うつ病の治療は、休養と薬物療法とカウンセリングの3本柱で行われますが、薬物療法に用いられるのがセロトニンという神経伝達物質を活性化させる抗うつ薬です。
今回のテーマは、うつ病とセロトニンとの関連性について説明します。
目次
セロトニンとは
セロトニンは脳内神経伝達物質の一つで、ドパミン、ノルアドレナリンを制御し、精神を安定させる働きをします。
神経伝達物質の1つ
セロトニン、ドパミン、ノルアドレナリンは、脳内や中枢神系で働く三大神経伝達物質と呼ばれています。快楽や喜びの感情を司るのがドパミン、怒りや不安の感情を司るのがノルアドレナリンです。セロトニンは、この二つの神経伝達物質を制御し、精神を安定させる働きがあります。
つまり、セロトニンが低下すると、これら二つのコントロールが不安定になり、バランスが崩れ、攻撃性が高まり、また、不安やうつといった精神症状を引き起こすとされています。最近では、セロトニンの低下の原因に、女性ホルモンの分泌の減少が関係していることが判明し、更年期障害と関わりがあることが知られるようになりました。
消化管、血液、脳に存在する
人体の中には、約10mgほどのセロトニンが存在しますが、実はその90%は消化器にあり、血液中の血小板内に8%、脳に存在するのは2%くらいです。
消化器官(腸管)では、セロトニンは主に消化管の運動を促す作用があります。血小板のセロトニンは、主に止血作用の働きをします。そして、脳のセロトニンは、神経伝達物質としての働きをします。
神経伝達物質とは、神経から神経に情報を伝えるために分泌される物質です。シナプスと呼ばれる神経と神経の接合部に神経伝達物質が分泌されることで、神経は別の神経に情報を伝達していくのです。
脳での働きが精神を安定させている
脳には100億~1000億個とも言われる神経細胞があります。神経細胞は、それぞれが1000個から10万個程度の別の神経とのシナプスを形成し、脳内に膨大なネットワークを形成しています。
このシナプスネットワーク内で、情報伝達を行うのが神経伝達物質です。神経伝達物質は、セロトニン、ドパミン、ノルアドレナリンを含めて100種類以上あると言われています。
脳神経の中で最も使われている神経伝達物質はグルタミン酸です。セロトニンが神経伝達物質の中に占める割合は少ないものの、セロトニン神経は、他の神経伝達物質の神経とくらべて約100倍多くのシナプスを形成しているといわれています。
そのため、セロトニン神経は、私たちの脳に多くの影響を与えています。その働きの一つが、ドパミンやノルアドレナリンをコントロールして、精神を安定させる作用です。
うつ病とセロトニン
うつ病は、その原因を基準として、いくつかのタイプに分類されます。アルツハイマー型認知症などのように脳の障害や身体の病気を起因する外因性/身体因性のうつ病、抑うつ神経症などの心因性/性格環境因性のうつ病、そしてうつ病性挿話とも呼ばれる内因性のうつ病です。セロトニンは、この内因性うつ病の薬物治療に効果があるとされています。
うつ病の要因は脳にある
内因性うつ病はうつ状態が一定期間持続し、治療しなくても軽快するところからうつ病性挿話と呼ばれることがあります。ただし、うつ病性挿話は治った後も再発することがあり、本人の苦しみや自殺の危険などを考えると、早く治療したほうがよいことは言うまでもありません。
うつ病性挿話の発症の要因は、環境のストレスなどが引き金になる場合もありますが、何も原因となることがないまま起こる場合もあります。推測としてはセロトニン、ノルアドレナリンなどの脳内神経伝達物質がうまく働いていないと考えられます。
つまり、うつ病の要因は脳にあると考えられているわけです。
脳内のセロトニンが増えれば、うつ病の改善にも役立つ
うつ病の原因は、現在、すべてが解明されているわけではないのですが、最近の研究では、脳内の神経細胞の情報伝達にトラブルが生じているという説が有力になってきています。
この伝達を担うのが先に述べた神経伝達物質です。中でも、セロトニンやノルアドレナリンといわれるものは、人の感情に関する情報を伝達する物質であることが分かってきています。
ところが、何らかの要因で神経伝達物質の機能が低下し、情報の伝達がうまくいかなくなることによって、うつ病の状態が起きていると考えられています。
そこで、薬物療法では、セロトニンとノルアドレナリンに働きかけるSSRI(選択的セロトニン再取り込阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込阻害薬)が用いられています。
SSRIは、セロトニンの量を調節する器官であるセロトニントランスポーターに働きかけて、セロトニンを調整する薬、SNRIは、セロトニンとノルアドレナリンの両方の調整を行う作用をもつ薬です。
セロトニンは良い作用だけあるわけではない
セロトニンには、セロトニン症候群と呼ばれる副作用がでることがあります。セロトニン症候群とは、抗うつ薬であるSSRI系の薬物を服用中に起きるもので、不安、混乱、イライラ、興奮、動き回るなどの精神症状がみられます。
また、手足が勝手に動く、震える、体が硬くなるなどの体外路症状や、発汗、発熱、下痢、脈が早くなるなどの自律神経症状がみられることがあります。
服薬開始数時間後に洗われるケースが多いのですが、服薬を中止すると24時間以内に症状は消えます。副作用が疑われたら、担当の医師か薬剤師に連絡しましょう。連絡がつかない場合は、お薬手帳や服用している薬を持参して救急医療機関を受診してください。
セロトニンを増やすには
セロトニンとうつ病が深い関連性があることはわかっています。うつ病の薬物治療で用いられるSSRIは、このセロトニンに働きかける薬ですが、このほか日光浴、有酸素運動などで、薬に頼らずセロトニンを増やす方法もあります。
うつ病治療での基本は投薬
うつ病の治療に用いられるSSRIは、日本語では、「選択的セロトニン再取り込阻害薬」と訳されています。あれ、セロトニン増やすのではなく、阻害するというのはどういうこと?と頭を捻られた方もいるのではないでしょうか。
SSRIは正確に言うと、セロトニンを増やす薬ではないのです。神経伝達物質のセロトニンは、セロトニンを出す側と受け取る側(受容体)の2つの空間みも存在していますが、セロトニンのすべてが受け取る側に届くわけではありません。その中のいくらかは受け取る側までいかないで、出す側に再吸収されます。
この再吸収を阻害することで、結果的により多くのセロトニンが受け取る側に届くようにするのがSSRIです。
日ごろの活動での増やし方
セロトニンを増やし、活性化させるためには運動は効果があるとされています。運動には無酸素運動と有酸素運動があります。無酸素運動は、基礎代謝を増やす運動で、筋力トレーニング、短距離走などをさします。
有酸素運動とは、酸素を多く取り入れ、その取り入れた酸素で体内の脂肪を燃焼させ運動で、エアロビクス、エアロバイク、ウォーキング、ゆっくりした水泳などがこれにあたります。
セロトニンを増やすには、有酸素運動が効果的です。セロトニンは、脳の覚醒を促し、これと相対する性質のメラトニンは睡眠を促す作用があります。太陽の光を浴びると、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌がストップして、脳の覚醒を促すセロトニンの分泌が活発化します。
よって、日光浴もお勧めです。健康の基本は、早寝早起きです。早く起きれば、それだけ太陽の光を浴びる時間が長くなり、セロトニンの恩恵をより多く受けることになります。
過信は禁物
ざっと、うつ病におけるセロトニンの効用をのべてきましたが、セロトニンは万能薬ではありません。いざとなったらセロトニンがある、と安心するのは禁物です。
セロトニンを増やすような生活を心がけているからといって、絶対にうつ病やその他精神疾患にならないわけでもないのです。
セロトニンだけでなくストレスの緩和も必要
最初に述べたように、うつ病の治療の3本柱はストレス環境を離れて休養すること、うつ病と診断されたら薬物療法やカウンセリングを受けて、しっかりと治していくことです。もちろん、この間のリラックスした空間での休養も大切です。
セロトニンは、柱の一つである薬物療法における効用に過ぎません。この3つの柱をしっかり守って、うつ病の治療に取り組むというのが、うつ病退治の王道です。