ひきこもりと発達障害の関連性は?復帰する方法は?


発達障害は、病気というより生まれつきの脳機能の障害によるその人の振る舞いや考え方・感じ方の特性です。たとえば、広汎性発達障害では、コミュニケーションが思うように取れなく、社会生活に支障をきたしてしまいます。

臨床的なデータが示すところでは、発達障害は引きこもりと深い関係にあることがわかっています。

発達障害の特徴とは

平成16年に制定された「発達障害者支援法」によると、発達障害は次のように定義されています。

「発達障害とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であって、その症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう」

発達障害のタイプ

上記の定義にあるように、発達障害にはいくつかのタイプがありますが、共通しているのはいずれも脳の機能障害だということです。

以下、主なタイプをあげておきます。

●広汎性発達障害(PDD)
コミュニケーションの能力が欠如し、限定的・反復的および常同的な行動がみられる発達障害のグループです。自閉症、アスペルガー症候群はこのグループに含まれます。

●注意欠如・多動性障害(ADHD)
7歳までにあらわれるもので、発達年齢に見合わない多動・衝動的なふるまい、あるいは不注意などを特徴とする障害です。ADHDは、俗称ジャイアン型(多動-衝動優勢型)とのび太型(不注意優勢型)の二つに分けられます。

前者は、衝動性が強く、あれこれといろんなものに手を出して活動的ですが、あくまで衝動的にやっているので何もやり遂げられないことがしばしばです。後者はうっかりミスが多いタイプです。

●学習障害(LD)
全般的な知的発達には問題がないのに、読む、書く、計算するなど特定の事柄のみが不得手という障害です。たとえば、読み書き等の一部のことが極端に苦手だったり、字がうまく読めなかったりします。

発達障害の特徴

ある特定の能力が低いのが発達障害の特色です。PDD(広汎性発達障害)では、コミュニケーション能力が低く、抽象的な表現の汲み取りが苦手ですが、規則性などへのこだわりが強く、一つのことを追究していくのは得意といわれています。発達障害のもう一つの特徴は、見ただけでは分かりにくいということです。

また、当人自身も自分が発達障害であるということを自覚しないまま大人になるというケースも見られます。こういうことから、発達障害のなせるわざなのに「わがままな人だ」とか「人の話を聞けない変わった人だ」といった誤解を受けがちです。

感覚過敏があることも

発達障害の人の中には、触覚に過敏に反応するケースが見られます。セーターや衣類のタグなどのチクチクした感触といった特定の触感が耐えられないほど苦手である人もいます。

また、他人から触られただけで、過剰に感応する人もいます。このほか、特定の音に過剰に反応したり、多くの人にとって気にならないような音が耐えられないほどといった聴覚過敏なケースも見られます。

あとで触れますが発達障害の人との対応では、こうした知識があると、対応や接し方も違ってきます。

一生付き合っていかなければならない

発達障害は、現在のところ治療によって治せるものではありませんから、当人は一生このハンディキャップと付き合っていかなければなりません。ただし、療育や環境調整によってマイナスの部分をカバーすることができます。

大人になってから発達障害とわかっても、発達障害の人に向いている仕事を選ぶといった環境の調整を行えば、苦手を補い、得意を伸ばして仕事に取り組むことも可能です。

ひきこもりと発達障害の関係

発達障害と引きこもりは深い関係性があるようです。専門家の臨床的データは、発達障害の2次障害として引きこもりになるリスクを示唆しています。

引きこもりとは

引きこもりという言葉の出典は、アメリカ精神医学会編纂の診断基準における「Social Withdrawal(社会的撤退)ですが、厚労省は、引きこもりを以下のように定義しています。

「仕事や学校に行かず、かつ家族以外の人との交流をほとんどせずに、6か月以上続けて自宅にひきこもっている状態。 時々は買い物などで外出することもあるという場合もひきこもり」に含める」。

引きこもりと発達障害の関係

福島学院大学・大学院附属心理臨床相談センターの心療内科、星野仁彦先生によると、ひきこもり状態にある患者150名の小児期からの病理を探ると、その80%以上は ADHD、LD、境界知能、高機能自閉症などの発達障害が背景に存在するということです。

また、山梨県立精神保健福祉センターの調査によると、精神保健福祉センターにひきこもり相談で訪れた152名中42名(27%)が発達障害と診断されたと報告されています。発達障害というハンディキャップによるストレスが、引きこもりを誘発していると考えられています。

引きこもりと精神障害との関係

引きこもりは、他の精神障害がその第一の原因として考えにくいものとも定義されていますが、引きこもりの外来を長く診てきた専門家によると、彼らの中には、対人恐怖症(社会不安障害)、強迫性障害(強迫観念・強迫行為)、うつ状態などの精神疾患を併発していることが報告されています。

2007年から2009年までに厚生労働省研究班が行った調査によれば、16~37歳の引きこもり相談者184名のうち、149名(80.9%)に何らかの精神疾患が認められました。

そのうち48名(32.2%)が発達障害と診断されました。発達障害は、二次障害として精神疾患を誘発するリスクがあるわけです。

「普通」が一般の人とは異なる

発達障害の人は、一般の人が普通に行えることができません。また、常識的な感じ方、考え方も異なっています。「適当にやって」といわれても、その「適当」がよくわからないのです。

また、ADHDののび太型の場合、さほど難しくもない作業で、不注意によるミスを連発しがちです。このため、日常生活はもとより社会生活に支障をきたしてしまいます。

職場、学校に適応できない

知的能力には問題がないのに、能力のバランスが崩れているためにある特定のことがらができない、あるいはミスをします。こういう障害を抱えていると学校や職場といった社会的な場では、さまざまなストレスを受けることになります。

その結果、子どもの場合は、いじめを受けたり、先生から叱られたりして、不登校になっていきます。職場では、仕事に適応できず、仕事が長続きせず、ストレスばかりが膨れ上がって、ついには引きこもりになっていきます。

感覚雅敏による負担が大きい

すでに述べているように、発達障害の人の中には、感覚過敏の人がいます。触覚、視覚、聴覚が過敏なため、普通の人には気にならない光や音が耐え難いものとなります。

普通の人にとってはただの晴れの日や単なる明るめのライトであっても、感覚過敏の人にはまぶしくて仕方がない状況ということもありえます。このため、外に出ていくことが恐ろしくなり、これが引きこもりの原因になるケースもあります。

発達障害による引きこもりからの復帰方法は?

正しくその人の状況を理解する

何度注意されても机の上が片付けられない、忘れ物やミスが多い、約束や時間を守れない、場の空気が読めない・・・。こういう人は、職場では上司から叱責され、同僚からも孤立し、辞職を余儀なくされ、あげくの果てに引きこもりになってしまいがちです。

しかし、そうした様々な欠陥が発達障害という生まれつきの障害のせいだということが、本人はもとより周囲の人も知っていたらどうでしょうか。信頼できる上司や同僚の1人にでも、自分が発達障害であることをカミングアウトしておけば、理解と協力を得ることができるでしょう。

そうなれば、その人の苦手な部分の業務をはずし、特異な部門の業務をあてがうという対応でサポートされ、その人の得意な能力を引き出すことも可能です。

受容と認知

先に紹介した福島学院大の星野仁彦先生は、発達障害の人に対する対応のポイントは、まず「受け入れること(受容)」と「認めること(認知)」 だとアドバイスされています。

また、発達障害の人は、もともと健常者に比べてストレスに対する抵抗力が弱いので、健常者以上に温かく理解のある接し方と対応が必要とも指摘されています。

当人の心得としては、1人になって冷静に考えることができるクールダウンタイムとスペースを確保しておくを上げられています。

仕事の向き不向きがある

発達障害の人は能力に大きなデコボコがあるのが特色です。ということは、仕事に向き不向きがあるということです。

さまざまタイプがありますから、一概に言えませんが、一般論でいうと、広汎性発達障害の人の中には、こだわりを持ち、パターン化されたものを好む傾向が強いとされています。

この特性に適応する職種といえば、同じ作業を繰り返すルーティンワークがあります。実際に仕事のやり方を覚えてしまえば、てきぱきと仕事ができる人も多く、ルーティンワークでは職場での評価も高いことが多いです。

専門の機関に相談してみる

厚生労働省では、平成21年度からは、「ひきこもり対策推進事業」を創設し、ひきこもり地域支援センター設置運営事業を展開しています。センターには、社会福祉士、精神保健福祉士、臨床心理士などの専門家が配置され、相談に応じています。

精神疾患があれば治療が必要

発達障害の二次障害として、社会不安障害、強迫性障害、うつ病・うつ状態などの精神疾患が誘発されることがあります。発達障害は治すことができませんが、これらの二次疾患として精神疾患には、治すための治療法が用意されています。

精神疾患を誘発している場合は、専門の医療機関で治療に取り組むようにしてください。

発達障害と向き合うことと適材適所

自分の振る舞いや考え方普通と違うと自覚したら、理療機関や専門の支援機関に相談すること、そこで発達障害と診断されたら、周囲の人にカミングアウトして理解と協力を求めることが重要です。

発達障害の人は、自分の特性にあった仕事に就くと、普通の人以上の評価を得ることも可能です。発達障害の人は、適材適所にいれば、社会貢献もできる、ということを忘れないでください。