統合失調症といえば、妄想や幻覚が出る怖い病気というイメージが浮かんでくるのではないでしょうか。しかし、これは長い治療期間の一時期に出現する陽性症状と呼ばれる症状で、実際にはこれと対照的な陰性症状も出現します。
今回は、統合失調の二つの顔、陽性症状と陰性症状がテーマです。
目次
陽性症状
陽性症状は、統合失調症の急性期と呼ばれる時期に出現する症状です。陽性症状とは、本来存在しないものが出現するというところから名づけられた症状で、陽気、明るいという意味の「陽」とは無縁です。陽性症状の代表的なものが幻覚と妄想です。
幻覚と妄想
統合失調症の幻覚は主に幻覚(幻声)です。本人を誹謗したり、命令を伝える幻声は耳に聞こえてきたり、頭の中に直接響いてくることもあれば、腹部から聞こえてくる場合もあります。
妄想は、「自分が監視されている」、「自分は集団ストーカーに狙われている」といった被害妄想が中心です。このほかに、自分と他人との境界があいまいになる自我障害や思考の混乱があらわれてきます。
●幻覚:誰かが自分の悪口を言っている。
●被害妄想:自分は誰かに狙われているなど。
●自我障害:自分と他人との境界線が曖昧になってしまう
●思考混乱:考えがまとまらず、相手は何を言っているのか理解できない。
統合失調症の4つのステージ
統合失調症の症状のあらわれ方や経過は、下記に示すように、一般的には前兆期、急性期、慢性期、回復期のという4つの段階で経過していきます。
そうして、時期ごとに症状が大きく変容するというのが、統合失調症の大きな特色です。
<統合失調症の4つのステージ>
●前兆期:眠れなくなったり、物音や光に敏感になったり、焦りや不安の気持ちが強くなったりして、発症の前触れのようなサインがあらわれる時期です。
●急性期:前兆期に続き、現れるのが急性期です。不安、緊張感、敏感さが極度に強まり、幻覚、妄想、興奮などの統合失調症特有の陽性症状があらわれてきます。急性期の期間は、数週間単位です。
●慢性期(休息期・消耗期):急性期が過ぎると、感情の起伏がとぼしくなり、無気力で何もしなくなるなどの陰性症状があらわれてきます。無気力状態で、いつも寝ていたり、引きこもったりします。この時期は不安定な精神状態にあり、ちょっとした刺激が誘因となって、急性期に逆戻りすることもありますから、油断は禁物です。慢性期の期間は、数週間から数か月単位です。
●回復期:症状が徐々に治まってくる時期です。ただし、この時期には認知機能障害が現れることがあり、その結果、その後の生活上の障害や社会性の低下へとつながっていく場合があります。回復期の期間は、数か月から数年単位です。
陽性症状は急性期に主にあらわれる
陽性症状は、急性期にあらわれる症状です。ただし、これらは一方方向ではなく、慢性期にストレスがかかると、急性期の陽性症状にもどり、再発することがあります。
しかし、治療効果の高い薬が開発されたこともあり、早期に薬物療法に取り組めば、再発を抑えることができるようになりました。
陰性症状
陰性症状は、統合失調症の慢性期にあらわれる症状です。陽性症状が、本来ないものがあらわれる症状であるのに対して、陰性症状は「本来、心の中にあるはずのものが存在しない」症状です。
何が失われるかと言えば、喜怒哀楽といった感情や意欲、思考力などです。このため、社会的引きこもりや無関心などの症状が表れてきます。
●感情の減退:喜怒哀楽が乏しくなり、意欲や集中力も減退し、無関心になる。
●思考能力の低下:言葉数が極端に少なくなり、会話の内容が薄くなる。
●コミュニケーションへの支障:他人とのかかわり合いを避け、ボーとして無関心状態で過ごす日々が続きます。
陰性症状は慢性期にあらわれる
陰性症状は、急性期の陽性症状が収まったあとの慢性期にあらわれてきます。急性期が数週間単位なのに対して、慢性期の陰性症状は、数週間から数か月単位で、比較的長く続きます。
統合失調症といえば、異常性が明らかな幻覚や妄想を連想しがちですが、長期的にあらわれるのは、陰性症状です。
陽性症状と陰性症状の違い
陽性症状と陰性症状は、まず症状が違い、あらわれる時期も違います。当然、治療法も、家族やまわりの人たちの対応も異なります。
症状と時期の違い
陽性症状は、幻覚、妄想といった激しい症状です。陰性症状は、感情や意欲や思考力などが減退した全体に無気力な状態です。
統合失調症では、まず、急性期の陽性症状から始まり、そのあとの慢性期へと変化していきます。一口に統合失調といいますが、時期によって、症状が変化し、それぞれの時期の処置を誤ると再発を繰り返します。
しかし、それはまた、それぞれの時期にあらわれる、陽と陰の症状を乗り越えると、回復し、社会復帰も可能であることを物語るものです。
陽性症状の治療方法
陽性症状では、症状が激しいので、症状を抑えるために抗精神病薬による薬物治療が中心になります。「抗精神病薬」は、文字通り精神に作用する薬で、その作用は大きく3つにまとめることができます。
・不安・不眠・興奮・衝動性を軽減する鎮静催眠作用
・感情や意欲の障害などの陰性症状の改善をめざす精神賦活作用
陰性症状の治療法
陰性症状では、薬物治療の比重は低くなり、心理的なアプローチやリハビリテーションが重視されます。心理的アプローチは、認知行動療法とも呼ばれますが、診察・面接を通して、患者の考え方や行動などに焦点をあて、考え方や気持ちの持ち方を修正していく療法です。
医師は、患者の病状を的確に評価した上で、心理療法を施し、必要な場合には薬も用いますが、陰性症状の治療のポイントは、心理療法になります。
陽性症状に対して周囲が気を付けること
陽性症状としてあらわれる幻覚や妄想は、周りの人には、でたらめな思い込みや怯えのように思われます。ついつい、聞く方は、「それは病気のせいだよ。そんなことはあり得ない事でしょう」とムキになって否定しようとします。
また、無理やりにそれが異常な思い込みであることを説得しようとしがちです。しかし、それは逆効果で症状の悪化につながりかねません。黙って聞いてあげて、「そうなんだ、気のせいじゃないか?」と話題を逸らすのが陽性症状に対するセオリーです。
陰性症状に対して周囲が気を付けること
陰性症状を覆っているのは、うつ病の症状に似たある種の暗さです。だからと言って、無理に、明るく励ますのは、禁じ手です。
患者に寄り添い、焦らずにじっと元の精神状態に戻るまで見守ってあげること、自分がそばにいて、大切な人だと思っていることを理解してもらうことが重要です。
症状の変化に必要以上に戸惑う必要はない
たびたび述べてきたように、統合失調症では時期によって症状が大きく変化します。激しい陽性症状にも戸惑いますが、陰性症状になると、戸惑いの中に大きな不安が膨れてきます。
しかし、変化したということは、症状が回復するための必須のステップの一つを乗り越えたということにほかなりません。きちんと治療をさせ、患者さんに寄り添い、回復する日を思い描いて、焦ることなく気長に頑張って欲しいものです。