ペットフード工業会の調べによると、2016年現在、20代から60代の家族が飼っている犬と猫の推計頭数は、犬が988万頭、猫が985万匹だということです。
子どもの人口がざっと1600万人ですから、子ども(14歳以下)の数よりも多い犬・猫のペットがいることになります。子どもよりも寿命の短いペットです。
ペットを失って悲しむ人たちが増え、中には心身に症状があらわれるペットロス症候群で苦しむ人たちも増えてきています。
ペットロス症候群とは
ペットロスとは、「ペットを失う」という意味ですが、その悲しみのために心身に症状があらわれるのがペットロス症候群です。
ペットを失うことで心身に症状が現れる
長い年月、家族同然にペットと過ごしてきた人にとって、ペットと死別したり、ペットが行方不明になっていなくなってしまうと、深い悲しみに襲われ、ぽっかりと心に空洞ができたような気分になります。
特に子育てを終え、子どもたちが家を出て行った熟年夫婦にとって、ペットは伴侶動物(アニマル・コンパニオン)です。それだけにペットを失ったときのショックは大きいものがあります。
深い悲しみに捉われ、そこから抜け切れない精神状態が続けば、うつ状態に陥ることは容易に理解できることです。
必ずしも死別とは限らない
ペットの場合、死別のほかに行方不明になって戻ってこないというケースがあります。いったん迷子になったら、言葉をしゃべれないペットを探し当てることは至難の業です。
フェイスブックなどに、迷子のペットの写真をアップし、拡散希望の告知などを見かけますが、どのくらいの効果があるのでしょうか。ペットが行方不明になると、それを防げなかった自分に対する自責の念に苛まれます。哀しみプラス自責の念を伴った気分の落ち込みは、死別以上かもしれません。
離別には強いストレスがかかるもの
人間にとって、離別や死別のストレスは、かなり強いものです。ペットロス症候群は、このストレスが引き金になってあらわれます。
気分が落ち込み、関心や興味がもてなくなり、やる気がでてこない、という精神的なもののほかに不眠、食欲不振、体がだるい、などの身体症状もあらわれてきます。
もっとも、これらの症状は人それぞれですが、全体的にみるとあらわれてくる症状は、うつ状態です。ペットロス症候群は、俗称で、病名ではありませんが、これを放置しているとうつ病という本物の病気に移行する可能性があります。
ペットロスとうつ病
断ちがたい愛着の念、生きがいの喪失といった感情に長く捉われている人には、うつ病が忍び寄ってきます。
長期的な落ち込みからうつ病に
ペットロス症候群の主な症状を列記しておきます。ただし、これらの症状があるからといって、うつ病と決め込むのは間違いです。
家族の伴侶ともなったペットを失えば、誰だって悲しみにくれ、気分が落ち込みますから、これらの精神的・身体的な症状は、正常な反応というべきでしょう。
しかし、このような症状が数か月続き、改善の方法が分からないまま、日常生活に支障をきたすようになれば、治療が必要になります。
◯ ペットロス症候群の主な症状
精神的な症状 | 身体的な症状 |
---|---|
悲しみで気分が落ち込む | 体がだるい |
何も楽しめない、喜べない | 眠れない |
やる気がおきてこない | 食欲不振 |
集中してものが考えられない | |
自責の念・罪責感に苛まれる |
長期間にわたって常に憂うつな気分になる
ペットロス症候群の症状は、うつ病の抑うつ気分とよく似ています。このような気分が長く続き、日常生活に支障をきたすようになったら、うつ病の可能性も考えなければならないでしょう。
参考までに、うつ病の中核症状である抑うつ気分の主な症状は次のようものです。
気分が憂うつ、気持ちが沈む、うっとうしい、悲しい、むなしい、淋しい、快や喜びといったポジティブな感情の喪失。
●意欲の減退
うつ病では、意欲と気力が減退し、おっくうで、何をやっても面白くないという状態になります。
●疲労感が強くなる
体がしんどくて、けだるく、ちょっとしたことで疲れてしまい、疲れがたまってきます。これまでは、休息するととれていた疲れがなかなかとれなくなります。
●不眠症があらわれる
夜中に何度も目がさめる、時間的には十分眠っているはずなのに熟睡感がない、眠りが浅い。一方で、いくら眠っても寝たりなくて眠くて仕方がないといった過剰睡眠があらわれることもあります。
●能力が低下する
「頭がうまく回らない」、「考えが浮かんでこない」、「考えがまとまらない」、「集中できない」、「決断ができない」など。
●悲観的思考
自分を責め、自罰的な思考に偏りがちになります。
●食欲、体重が増減する
食欲が減退する一方で、過食傾向もみられます。このほか、性欲が低下し、生理不順、頭痛や頭重、めまいやしびれなどの身体症状があらわれてくることもあります。
うつ病や精神疾患の疑いがあったら医療機関へ
それが、時間が経てば癒されるペットロス症候群の症状なのか、うつ病に移行するリスクを秘めた症状なのかの正しい判断は、一般の人には難しいでしょう。
そこで、自分でも異常と自覚できる症状なら、早期に精神科や心療内科などの専門の医療機関で治療に取り組むことをお勧めします。インターネットで検索すると、ペットロスを中心にクリニックもあります。
うつ病の治療は「休息」「薬物療法」「精神療法」
うつ病の治療の中心となるのは、休息、薬物療法、精神療法です。休息はうつ病治療の基本です。
うつ病と判断されると、一般的には、抗うつ薬による治療が行なわれます。ただし、軽症の場合は薬の効果がそれほど期待できないこともあり、薬との相性を確認しながら治療が行われます。
精神療法としては、支持的精神療法、認知療法、対人関係療法などがありますが、ペットロスの場合、悲しみを乗り越えるためのカウンセリングから入るケースが多いようです。
立ち直るための4つのステップ
第1ステップ:ペットの死を受け入れる
悲しみを乗り越えるためには時間がかかります。ペットを失った時に最初に訪れるのは、「否認」です。ペットの死を受け入れられないのです。
まず、この段階を乗り越えるのが、回復への第1歩です。最近、ペット供養というサービスが行われるようになってきています。中には商魂たくましい高額の供養もあるようですが、ペット供養は「否認」のステップを乗り越えるセレモニーとして捉えることもできます。
第2ステップ:周囲の人間に気持ちを吐き出す
ペット供養でペットの死を受容すると、心にぽっかりと穴が開いたような絶望感に襲われます。このステップを乗り越えるためには、自分自身はもとより、周りの人にも自分の気持ちを素直に吐き出すことです。
「悲しい」、「辛い」、「やっていけそうもない」と言葉に出していってみること。中には、「たかが、ペットが死んだくらいで・・・」と心無い反応示す人もいますが、気にしないで、悲しみを吐き出しましょう。
第3ステップ:ペットがいない環境になれる
悲しみを吐き出すと、「ああ、〇〇ちゃんはいなくなったんだな」という事実を受け入れている自分に気づきます。
もちろん、心の底には悲しみの気分が残っているのですが、心を取り直して可愛かったペットの写真を整理してみよう、記念のアルバムを作ってみようか、と思い立つようになれば、すでにその人は「絶望」の第2ステップを乗り越えたと言えるでしょう。
第4ステップ:元の生活に戻る or 思い切って新しいペットを飼う
ペットのいない環境になれてくれば、徐々に症候群の症状が消え、もとの生活に戻っています。ひょっとしたら、また、新しいペットと暮らしてみようか、という意欲がでてくるかもしれません。中には、もうあんな辛い思いはこりごり、と思う人もいることでしょう。
どちらの選択もアリです。
また飼ってみようと思った人のための参考に、様々なペットの寿命を調べてみました。
・猫:14年〜15年
・ウサギ:6年〜8年
・モルモット:5年〜7年
・コイ:20年~30年
・カメ:20年以上
・オカメインコ:18年~20年
・フクロウ:15年~20年
・金魚:8年~15年
ロボット・セラピー
余談です。特に手術や投薬を伴わない心理療法・物理療法をセラピーといいます。人形の形をしたドール・ロボットは老人介護施設で取り入れられ、癒しの効果があることが実証されています。
最近では、アニマル・ロボットも登場してきています。犬や猫だと、世話が大変ですし、かみついたりします。その点、ロボットは手間いらずの重宝なペットです。
ロボット・セラピーとしては、タテゴトアザラシの「パロ」が有名ですが、そのほか可愛らしい高機能のペットロボットが登場してきています。
ロボットには「死別」は無縁です。ただし、故障するのが玉に傷ですが・・・。
ペットを飼う際に覚悟が必要
我が国には子どもの数より多いペットがいます。そして、多くの人は子どもと同じくらいの愛着をもってペットと暮らしています。ペットの寿命は、人間よりはるかに短いので、いつか別れがきます。
ペットを飼うということは、喜びの癒しを求める一方で、いつか訪れる死別の哀しみを飼うということです。ペットロスを乗り越えるためにも、あらかじめ覚悟を決めておくことも必要です。