イライラして眠れないという経験は100人中90人以上の人が経験していることではないでしょうか。また、それがストレスから発しているということも、多くの人が体験的に知っています。
しかし、ストレスを軽く見ることは避けるべきです。なにしろ、ストレスは万病の元と言われるくらいですから。そこで、今回のテーマは、ストレスを和らげ、良い睡眠を得るためのノウハウを紹介します。
イライラは不眠につながる
多くの場合、イライラの元はストレスです。厚生労働省が5年に1回行っている「労働者健康状況調査」によれば、「仕事や職業生活でストレスを感じている」労働者の割合は、2012年で60.9%です。
中でも働き盛りの30代では65.2%、40代で64.6%となっています。まるで、ストレスを感じない現役の労働者は、現代人ではないかのようなデータです。
注意しなければならないことは、このストレスが不眠を誘発し、不眠がうつ病などの精神疾患につながる危険をはらんでいるということです。
イライラとストレス
まず、イライラとストレスの関係を押さえておきましょう。ストレスは、外側からかけられる圧力で歪みが生じている状態です。これはよく風船に例えられます。風船を指でおさえると風船に歪みが生じます。指の圧力をストレッサー、風船が歪んだ状態をストレス反応と表せます。
ところで、ストレッサーは、厚さや、寒さ、騒音、混雑などになどの「物理的ストレッサー」、公害物質、薬物、一酸化炭素などの「科学的ストレッサー」、そして人間関係の軋轢や家庭問題などの「心理・社会的ストレッサー」があります。
今回のテーマに関わるストレスは、正確にはこの「心理・社会的ストレッサー」に適応しようとして心と体に生じるイライラ・不眠といったストレス反応です。
要注意は長期不眠
不眠は、不眠期間を基準に3つに分けられます。
一つは、一過性不眠です。明日の試験が心配で眠れない、とか出張先のホテルや旅館で枕が合わなくて眠れなかった、というのは一過性不眠です。
不眠状態が1週間続く場合が短期不眠で、1ヶ月以上続くのが長期不眠です。一過性不眠や短期不眠はストレスの原因がわかりやすく、その原因が解決すれば自然と不眠症も解消されますが、長期不眠となると、うつ病などの精神疾患が原因で起こる不眠症の場合もあるため、病院での診断をお勧めします。
精神疾患を発症することも
長期不眠で考えなければならないことは、二つあります。一つは、1ヶ月以上に渡るストレスに起因する長期不眠は、うつ病を誘発する危険をはらんでいるということです。
というのは、うつ病は、心身のストレスが重なることで、脳に機能障害が起きていると考えられているからです。一つは、ストレスによる不眠が、実はうつ病のあらわれではないかということです。
実際、うつ病患者の9割が睡眠トラブルを抱えています。また、うつ病の診断基準の項目には、「睡眠障害」が挙げられています。
不眠とうつ病は、表裏一体というような関係です。ですから、長期不眠の場合は、早めに精神科などの専門医療機関で正確な診断をしてもらうことが重要なのです。
リラックスして眠れる環境づくりと日ごろのストレス対処が有効
不眠という誰でも経験する症状も長期にわたると注意しなければならない、ということがお分かりだと思います。その不眠がストレスに起因するとなれば、不眠対策もおのずと明らかになってきます。
まず、ストレス対処法を身に付けることです。同時に不眠がストレスとなって、ますます眠れなくなるということもありますから、眠れる環境作りをすることです。まず、不眠対策から見て行きましょう。
よりよい睡眠をとるためにできること
手っ取り早いのは睡眠薬を服用することですが、ここでは薬に頼らず日常生活の中での対策を中心にみていきます。
生活リズムを整える
朝、ベッドから起きだし、顔を洗い、歯を磨いて朝食をとって仕事にでかける。昼食のあとは一休みして、仕事に戻り、仕事が終わると、家に帰り、夜の食事をとって、風呂に入り、床に就く・・・。
これが、健康な生活を維持するための理想的な生活のリズムです。しかし、仕事には残業ということもあります。また、仕事のあとのお付き合いも、人間関係の潤滑油として欠かせません。そうして、軽くお付き合いするつもりが、ついつい話が盛り上がって、夜更かししてしまう・・・。
現実生活では、なかなか理想通りにことは運びません。だからこそ、というべきでしょうか、人間の体内時計に沿った規則正しい生活に立ち戻るように心がけることが、不眠に限らず健康であるための基本原則です。
睡眠環境を整える
仕事をしていると、どうしても生活のリズムが乱れてきます。とくに会社の繁忙期などでは、残業が重なり、心身の疲労とストレスも強くなってきます。
そんなときは、睡眠がなによりの薬です。寝る環境が整えることは、よい睡眠をとるための一つの知恵です。寝るときはできるだけ音や光をシャットアウトし、窓を2重にしたり厚めのカーテンを使用するのもいいでしょう。
部屋の温度や湿度も睡眠と関係があります。夏は26~28度、冬は16~19度、湿度は50~60%が睡眠の理想的な環境といわれています。
イライラしているからといって深酒はダメ
寝る前に軽くいっぱいやることを寝酒といいます。アルコールは少量なら良い眠り薬になります。
しかし、軽く一杯がいつのまにか2杯、3杯になるとこれは問題です。お酒を飲むと、約3時間後にアセトアルデヒドという毒素に分解されますが、このとき自律神経の中でアクセルの役割を担う交感神経が刺激され、体温や脈拍が上昇し、夜中に目が覚めてしまいます。
寝る前にコーヒーを飲まない、ということはご存知のはずです。カフェインの覚醒作用で、寝つきが悪くなります。カフェインの覚醒作用は、若い人で3~4時間とされています。コーヒーを飲むなら寝る4時間前に飲むようにしましょう。
寝る前の一服はダメ
同じような覚醒作用をもつものにタバコがあります。タバコに含まれるニコチンはカフェインよりも強い興奮剤です。
ニコチンは、「興奮作用」と「鎮静作用」の2つを合わせ持っています。良い睡眠にとって、興奮作用の影響が大きく、寝る前の一服は、お勧めできません。ちなみに、喫煙者が目覚めときの疲労感は、非喫煙者に比べると4倍という報告もあります。
リラックスして眠れる環境を
仕事が忙しいから十分に睡眠をとって、体をやすめなくては・・・。このような過度の思い込みがストレスとなって、長期不眠になるというケースがあります。
専門的には、「精神生理症不眠」と呼ばれていますが、不眠症の中では最も多いタイプです。こうしたケースでは、気持ちをリラックスさせることが不眠対策になります。
たとえば、寝る前の入浴や深呼吸、ストレッチ、アロマテラピー、音楽を流すなどの工夫があります。先に述べた睡眠環境を整えることと並行して試してみてください。
日ごろのストレス対処も重要
良い睡眠を得るための具体的な方法をみてきましたが、最後に不眠の元であるストレスへの対処法を考えてみましょう。ストレスを溜め込まないための日ごろの心がけについてのアドバイスです。
物事をネガティブにとらえすぎない考え方をする
理論的には、ストレスを解消できれば、不眠はなおります。ところが、これは、言うは易く、行うは難し、です。
そこで、認知行動療法的思考を身に付けることをお勧めします。認知行動療法では、人それぞれのスキーマーを改善することをおこないます。スキーマーというのは、それぞれの人の頭の中に埋め込まれているものの見方、考え方の枠組みといってもいいでしょう。あるいは、人間の心の深層にあるスキーマー(信念)です。
人間は、刺激を受けると、スキーマーを通して、無意識のうちに(自動的に)認知します。たとえば、Aさんが、遅刻した人に対して、「この人は不真面目だ」と思ったとします。それは、Aさんの中に、「社会人は常に規則正しい生活をしなければならない」というスキーマーがあるからです。このスキーマーは、寝癖を直さずあたふたと会社に駆け込んだ人を見ると、同じように「不真面目だ」という怒りの反応をするはずです。
眠れなくてイライラする人は、「体を休めるためには少なくとも7時間以上眠らなければならない」というスキーマーに呪縛されていると考えることができます。このスキーマーを「眠くなった時に寝るのがいちばん」というスキーマーにかえたらどうでしょう。きっと肩の荷が降りたようにリラックスできるのではないでしょうか。一時が万事です。考え方やものの見方を変えることによって、ストレスが軽減することは珍しくありません。
ストレス発散の方法を確保する
イライラしているときは、カラオケに行って好きな歌をシャウトすると、気分がせいせいするという人がいます。プラモデルに熱中して嫌なことを忘れるという人ともいます。
寝る前に、睡眠儀式として簡単なヨガをやるという人もいます。また、休みの日には、近場の山にトレッキングして、汗を流すと、その夜はぐっすり眠れるという人もいます。
ストレス発散の方法は、人それぞれです。大切なことは、自分流のストレス発散の手段を身に付けるということです。
医療機関にかかることも考慮する
ストレスケアは自分でもある程度できます。しかし、それには限界があります。自分流のストレスケアでは改善されないようでしたら、専門の医療機関に相談することを考えるべきでしょう。
不眠症の専門のクリニックや不眠を対象とした専門の科をもつ病院があります。インターネットで検索した上で、どこが自分に最適か判断してください。うつ病が疑われるようであれば、精神科のクリニックや病院になります。
ストレスが大きいなら思い切って環境を変えることも
専門の医療機関に相談すると、不眠症が深刻な精神疾患を誘発する可能性を指摘され、場合によっては、ストレス環境から離れることを示唆されるかもしれません。それがストレスの抜本改善につながり、最悪のケースであるうつ病の予防につながるのであれば、離職や休職という事態も受け入れざるをえません。
これは最悪のケースですが、万病の元であるストレスは、このような大事にいたることもありうえうということを銘記してほしいものです。
うつ病等につながるとより深刻に
現代社会は、大きなストレスにさらされています。5人に1人が不眠症というデータもあります。不眠症は、現代社会が抱える宿病のようなものです。
ストレスを和らげ、よい睡眠を確保することは、このようなリスキーな社会を生き抜く最優先の自衛策といっても過言ではないでしょう。