パニック障害の残遺症状は、症状が治まってきたころにやってきます。パニック発作のような激しく目立った症状を示しませんが、長期にわたって続く深刻な心身の不調です。
目次
パニック障害の残遺症状とは
パニック障害の主症状は、「パニック発作」です。突然、心臓がパクパクしてきて、息苦しくなり、めまいがしてきて、脂汗が流れ、手足が震え、このままでは死んでしまいそうに思われます。これがパニック発作です。
その後も、突発的にパニックが起こります。パニック発作で死ぬことはないのですが、いったんパニックを経験すると、今度はいつ発作が起こるのだろう、という「予期不安」と呼ばれる不安にとりつかれ、多くの人が、「広場恐怖」に陥ります。
広場恐怖とは、発作が起こりそうな場所、発作が起こると困る場所を忌避する症状です。具体的に飛行機、列車、エレベーター、人ごみなどがこれにあたります。この結果、社会生活がままならなくなります。
この3つの症状がパニック障害の特徴的な症状ですが、実はこのほかにもう一つ重大な症状があるのです。これが、今回のテーマであるパニック障害の「残遺症」です。
パニック障害が治ってきたころに現れる
残遺症は、パニック障害の急性期が過ぎて、症状も治まってきた時期にあらわれます。残遺症状は、パニック発作のような激しい症状ではないため、それがパニック障害の残遺症であるということに気が付かないことが珍しくありません。
また、症状自体もパニックに比べると、どこか地味で軽い症状のように思われがちですが、これはなかなか厄介な不調です。パニック発作は、多くの場合10分前後で治まりますが、痛みや不快感がだらだらと何日も続きます。加えて、痛む場所が変わり、移動したりします。当人にとっては、それはとても不気味な症状です。
パニック発作の直接的な死の恐怖とは異なりますが、じわじわと症状が悪化し、死に至るのではないかと思われてきて、うつ状態に落ち込むのです。
多様な不調が現れる
残遺症は個人差があって、特徴的な共通症状をあげにくいのですが、実に多種多様な症状があらわれてきます。
下記に列記するように、心身の両面の広範囲な場所に様々な不調が現れてくるのが残遺症です。
・頭に血が上り、頭に何かが載っているような感じ
・目が浮いてくる感じ
・視野がチカチカ揺れる
・動悸がして脈が飛ぶ
・胸がチクチク痛くなる
・息苦しくなる
・喉が詰まった感じ
・喉元がビクビクする
・肩こりと首の痛み
・じっとりと汗をかく
・体がだるくて熱感がある
・体が浮いているようで、現実感が薄れる
・電車に乗っていると脱線する恐怖に襲われる
・胸騒ぎがして、そわそわしている
非発作性不定愁訴とも呼ばれる
残遺症は、非発作性不定愁訴とも呼ばれます。不定愁訴と言うのは、身体的には異常が認められないのに、身体面の様々な不調に悩まされる症状です。
パニック発作が治まり、治ったと思ったころ症状が出てきますから、当人はそれがパニック症状の後遺症と思わず、自律神経の乱れだと思い込んでいたりします。また、医師の方でもパニック障害の前歴を知らなければ、なかなか正確な診断が下せないということになります。
パニック障害としての治療が続けられる
パニック障害の治療にあたっては、専門的な知見と様々な患者の臨床経験のある医師を探すのが重要です。パニック障害の治療は、薬物療法と精神療法を併用して行われます。
薬物療法では、SSRIをはじめとする抗うつ薬と抗不安薬です。精神療法では、認知行動療法の中の「段階的暴露療法」が広く用いられています。残遺症が出てきても、治療の基本は変わりません。
勝手な服薬中止が原因の一つになる
パニック障害は、薬物療法が効果を発揮しやすい障害だとされていますが、薬の効果には個人差がありますから、効果を確認しながら、量と回数が決められていきます。医師が定めた通りの量と回数を守って服用していくことが重要です。
治療が長引くこともあり、ある程度症状が収まってくると、勝手な自己判断で服薬をこっそりやめてしまう人がいます。このような勝手な自己判断による服薬の中止が、残遺症の一つの原因だと指摘されています。
残遺症状が数年後に現れることも
残遺症状があらわれる時期は、かなり個人差があります。発作が治まった後にあらわれることもあれば、数年後にあらわれることもあります。
数年後にあらわれるような場合、それがパニック障害の後遺症だと気が付かず、たとえば自律神経失調症と思い込んで、間違った診断のもとで治療を受けるケースが少なくないことは先に述べた通りです。
どのような残遺症状が現れるのか
想像以上に厄介な残遺症
先に残遺症の多種多様な症例を列挙しましたが、一つ一つの症状は、パニック発作に比べると、軽いように連想しがちです。実際、パニック障害と言えば、メインのパニック発作とその2次障害である「予期不安」と「広場恐怖」に焦点が当てられがちです。ところが、実はいろいろな意味で、残遺症は厄介な症状です。
症状は多種多様なうえに変化する
残遺症の特色は、症状が様々な上、症状の場所が移動し、症状が次第に悪化することです。そうすると、診断が間違っているのではないか、という疑心暗鬼が生じ、死に至る病ではないかという不安にさいなまれることになります。心身ともに疲労困憊し、完全なうつ状態に陥ります。
疑心暗鬼からうつ病に移行することもある
パニック障害のパニック発作は、死ぬかもしれないと思わせるような当人にとっては、実に危険な症状です。しかし、発作は10分程度で治まります。
残遺症は、痛みや不快感がまる一日続き、じわじわと重くなっていきます。ショックという点では、パニック発作に比べると軽いものの、長期にわたり続きますから、心身の不調が強い負担になります。
そうして、たとえば残遺症としてあらわれる動悸や胸の痛みなどから、心臓病ではないかと疑い、症状が長く続くので、これは死に至る病ではないかという疑心暗鬼から不安がつのってきます。死ぬかもしれない、という恐怖の実感は、パニック発作以上に感じられるようになります。
その結果、うつ病に移行するケースも珍しくありません。
しっかりとした治療が予防、対策になる
パニック障害の治療は、長期にわたるということを肝に銘じて治療に取り組みましょう。急性期の症状がおさまると、勝手に服薬を中止するケースがありますが、これが残遺症の一つの原因ともなります。
パニック症状に強い専門の医療機関を探して、忍耐強く治療にとりくむようにしてください。