うつ病とは、脳に機能障害が起こっている状態です。憂うつな気分になるという症状が目立ちますが、このほかにも精神的な症状があり、同時に身体にも様々な症状があらわれてきます。
日本では5%前後の人がかかるといわれるようになった身近な病気ですが、しばしば他の精神的疾患を併発しますから、軽く見てはいけません。
うつ病は、人間関係などのトラブルがもとでストレスがかさなり発症するというパターンが多くみられます。几帳面で完璧主義で、責任感が強いといったストレスをためやすい性格の人が、うつ病にかかりやすいとされています。
このほか、うつ病の原因としては、遺伝的要因、病気や薬の副作用など身体的な要因などがあげられています。ところで、最近、一般的なうつ病のイメージや症状とは異なった症状があらわれる「新型うつ」(正式には非定型うつ病)が話題になっています。
うつ病の場合、全般的に憂うつな気分に包まれていますが、新型うつでは、憂うつな気分が続く一方で、自分が好きなこと、楽しいことには気分が晴れて楽しめるという症状もあらわれます。このような特徴から新型うつ病は、周りの人たちからは、単なる甘えやサボりにすぎないと誤解されやすくなっています。
また、新型うつだけではなく、うつ病にかかった人に対して、うつ病は甘えだ、気合で治せる、といった偏見的な感想を抱いている人が少なくありません。しかし、こうした偏見や誤解がうつ病患者の病状を悪化させているというのも事実です。
そこで、今回はうつ病の人への正しい接し方や気をつけるべきポイントなどをまとめてみました。
ダメな対応
「しっかりしなきゃダメじゃないの。あなたはそれができるんだから」
これは励ましの言葉ですが、うつ病の患者さんに対しては、禁句といってもいいくらいの重いプレッシャー満載の言葉です。このような、否定を含む励ましの言葉は、休息が求められるうつ病患者さんには、治療の邪魔になる善意だということを、まず押さえておきましょう。
「がんばれ」「早く良くなって」という励ましの言葉
うつ病の人には、励ましの言葉に含まれる善意は、素直に通じません。むしろ、責任感が強くて、完璧主義の性格が多いうつ病患者さんには、頑張る義務を課せられたような大きなプレッシャーとなります。
まだ回復してきていない、休養が何より大事な初期段階では禁句です。ただし、外出ができたり、意欲が出てきたという回復期の人にはむしろ後押しとなるので有効です。
気晴らしにどこかに行こう、○○してみたらなどと強く勧める
うつ病の症状の一つに、意欲の減衰というのがあります。常に憂うつであるばかりではなく、何に対しても楽しさを感じなくなるのがうつ病です。
こうした状態にある患者さんに対して、この言葉はプレッシャーとなり、うつ病の治療に不可欠な休養を邪魔してしまうマイナス効果となるのです。
うつ病、あるいはその人の苦しみを軽視した発言をする
「うつ病なんて大したことはない」
「もっとつらい人がたくさんいる」
「気の持ちようだ」
言葉に出さなくても、心の中でこんな言葉を呟いてはいませんか。これらの言葉は、患者さんだけが知る当事者の苦しみと悩みと無縁の冷たい言いぐさです。
悪意はなくとも、こうした言葉を聞けば、患者さんは、「私の苦しみが分かってくれない」という思いが膨らみ、どんどん気分が落ち込んでいきます。
責める言葉
「うつ病になったのはあなたの人の弱さのせいだ」
「怠けてばかりだじゃないか」
うつ病の人の多くは、本来は責任感が強く、頑張り屋です。ところが、うつ病という病気のために気力や意欲が失われている状態です。この言葉は、そうした病状を無視した言葉で、うつ病患者さんを追いつめてしまいます。
うつ病の人の言葉を聞かない、聞き流す、しゃべらせないようにする
うつ病の苦しみを訴えているのに、甘えだ、怠けだ、という風に決めつけて、話しを聞こうとしない人も見受けられます。話を聞いてもらえるだけで、患者さんの心にプラスの働きが芽生えます。反論などはせずに、優しく聞いいてあげるというのが基本です。
むやみやたらと気を使った対応をする、過剰に気を遣う
話を聞かないのとは逆に、心配するあまりあれこれと気を使った話し方をする人もいます。それを聞いたうつ病の人は、気配りに感謝するよりも、「どうしてこんなに気を使うのだろうか」、「ひょっとしたら病気がおもいのだろうか」と不安になってきます。過剰な気配りは、マイナス効果です。
原因追及
「ねえ、何が原因?人間関係がうまくいかなかったの?」
こんな調子で、あれこれと原因の詮索をするのはやめましょう。実際、心配のあまり、まるで尋問するかのような調子で、病気の原因を聞きだそうとする人もいます。
原因が気になることはわかりますが、これでは触れて欲しくない原因を無理やり聞かれるようでうつ病の人を追いつめることになります。
日々のマイナス面での変化を指摘
「あっ、前よりも顔色が悪そう。何かあったの?」
本人の調子が悪そうなときにわざわざそれを指摘して聞くのは、うつ病の人の不安感を募らせるだけのマイナス効果しかありません。
病状の変化が気になるようでしたら、担当医に相談すべきです。
重大な決定を迫る
うつ病の症状の一つに、思考力、判断力、記憶力が落ちるということがあります。その鈍った思考力もマイナス思考になりがちです。
ですから、回復期以前のうつ病の人に対して重大な決定を迫るようなことは避けるようにしましょう。正しい決定ができる状態ではないからです。
決めつけて話す
「あのことが原因なんだよね」
「家族のことも考えるべきではないか」
うつ病の人を責める気はないのに、どこか決めつけるような話しかけをする人がいます。こういう決めつけ言葉は、うつ病の患者さんにとって大きな負担になることも忘れないようにしましょう。
愚痴、経済面での不安などを話す
うつ病の人に愚痴をこぼすのは、ルール違反といってもいいでしょう。中でも、お金の話をするのは絶対に避けるべきです。
言われなくても本人が気にしていることですから、あからさまに言われると心理的負担が膨らみます。お金の話をするのは、うつ病が回復してからのことです。
するべき対応
やるべきことの第1は、見守る、という姿勢をとることです。特別扱いすることなく、静かに耳を傾け、言葉を受け入れ、思いやりもって見守り、理解してあげることです。
そして、なにより休養と治療ができるような環境を作ってあげることです。
うつ病のことを理解する
憂うつな気分にとらわれ、無気力な状態になっているうつ病の人たちは、自分の意志に反してそんな状態に陥っています。意志の問題などではなく、意志の喪失自体が病の症状であるということ理解することが重要です。無理解や間違った認識のもとでは、うまく接することはできません。
相手の話をよく聞き、受け入れて理解、共感する
うつ病の人に寄り添った態度をとることがうつ病の人の安心感につながります。反論することなく、話をよく聞き、相手の立場に立って想像し、その訴えに共感することが回復へのサポートにもなります。
今までとあまり変わらない接し方をする
気を使い過ぎない対応をすることは、結構難しいことですが、普段どおりの話し方で接してほしいものです。そのことによって、うつ病の人は余計な気を使わず、気負いもなく、リラックスした状態に導かれるからです。
相手の状態に合わせた励ましをする
休息が必要な時期に、「がんばって!」といった励ましの言葉は逆効果になるといいましたが、回復してきて、リハビリを始めた時期には、軽く励ましの言葉を投げても問題はありません。
また、本人の意思にまかせるようなことも少しずつ増やしていってもいいでしょう。ただし、完璧を求めるような強い励ましは避けるようにしましょう。
しっかりと休養させる
たびたび言ってきましたように、うつ病の人が最優先すべきことは、休息です。ですから、ゆっくりと休息できるような状況を作ってあげることがなによりのサポートということになります。
薬を飲んでいるかさりげなくチェックする
うつ病の治療は、入院や仕事の負担を減らすなどの休養のほか、脳内の神経細胞の情報伝達を改善する薬物療法と自分の思考パターンを見直す精神療法・カウンセリングの3本の柱で行われます。
ところが薬物療法に基づいて渡された薬を自分の勝手な判断で飲まなくなる患者さんがいます。ですから、折をみて、さりげなく服薬の状況をチェックするようにしてください。
愚痴は本人ではなく専門機関に言う
本人に面と向かって愚痴をいってはいけないと先にのべましたが、愚痴ったり、不満な点を指摘しないことには、改善されないという思いを抱くケースもあると思います。
そういうときは、本人ではなく医療機関や自治体の相談窓口でいうようにしてください。
自殺したいという言葉は否定、説得する
死にたくなり、自殺を考えるようになるのも、うつ病特有の症状です。いうまでもなく、自殺はくいとどめなければなりません。
死んではいけない、とはいうべきです。ただし、一般の人がいうと、とかく説得調になり、どこか押しつけがましい口調になりがちです。とにかく対応が難しいので、専門の医療機関に行くことをお勧めします。
非定型うつ病の場合
憂うつな気分が続く一方で、自分が好きなこと、楽しいことには気分が晴れて楽しめる、というのが新型うつ病の特徴的な症状です。
ですから、一般のうつ病と違って、軽い励ましは、ある程度の効果をもたらすことがあります。また、何よりも休息を重視するのではなく、いくらか自分でやらせる方がよいケースもあります。
大きな心で見守る
うつ病の患者さんは、本人が一番苦しんでいます。早くよくなりたいともがいているのも本人です。
そして、その焦りやもがきが、ますます病状を悪化させるということは、すでにみてきた通りです。ですから、心理的にも肉体的にも休養させること、休養できる環境を作ってあげることが最優先の接し方ということになります。
休養こそ回復への早道である、ということを肝に銘じて、大きな心で見守ってあげましょう。