統合失調症はいくつかの要因が重なって発症すると考えられています。その要因を点検していくと、発症リスクを抱えている人とそうでない人の差異のようなものが見えてきます。
ただし、これらの要因は現在のところ仮説の段階ですから、確定的に考えるのは避けるべきです。
目次
統合失調症の原因とは?
統合失調症とは
私たちは、思考や感情や行動を一つの目的に沿って統合し、日常生活を営んでいます。この統合能力が長期にわたり低下し、幻覚や妄想やまとまりのない奇異な行動がみられるのが統合失調症です。
以前は、精神分裂病と呼ばれ、不治の病のイメージが強かったのですが、新しい薬と心理的精神療法の開発により、初発患者のほぼ半数は回復が期待できるようになりました。
原因は完全にはわかっていない
統合失調症の根本的な原因はまだ解明されていません。現在考えられている原因というのは、一つの原因に起因するのではなく、いくつかのリスク要因が重なって発症するということです。
それらの要因として考えられているのが、脳の生物学的な要因、遺伝的要因、心理的な要囚、環境的な要囚などです。
脳の生物学的要因
脳内で情報のやりとりをしている「神経伝達物質」の一つにドーパミンという物質があります。ドーパミンは、注意、意欲、感情、学習、運動調節といった機能をつかさどる物質です。このドーパミンの過剰な分泌、あるいは機能低下が、統合失調症の症状を引き起こすのではないかと考えられています。
また、統合失調症の患者の脳を調べた研究では、前頭葉や側頭葉などの部位、海馬や扁桃体の部位に萎縮がみられました。これらの部位は、人間の意欲、感情、情動的記憶、恐怖反応など思考や創造性に深くかかわる中枢機能です。
いずれにしろ、こうした脳の生物学的要因が、統合失調症の発症要因の一つだと考えられています。
素因(遺伝的要因)と環境
遺伝に関しては、一卵性双生児を対象とした研究報告があります。双子の遺伝子は100%同じですから、一卵性双生児の発症率を調べると、遺伝との関係が明らかになります。
調査の結果は、一卵性双生児の片方が発症すると、もう一人に発症する確率は50%です。これは、統合失調症の原因には素因と環境の両方が関係しているということを示唆しています。
統合失調症の原因には素因と環境の両方が関係していて、素因の影響が約3分の2、環境の影響が約3分の1とされています。
このように、親からの遺伝、環境、双方の影響を受けることはわかっていますが、それでも統合失調症の親から生まれる子で発症する確率は約10%だとされています。
ストレスによる心理的な要因
統合失調症発症に関して、「脆弱性・ストレスモデル」という考え方があります。これは、一つの原因から発症するというわけではなく、いくつかの因子の影響で発症してしまうという考え方です。
ここでいう脆弱性というのは、遺伝、脳のトラブル、気質・性格などを含んだ要因です。つまり、統合失調症になりやすい「もろさ」を構成する要素です。
そして、転校、転居、親の離婚、親との死別、あるいは病気といったことによるストレスが重なったときに、発症するという考えです。
ストレスは発症のきっかけ
ストレスを受けたときの反応は人それぞれです。たとえば、ストレスを受けたとき、脳のドーパミンが出やすい人もいればドーパミンが出にくい人もいるでしょう。
仮にストレスを受けてドーパミンを過剰に分泌したり、機能低下をもたらすようなことがあれば、それは、ストレスに反応しやすい脳ということになります。「脳の脆弱性」という言い方もします。この場合、ストレスは発症のきっかけとなるもので、直接的な原因ではありません。
私たちは、多かれ少なかれストレスにさらされながら生きていますが、その中で統合失調症を発症する人はごくわずかです。
15歳~30歳の発症率が高い
ある特定の病気にかかりやすい年齢を好発年齢と呼びます。統合失調症の場合、思春期から30歳までが好発年齢で、統合失調症70~80%を占めます。
平均の発症年齢は、男性が27歳、女性が30歳で、男性の方が、多少発症年齢が低い傾向にあります。ただし、女性は40歳から45歳の間、発症の小さなピークがあり、この時期の発病率は男性の2倍となっています。
予防法はあるのか
高血圧の予防法の一つに、塩分を控える、というのがあります。統合失調法の場合、このような客観的に効果が認められている予防法はありません。
なにしろ、根本の原因が解明されていませんし、現在考えられているいくつかの要因も、どちらかといえば予防不能な脳の器質的な異常であったり、性格であったりします。
ただ、先にあげた脆弱性ストレスモデルによると、発症のきっかけとなるのがストレスですから、ストレス環境を改善することは、間接的な予防法と言えるでしょう。
なりやすい要因、タイプ
ストレスを受けやすいタイプ
統合失調症になりやすい要因として、遺伝的要因、脳のトラブル、気質・性格などの要因があり、一方で強いストレスにさらされると発症するというのが、先にあげたストレス・脆弱性モデルです。
この仮説に立てば、ストレスを受けやすい人は、そうでない人よりも発症の可能性は高いということになります。長崎大学が行なった調査では、統合失調症発症者のうち、約80%の人が3ヵ月以内に入学、就職、失恋、結婚、死別など環境の変化があったことがわかっています。
もともと脆弱性を抱えている人でストレスに弱い人が、長期にわたってストレスのかかる出来事を体験すると、統合失調症を発症する確率は高くなるものと考えられています。
なりやすい性格
統合失調症と性格に関しては、クレペリン(ドイツの精神科医)、ブロイラー(スイスの精神科医)、クレッチュマー(ドイツの精神科医)などが、性格に一つの傾向が見られることを指摘しています。ただし、これはあくまで傾向です。自分の性格と照らし合わせて不安がる必要はないのですが、参考までに列記すると以下のようになります。
・男性では無口、内気、ひきこもりがち、孤独
・女性では怒りっぽく、敏感、神経質、強情
・易怒性と引っ込み思案、孤独な性格。
・内向的で非社交的、内気、孤独で生真面目
・臆病、恥ずかしがり、敏感、神経質
・従順、正直、鈍感
近親者に統合失調症の人がいる
統合失調症と遺伝の関係は、無視できません。
統合失調症の患者を対象とした調査では、以下のような結果が報告されています。
・両親がともに統合失調症であった場合、子どもが発症する確率は40%。
・統合失調症の兄弟姉妹がいた場合、当人が発症する確率は約10%。
確かに近親者に統合失調症の人がいれば、そうでないケースよりも発症の確率は高い。しかし、一方で、こんな調査報告もあることを忘れないようにしましょう。
・統合失調の患者さんのうち、兄弟を含めてもその約8割は統合失調症ではない。
・統合失調症の患者さんのうち、甥や姪を含めても約6割は統合失調症ではない。
なりにくい要因
ストレスをうまく発散できる
ストレスは、統合失調症に限らず様々なタイプの精神疾患の呼び水となっています。ストレスに弱い人は、精神疾患にやられる可能性が高くなります。
といって、それは生まれつきの性格ともからんでいますから、ストレスに強くなろう、といっても無理なところがあります。
しかし、ストレスをうまく処理するテクニックは習得できるはずです。自分の性格にフィットした方法で、ストレスを発散する手法を身に付けることは、間接的な予防につながります。
生活リズムが整っている
統合失調症の発症のきっかけになるストレスは、睡眠不足や、生活リズムの乱れから生じるケースが少なくありません。
ライフイベントにおける目立つストレスばかりではなく、日常生活の中に鬱積していくストレスも見逃せない危険な要因です。規則正しい生活は、すべての病気に対する基本的な予防策です。
備えあれば憂い少なし
統合失調症には、ある種のなりやすい性格の傾向があり、あるいは病前性格のようなものが認められるというのは、確かなようです。
ただし、この性格が原因で発症するのか、それとも、性格そのものが統合失調症の前駆的症状と見るべきかについては、見解がわかれていますが、最近では前駆症状ではないかという説が優勢になってきているようです。つまり、統合失調症の特有の性格というのは、発症前のサインではないかということです。
この仮説にたてば、性格を変える努力をするよりも、統合失調症のリスクが高いということを自覚し、いざという場合に備えた対策を考えた方が有効だと言えます。つまり、早期治療に取り組む用意もしておくということです。
なぜ、それが有効かと言えば、精神科の医療技術の進歩で、統合失調症は、適切に早期治療に取り組めば、症状も治まり、再び社会復帰ができるようになってきたからです。
早期発見、治療が重要である
脳に問題を抱え、遺伝的要因もあり、気質・性格的にも統合失調症になりやすいなどのいくつかの「もろさ」を持って生まれた人は、その他の人より統合失調症になるリスクが高いことは否定できない事実です。
しかし、昔と違って、統合失調症は不治の病ではなくなりました。この事実を噛みしめて、早期発見、早期治療に取り組み、統合失調症を克服するようにしてください。