PMS・PMDDとうつ病、その違いは?特徴と判断基準


PMSは、生理前のほぼ2週間に起る身体と精神の不調の総称です。その中でも特に精神的不調が重く、日常生活や社会生活に支障をきたすほどの状態がPMDD(月経前不快気分障害)です。今回は、PMDDを中心にPMSと精神疾患の一つであるうつ病との違いを整理してみました。

PMS・PMDDの特徴

原因は生理前のホルモンバランスの乱れ

PMS・PMDDの原因ははっきりとは解明されていませんが、大きな要因として女性ホルモンが関与しているのではないかと言われています。女性ホルモンには、主に卵胞から分泌される「エストロゲン(卵胞ホルモン)」と黄体から分泌される「プロゲステロン(黄体ホルモン)」があります。

エストロゲンは、生理終了後の卵胞期に多く分泌され、排卵期を経た黄体期にはプロゲステロンが多く分泌されます。生理前二週間は、プロゲステロンの最盛期にあたります。PMSやPMDDはこのプロゲステロンが関与していると考えられています。ただ、PMSとPMDDの違いはどこにあるのかという点は分かっていません。

ちなみに、PMDDにはセロトニンを増やす作用を持つ抗うつ剤や女性ホルモンに影響を与えるピルなどが効くため、これらの物質も関係しているのではないかと考えられています。

PMSとPMDDでは症状が違う

PMDDとPMSは、どちらも生理の周期に繰り返し現れる症状という点では同じですが、症状が異なります。典型的なPMSでは、頭痛、便秘、イライラ、耐え難い眠気など、身体と精神の様々な不調に悩まされます。しかし、精神的不調は、軽症にとどまり、生理が終われば治まってきます。

一方でPMDDは、生理前になると攻撃的、暴力的になり生活に支障をきたすレベルまで精神症状が悪化します。場合によっては自殺願望を抱いたり、自傷行為に奔ることもあります。原因は同じでも両者は別の疾患だと考えるべきです。

症状の期間も異なる

PMSは生理の直前から、イライラ、不安感、集中力の低下、抗いがたい日中の眠気と夜の不眠、だるさ、頭痛、便秘などの症状があらわれてきます。一方、PMDDは、先に述べたように精神症状が非常に強くでてきます。そのため、会社での人間関係が崩れたり、家庭不和や離婚に発展するケースもあります。

個人差はあるものの、一般的にはPMDDは、生理の1週間前、時には2週間前から始まります。PMSと比べると症状の出現期間が長いのが特徴です。

症状の重さが違う

PMSもPMDDも辛い疾患であることに変わりはありませんが、PMSは精神症状に限れば、ほとんど軽度です。一方、PMDDは、うつ状態になり、会社に出社できないレベルまで精神症状が悪化します。

PMSの場合は、医者にかかるまでもなく、生理が終わればおさまりますが、PMDDの場合は、専門の医療機関にかかることが必要になってきます。

治療は、精神科での薬物療法

PMDDの治療を行うのは精神科ですが、治療はセロトニンの減少を抑える抗うつ薬による薬物治療が中心です。毎月、生理の始まる2週間前から生理が始まって症状が出なくなる時期まで服薬します。

完治までの期間は、個人差がありますが、薬で症状を完全に抑えた状態を最低1年は続けるのが望ましいとされています。

うつ病の特徴

PMDDは、国際的にはうつ病の一種として認められ、アメリカ精神医学会は診断基準を定めています。しかし、男女ともにかかるうつ病に対して、PMDDは女性の生理前の一定期間に毎月あらわれる「期間限定のうつ病」です。

似て非なる病

PMDDでは、著しい抑うつ感や不安感、緊張感、情緒不安定性、イライラする、怒りや感情を抑えられない、気力や集中力の低下といった精神症状があらわれます。

また、過眠や不眠、頭痛、過食、吐き気などの身体的症状も伴います。これらの症状はうつ病に似ています。しかし、PMDDとうつ病は似て非なる病気です。

うつ病とPMDDは原因が異なる

憂うつで気分が落ち込む、すべてがむなしく思えてきて何となく悲しくなる、などという気分が長期間持続し、思考や意欲といった精神機能までが低下した状態を抑うつ状態といいます。

こうした抑うつ状態が長く持続すると、うつ病の可能性が考えられます。
うつ病は、精神的ストレスや身体的ストレスが重なることなどが原因で起こりますが、専門的には脳に機能障害が起きている状態です。

これに対して、PMDDは、エストロゲン(卵胞ホルモン)やプロゲステロン(黄体ホルモン)などの女性ホルモンの乱れから発症します。

憂うつな気分に加え、心身に様々な症状が現れる

うつ病では、身体的にも様々な不調が目立ってきます。たとえば、食欲がない、性欲が起こらない、体がだるい、疲れやすい、頭痛、動悸、めまいがする、胃の不快感、便秘、口が渇くなどがそれです。

PMDDでも、これによく似た身体症状があらわれます。しかし、うつ病はこうした症状が長期にわたり続きます。

うつ病の診断基準の中に、一定期間以上その症状があらわれ続けているという条件がありますが、PMDDは先に述べた通り「期間限定のうつ病」です。

医療機関にかかるべきである

医療機関で適切な治療に取り組まなければならないという点では、似ていますが、治療の内容は全く異なります。うつ病の治療は、主として休養、薬物治療、精神療法の3本柱で行われます。

薬物療法では、一般的には、抗うつ薬による治療が行なわれます。精神療法では、認知療法、対人関係療法、支持的精神療法などがあります。これに対して、PMDDの治療の中心は薬物療法です。

PMDDの判断基準

間違われやすい症状

PMDDの精神症状がうつ病に似て、間違えられやすい症状です。しかし、その原因や発症の期間が異なり、似て非なる病気であることは、既に述べてきた通りです。

このほか、下記のような精神疾患と間違われやすいとされています。

・気分変調性障害(プチうつ病、抑うつ神経症、神経症性抑うつ、小うつ病)
・大うつ病性障害(うつ病・定型うつ病・非定型うつ病)
・双極性障害(躁うつ病)
・パニック障害
・パーソナリティ障害

PMDDの診断基準

アメリカ精神医学会による「DSM-5」という診断基準の大要を紹介しておきます。下記のすべての項目を満たした場合、PMDDと診断されます。

・ほとんどの月経周期で、月経開始最終週に下記の5つ以上の症状が認められる。
・月経がはじまると数日以内に症状は軽快し、月経終了の週には症状は消失する。
・これらの症状によって生活に支障が生じている。
・他の疾患による症状ではない。また薬物を摂取したことによる症状ではない。

<次のような症状が1つ以上ある>
1)突然悲しくなる、涙もろくなる、嫌われたり拒絶されることに敏感になるなど、著しく感情が不安定である。
2)著しいいらだたしさ、怒り、対人関係での喧嘩が多くなる。
3)著しい気分の落ち込み、絶望感、自己嫌悪。
4)著しい不安、緊張

<次のような症状が1つ以上あり、前項の症状と合わせると5つ以上になる>
1)仕事、学校などの必要な活動に対して、興味が低下する。
2)集中力が落ちていると感じる。
3)だるい、疲れやすい、または気力が著しく低下している。
4)食欲が著しく変化している(過食だったり、特定の食べ物を欲するようになる)。
5)過眠または不眠。
6)圧倒される、または自分を制御不能だと感じる。
7)胸の張り、関節痛・筋肉痛、膨満感、体重増加などの身体症状がある。

症状が強いなら医療機関にかかって損はない

PMDDは生理の周期に連動して生じる女性特有の疾患で、有病率は3~8%になるという報告があります。同じ生理に連動して起こるPMSに比べると、精神症状が強く、場合によっては、専門的な治療を必要とする疾患です。

症状が重いようであれば、精神科の専門医の診断を受けたうえで、服薬治療に取り組まれることをお勧めします。


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