セロトニンがうまく働かなくなることも要因であるとされていますが、現在のところ原因は特定されていません。

完璧主義的な性格

何事も完璧でないと気が済まない人や融通の利かない人、生真面目で几帳面な人を強迫性格、とか強迫性パーソナリティと呼ぶことがあります。強迫性障害になりやすいとされてきた人たちです。

しかし、最近の研究では、必ずしも強迫性パーソナリティが強迫障害に移行するのではないということがわかってきています。

ライフ・イベントがきっかけになることも

仕事のストレス、家庭内におけるストレス、自分の健康に対するストレスなどが強迫性障害の発症の要因であることは既に述べましたが、幼少期の虐待なども強迫性障害のリスクを高めるとされています。

また、女性では結婚、妊娠、出産と重要なライフ・イベントが発症の一因となるこが指摘されています。

強迫性障害と潔癖症の治療方法

強迫性障害は、頭の中に存在する強迫観念に呪縛され、その観念に唆されて実行された強迫行為から成り立つ障害です。従って、治療はまずその観念を修正することを目指します。

「汚れている」に慣れる

強迫性障害の中の不潔強迫は、「汚れている」という過剰な観念、あるいはイメージに支配されています。ところが、当人が感じる不潔感というのは、常識的には、そんなに問題とならないような汚れであることが大多数です。

ですから、汚れているという自分の強迫観念に唆されて強迫行為に至るプロセスをじっと我慢する、というのも自己治療の一つです。とはいえ、潔癖症の人ならそれが可能かもしれませんが、強迫性障害では、難しい。それが出来ないから、潔癖症ではなく強迫性障害という病気になっているのですから。

そこで、強迫性障害の場合は、専門の医療機関で治療に取り組むということになります。

精神療法

強迫性障害の治療は、主として精神療法で行われますが、さまざまな精神療法の中で実施されるのは、暴露反応妨害法と呼ばれるものです。これは、回避したり、隠していたりする強迫観念に向き合い、直面化し(曝露法)、不安を軽減するための強迫行為をあえてしないこと、我慢すること(反応妨害法)を継続的に訓練する治療法です。

つまり、専門家の指導のもとに行われる「汚れ」の実態を観察し、「汚れに慣れさせる」ことを目指した療法です。具体的には、イメージを用いて行うものと現実場面に身をおいて行う二つの方法で行われます。

薬物療法

薬物療法では、SSRIあるいはクロミプラミン(アナフラニ―ル)などがもちいられます。これらは、強力なセロトニン再取り込み阻害作用をもつ抗うつ薬です。

SSRIは、他の抗うつ薬に比べると副作用が軽度で、より安全性に優れているとされています。中には吐き気や不安増強などがあらわれることもありますが、一過性の副作用です。

潔癖症は治す必要があるのか

強迫性障害は、れっきとした病気ですから、適切な治療を施せば治る可能性が高いです。ところが、その人の性格と深くかかわっている潔癖症となると治すのが難しい。病気ならば、早めに治療に取り組むことが賢明です。

しかし、潔癖症は病気でもなく、「悪」でもなく、絶対に矯正しなければならないというものでもありません。どこまで、自分の潔癖性のレベルを矯正すべきか、あるいはどこまでを許容するかは、人それぞれの生き方や価値観にかかっている、というしかありません。


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