意識はしっかりしているものの、外部からの刺激に反応できない状態を「昏迷(こんめい)」といいます。昏迷は意識障害ですが、統合失調症やうつ病などの様々な精神疾患にもあらわれます。
目次
昏迷とは
昏迷は意識障害のレベルを表す
意識というのは、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚など私たちの五感に入ってきた外界からの刺激を脳で認識し、明確な反応を行う状態のことです。この脳の働きが鈍って、これらの刺激をうまく認識できなくなり,外界の刺激に対する反応や自発的活動が低下した状態が意識障害です。意識障害は、障害の程度に応じて、おおざっぱに下記のように分類されています。
●昏迷:外からの刺激に対してまったく反応できなくなる状態。
●半昏睡:かなりの刺激を与えても手足を動かすくらいしか反応しない状態。
●昏睡:どんなに刺激を与えても反応がない状態。
●せん妄:意識混濁し、不安,精神的な興奮,幻覚などが強くあらわれ、言動が混乱した状態(不穏状態)。
昏迷状態とは
昏迷状態のときは、ベッドに横たわっている患者さんは、話しかけても全く反応しません。しかし、周囲で何が起きているかは理解していると考えられています。
というのも、回復した後、その記憶が残っていることが多いからです。また、指で瞼を開こうとすると目をぎゅっとつぶったり、四肢を動かそうとすると抵抗したり、逆に協力的に動かしたりします。このため、意識障害との鑑別が非常に困難な事もあります。
昏迷状態は、統合失調症(特に緊張型)やうつ病、心因反応の患者さんに見られることがあります。
原因は?
この原因は二つ考えられています。一つは、大脳や脳幹を直接障害する頭蓋内の病変によるもの。具体的には、脳血管障害,脳腫瘍,頭部外傷,脳髄膜炎,神経変性疾患,てんかんなどです。
もう一つは全身性の疾患により脳の機能が障害される場合です。循環器や呼吸器疾患による低酸素脳症,糖尿病による高血糖や低血糖、薬物中毒などがあげられます。
精神疾患と昏迷
統合失調症の中の緊張型やうつ病、双極性障害にも症状があらわれます。
統合失調症の陽性症状
統合失調症の症状群は、大きく陰性症状と陽性症状に分類されます。陰性症状因というのは、通常働いている機能が失われている状態で、意欲の低下、感情や思考の低下の症状を指します。精神面の機能がマイナス状態になっているわけです。
一方、陽性症状は、通常はない症状がプラスされている状態です。叫び声をあげながら、壁にぶつかったり、戸を叩いたり、食事もとらず、風呂にもはいらないような拒絶症がこれに該当します。昏迷は、統合失調症の陽性症状として現れてきます。
緊張型統合失調症に現れる
統合失調症はまた、病気の型として、「妄想型」、「破瓜型」、「緊張型」に分類されます。昏迷は、緊張型の陽性症状としてあらわれてきます。
具体的には、急に体を硬くして動かなくなったり、声をかけても返事をしない無言になったりします。意識は正常なのに、全く反応を示さなくなるのです。参考までに、統合失調症の代表的な型をあげておきます。
主として陽性症状としての幻覚や妄想を伴うことが多い病気。18歳くらいで発症するケース一品一様がおおいのですが、中には30歳代の発症もみられます。患者さんの中には、妄想以外に問題がなさそうな人もみられます。
●破瓜型統合失調症
破瓜とは初潮をみる15~16歳の思春期のことを指します。破瓜型統合失調の場合は、もう少し年齢の幅が広がり、15歳から25歳前後に発症します。
破瓜型は、陰性症状を主体とした病気です。性格が急に変わったり、服装がだらしなくなったり、風呂にも入りたがらなくなるなど、生活行動に乱れがでてきます。静かで、表情に乏しく、喜怒哀楽の表情が失われてきます。
●緊張型統合失調症
破瓜型と同じように20歳前後で急激に発症します。妄想や幻覚の症状や不眠などのあとに緊張病症状が現れます。緊張病症状というのは、興奮した状態と昏迷した状態を指します。
叫び声をあげながら戸を叩いたりするのは興奮状態です。昏迷状態では、急に体を硬くして動かなくなったり、声をかけても返事としない無言になります。興奮と昏迷は、入れ替わり現れることもあります。
うつ病と躁うつ病
うつ病では、感情や意欲、思考力、行動力などが低下します。全般的にエネルギーが低下し、陰性症状が特徴的にあらわれます。心が思うように動かずにブレーキをかけられているような状態を「精神運動の制止」と言いますが、これがさらに極端になった状態が「うつ性昏迷」です。自発的な運動がまったくなくなり、話しかけられても、体を揺すられても、反応しなくなってしまいます。
気分が落ち込んでふさぎ込む「うつ」に対して、これとは反対に気分が異様に高揚するのを「躁」といいます。このうつと躁の病相が繰り返しあらわれるのが躁うつ病(双極性障害)です。
躁うつ病でも昏迷があらわれます。重症になるとゼンマイが切れた人形のように、手足が不自然の状態で静止したままの姿勢になります。椅子に腰を掛けると、うつむいたままで動かなくなり、手を持ち上げてやると、宙に浮いたままの位置で手が止まって動かなくなったりします。
こんな奇妙な状態は、緊張型統合失調症の症状に似ていますが、躁うつ病にもみらえれるものです。
てんかんと解離性昏迷
てんかんの患者さんの中には、てんかんの発作に似ているが、てんかん本来の身体的原因がない発作を起こすケースがあります。一種の偽発作で、医学的には解離性障害と呼びます。
この解離性障害は、てんかんの患者さんにかなり多く見られる症状です。解離性障害では、解離性健忘、解離性遁走、解離性昏迷などの症状があらわれますが、てんかんの患者さんに多くあらわれるのが、解離性昏迷です。
意識をうしなったような状態で、名前を読んでも返事せずボーとしています。何か聞いてもトンチンカンな返事しかできません。てんかん本来の意識障害は、長くても持続時間が短いのですが、解離性昏迷の場合は、持続時間がかなり長く10数分以上つづくことがあると報告されています。
昏迷の治療方法
それぞれの持病により、治療方法は異なります。それぞれの「持病」をなおすことが、昏迷治療の基本です。
精神疾患の治療に取り組む
統合失調症、うつ病、双極性障害などの治療は、抗うつ薬などによる薬物療法と認知行動療法などの精神療法、社会復帰に向けたリハビリなどを中心に治療が行われます。
このほかに、緊張型統合失調症では、電気けいれん療法、うつ病性昏迷では、修正型電気けいれん療法がおこなわれることがあります。
謎の昏迷が起こったらすぐに医者にかかる
精神疾患とは無縁な友人が突然昏迷状態になったら、急いで救急車の手配をしましょう。意識レベルが低くなるということは、どんな原因であるにしろ緊急の処置が必要です。
本人は意識がないのですから、病院で状況の説明をしなければなりません。できるならば、救急車に同乗し、付き添ってあげてください。その際、薬を服用していたら、薬の容器やシートなども忘れずに持っていくと、原因の特定に役立ち、適切な治療をうけることができます。
ストレスを減らすことがいくらかの予防になる
直接的な要因ではないにしろ、精神疾患の多くは、ストレスが引き金になって発症します。日ごろからストレスを減らすことを心がけましょう。それが、精神疾患の予防につながり、ひいてはその症状のひとつである昏迷の予防にもなります。
的確に対処するために
精神疾患で入院したことのある家族や友人たちは、昏迷状態になった本人を目撃していることもあり、その対応策を心得ています。ところが、初めて昏迷状態になった人を見ると、驚いて取り乱したりすることが珍しくありません。その結果、病院での処置にすれ違いが起きることもあり得ます。
そうした不幸な事態を避けることを念頭において、昏迷についての説明をしてきました。日常生活でおきる予期せぬ病変に的確に対処するための基礎知識として身に着けていただければと思います。