パニック障害は、突然発作が起こるようになり、その発作に対する不安が生活に大きな支障をもたらすようになる精神疾患です。発作は手足の震えや動悸などが起こり、当人がこのまま死んでしまうのではないかと思うほどの症状も起こります。
脳内で不安をもたらす神経伝達物質が過剰になることが原因の発作であり、検査をしても身体に異常が見られないので、発症者のつらさが周りの人に理解されにくい疾患でもあります。
パニック障害とその症状はおそらくあまり知られてなく、珍しい疾患であると思われるかもしれませんが、その発症率は1%を超えるともいわれており、必ずしも珍しい疾患ではありません。
年齢では20代の方が、性別では男性よりも女性の方がそれぞれ発症しやすいといわれていますが、男性も発症しますし、発症する可能性は子供から高齢者まで幅広い年代の人にあります。
また、昔から発作があったもののパニック障害であるとは気づかず、発作が初めて出てから数十年後にふとしたきっかけでパニック障害であると判明するケースもあります。
パニック障害の症状
パニック発作
動悸やめまい、発汗、窒息感、吐き気、手足の震えといった発作が理由もなく突然起こる
発作はつらく激しいものであり、不安になってこのまま死んでしまうのではないかと思うこともあるほど
予期不安
発作が起きていないときでも、また発作が起こるのではないかなどといった発作に対する不安を感じるようになる
広場恐怖
発作が起きたら恥をかくなどのつらい思いをするのではないかという苦手な場所や状況ができて避けるようになる
広場恐怖といっても、苦手になる場所や状況はバスの中や人ごみなどがあり、広場とは限らない
以上の症状がパニック障害では起こり、うつ病等の精神障害を併発する可能性も高いです。
これら3つの症状がパニック障害では見られますが、その中でもパニック発作はパニック障害の中心となる症状で、残り二つの予期不安と広場恐怖はパニック発作から生じてくるものになります。
パニック発作
・脈が速くなる、心臓が強くドキドキする
・汗がたくさん出る
・体が震えてしまう
・息が苦しくなる、息切れのようになる
・息が詰まるような感じがする
・胸が痛くなる、胸が苦しくなったり、不快な感じがしたりする
・吐き気がする、お腹が不快な感じがする
・めまいがする、ふらつく、気が遠くなる感じがする
・目の前のことなどに現実感を感じなくなる、自分が世界とずれたところにいる感じがする
・発作によって自分が無茶苦茶になったり、気がくるったりしてしまうのではないかと不安になる
・発作で死んでしまうのではないかと恐怖する
・感覚がおかしくなる、感覚がマヒする
・体が冷たい感じがする、もしくはほてったりするなど熱い感じがする
パニック発作でこれらの症状をともなった発作が突然に起こります。
これらの症状が4つ以上発症していることがパニック障害と診断される条件のひとつです。
また、これらの症状の中では、動悸、息が苦しくなるという症状が多くの方にみられやすいといわれています。
こういった症状は発作が始まるとあっという間に強くなり、弱まるのもあまり時間はかかりません。また、発作は一度や二度でおさまるものではなく後々に何回も繰り返しおこっていきます。
発作は当人がこのまま死んでしまうのではないかと思ってしまうほどにつらく、苦しいものですが、調べても心臓や、その他の身体には異常はありません。実際に気が狂ったり、死んでしまったりすることもありません。
突然に発作が起こり、体を調べてみても何の問題もない、なのに発作が苦しいのは間違いなく現実であるというのがパニック障害のパニック発作です。
パニック障害のパニック発作に当てはまる症状をともなった発作が起こったとしても、必ずしもパニック障害であるとは限りません。実際にはパニック障害以外でも似たような発作が起きることがあるため、別の疾患の症状である可能性はあります。
このパニック発作のきっかけや身体的な理由のない特徴から、いつ発作が起こるのか等が不安になる予期不安と、広場のようなパニック発作が起きたときに助けてもらえなかったり恥をかいたりしそうな場所自体を避けてしまう広場恐怖の症状があらわれます。
予期不安
パニック発作はとてもつらいものです。それこそ、命の危機なのではないかと当人が思ってしまうほどです。そのため、発作が起こっていないときでも、発作に関して様々なことが不安になります。
発作を起こすこと自体はもちろん、発作から本当の病気になるのではないか、本当は重い病気が発作の原因なのではないか、人前で発作を起こして見せたくない姿を見せてしまうことになったらどうしようなどといったことが発作が起きていないときにも不安になります。
広場恐怖
パニック発作が起きてしまう可能性を即座に無くすことや、とっさに発作を我慢することはできません。また、パニック発作は、誰が見ても異常が起こっているとわかることもあるほど強くつらいものです。そのため、パニック発作が起きるようになると、パニック発作がいつ起こるかわからない不安などから、発作が起きると恥をかきそうな場所、すぐには逃げ出せなさそうな場所、発作が起こりそうな場所などを避けるようになります。
広場恐怖とは言いますが、広場だけが怖くなるというわけではなく、人によって怖くなる場所には違いがあります。
主だった例としては広場のほかにも、人ごみの中、バスなどの公共交通機関の中、窓のない閉塞感のあるところなどがあります。
また、行き先などに関係なく1人での外出というだけで怖くなる人もいます。
パニック障害の原因
ストレスや寝不足、環境要因などによって起きている脳内物質の異常分泌、脳の一部の誤作動などが原因となっているといわれています。ストレスやカフェインの取りすぎが脳の機能に異常をもたらしているとも考えられており、また、体質として、ストレスに弱く、不安を感じやすいタイプの人がパニック障害を発症しやすいといわれています。
パニック障害の治療方法
パニック発作を抑える薬物療法が行われます。そして、精神療法でパニック障害は死につながるものではないといった正しい理解をして、苦手として避けていた場所などに少しずつ挑戦していったりします。
薬物療法はパニック障害の治療の中心になります。抗うつ薬のSSRIや抗不安薬などが使われ、脳の機能の改善を行います。それぞれ効果も副作用も異なる薬をうまく使い分けたりして治療が行われます。
精神療法では考え方の調整を行う認知行動療法などで、不安の克服を行っていきます。
ゆがんだネガティブすぎる考え方や物事のとらえ方が不安や恐怖が生じる要因になっています。そのため、ゆがんだネガティブな考え方などを修正する認知行動療法を行うことで、不安や恐怖の克服につなげていきます。
精神療法の中には曝露療法(ばくろりょうほう)と呼ばれる、不安やストレスを感じるものや場所に自ら近づいて慣れることで苦手意識を克服する治療法もあります。広場恐怖では特定の場所や状況が不安の対象なので、そういった場所に場所ごとの不安度の強さを考慮しながら身をさらすことで慣れていきます。
また、生活の中にもパニック発作を誘発する要因があるといわれており、ストレスを減らすこと、睡眠をしっかりとること、タバコを吸わないこと、カフェインをとりすぎないことなどが発作を誘発しないことにつながると考えられています。
漢方薬による治療
パニック障害の薬物療法のために、漢方薬が用いられることがあります。漢方薬は一般的な錠剤やカプセルなどの西洋薬と比べて効果があらわれにくいイメージがあるかもしれませんが、漢方薬は健康保険が適用されているものもあるしっかりとした治療の選択肢の一つであり、抗不安薬や抗うつ薬などの西洋薬より優れた点もあります。
漢方薬は、病気の症状は心身の様々なバランスが乱れたことにより起こっているという考え方に基づいたものであり、症状が出た部位だけに薬の効果があらえわれるのではなく、体全体のバランスを整え、体調を良くします。西洋薬と比べて即効性や薬の効果の強さなどの点では劣ることが多いですが、その分副作用などの心配が比較的少なく、種類によっては薬の副作用に敏感な妊娠中の方なども用いやすい等の利点があります。
パニック障害では患者さんの体質等に合わせて半夏厚朴湯や加味逍遥散などといった漢方薬が処方されます。しかし、漢方薬による治療は病気の症状が重いと不適切の場合があったり、病気の症状が同じであっても、体質に合わせた漢方薬でないと効果が発揮されなかったりすることがあります。そのため、漢方薬を治療に用いたい場合は、まずしっかりと医師に相談することが大事です。
うつ病の併発
パニック障害はそれ自体の症状である発作とそれにともなう予期不安、広場恐怖だけではなく、ほかの精神疾患を併発する可能性もあります。
パニック障害は強迫性障害などの他の不安障害を併発しやすくはありますが、特に併発しやすい精神疾患はうつ病です。パニック障害の程度などにもよりますが、50%以上の人がうつ病を併発する場合もあります。
うつ病は常に気分が沈んだままなにも楽しめないという症状などがあらわれる、代表的な精神疾患であり、その治療の際は休養が大事とされています。
しかし、うつ病はうつ病でも、非定型うつ病と呼ばれるうつ病も存在しています。うつ病と非定型うつ病の違いはいくつかあります。
違いの一つとして、うつ病は今まで楽しんでいたことも楽しめなくなる一方で、非定型うつ病は憂うつな気分はありますが、本人が楽しいと思う趣味や遊びの際には気分が晴れて楽しめるということがあります。
治療の際も、うつ病は休養が大事ですが、非定型うつ病は休養ばかり重視するのではなく、ある程度はがんばらせるようにするという違いがあります。
パニック障害の人が併発するうつ病は非定型うつ病のタイプが多いともいわれており、その場合は一般的なうつ病とは異なった症状があらわれることになります。