性格や考え方は人それぞれですが、私たちは日々それぞれ大勢の人々と関わりを持ちながら生活しています。学校や職場での人間関係、または家族や友人との関係など「対人交流」に対するストレスが原因で、精神状態が不安定となっている方々が増えています。メンタルの不調から学校や仕事を休む、自宅に引きこもりがちになる、といった生活への影響が起きることもあります。
目次
社会生活技能訓練(SST)を知ろう
「対人交流」の場は幼少期の家庭から始まり、保育園、幼稚園、学校、職場、趣味活動…など多様に広まっていきます。ある1つのコミュニティー(部活動や職場など)でいきなり初めて関わる人とコミュニケーションを取る機会があるかもしれません。そこで出会う人たちと必ずしも上手くコミュニケーションを取ることができるとは限りません。
例えば、家に教科書を持ち帰って勉強する予定の日…クラスの友人に「明日まで教科書を貸してほしい」と頼まれたとき、あなたはどのように断りますか?相手によっては断りにくい場合もあるのではないのでしょうか。また、断り方によっては相手を不快な思いにさせてしまうかもしれない…。そんな場面に遭遇した時、あなたはどうしますか?
SSTが生まれた背景
SST(ソーシャルスキルトレーニング)はSocial Skills Trainingの略で、社会生活技能訓練、生活技能訓練などと呼ばれています。では、「社会生活技能」とは何を指す言葉なのでしょうか。これは、“社会的に認められている”人とのかかわりでの行動を指し、服装や振る舞いの習慣、言うべきことと言うべきでないことの区別、感情表現の仕方、社会的強化(相手に同意したり良い点をほめたりすること)、相手との距離の取り方など、人づきあいにふさわしい行動の基準などが含まれます。
ここでは「社会生活技能訓練」を「SST」と呼び方を統一し、お話ししていくこととします。
SSTは認知行動療法の1つに位置付けられ、服薬自己管理や症状自己管理などにも活かされますが、SSTが課題として扱うのは社会生活技能が中心であり、日常生活の技術そのものではありません。
対象者はどんな人?~〇〇が苦手~
私たちは集団生活をする、他の人の行動を観察するといった経験をすることで自然とこれらのスキルを身につけていきます。
しかし、認知発達に遅れが見られる、人への興味関心が薄い(他者との関わりが少ない)、相手の気持ちを想像する事が苦手、獲得したスキルを他の場面に応用することが難しい、といったことが苦手な方は集団に適応するのが難しい場合があります。対人交流において「折り合い」をつけていく技術を養うために必要となるのがSSTになります。精神疾患や発達障害の有無にかかわらず、広く取り入れられています。
SSTの実際
SSTの内容
SSTを行う施設で体制は異なりますが、心理士やソーシャルワーカー、作業療法士などの職員がリーダー・サブリーダーを各1名で担当し、参加メンバー5~10名程度で、週1回、1~1.5時間ほどのグループトレーニングとして行われることが多いです。
トレーニングの流れは以下のパターンが主となります。
- 初めの挨拶
- 新しい参加者の紹介
- SSTの目的とルールを確認する
- 宿題の報告を聞く
- 練習するテーマ、内容が提示される
- ロールプレイで実践練習
- ① 場面を設定する(誰を相手に、いつ、どこで、何をして、相手はどう反応するのか、その結果どうなったのか・どのような気持ちになったのか)
- ② まずは自身が今までしていたやり方でやってみる
- ③ 全員でそのやり方の良い点をフィードバックする
- ④ さらに良くする点、工夫すると良い点をフィードバックする
- ⑤ 職員がお手本を示す
- ⑥もう一度やってみる
- ⑦改善された点をフィードバックする
- 次回までの宿題が出される
- まとめ
- 終わりの挨拶(次回の予定を確認)
利用する目的・メリット
挨拶をする、相手の気持ちを考えて行動する、マナーを守る、相手や場面に応じた話し方をする、といった社会の集団生活の中で必要とされるスキルをトレーニングするのがSSTになります。
SSTでは、時間をかけてトレーニングをしていくので、ゆっくりと着実にスキルを身につけていくことができます。
また、一度に複数の課題に取り組むのが苦手な対象者さんもいらっしゃいますが、獲得したいスキルの優先順位をつけることで、同じ場面での失敗において「また注意された」「わかっているんだけどできない」というストレスの蓄積・スキル定着の遅れを避け、「あれもこれも気をつけなければならない」という焦りが生まれることを避けることができます。
毎回注意し、怒らなくてはならないご家族にとっての悩みも解消していくことも目的の1つになります。担当職員は対象者さんにとって1番必要なのはなにか、身につけたいスキルを絞って指導していきます。
SSTに参加するにあたり、具体的な目標をつくり、達成度を確認、達成感を味わうこともできる機会がつくられるため、進学や就労など今後のステップアップに繋がりやすくなるというのもメリットになります。
SSTができる場所
医療機関や福祉施設、就労支援の場、学校、職場などさまざまな場所で実施されています。
具体的な例としては、精神科のデイケア、就労・生活支援センター、就労移行支援事業所、就労継続支援A型・B型事業所、自立訓練事業所、地域活動支援センター、発達支援事業所などが挙げられます。
対人交流において、相手にストレスや不安を感じない・感じさせない人付き合いとは具体的にどのようにすれば良いのでしょうか。
具体的かつ実践的なSSTを利用することで、目標や生きがいを持ち、より良い生活を営むことができるきっかけが生まれるかもしれません。