何もやる気がしない、憂鬱で動けない、これってうつ病のサイン?


「気分が憂うつで何をする気も起らない。これって、うつ病のサインだろうか。」ちょっと待ってください。<憂うつ=うつ病>だと世の中は、うつ病だらけの人になってしまいます。

「やる気がでない、憂うつ=うつ病」ではない

うつ病に憂うつな気分はつきものです。しかし、逆は必ずしも真ならずです。まず、<憂うつ≠うつ病>の話から始めましょう。

憂うつな気分は、様々な精神疾患であらわれる

憂うつで、やる気がでてこない気分の中にいると、ひょっとしたら「うつ病かも」と思いがちです。確かに、これはうつ病の重要なサインの一つでが、ほかの精神疾患でもみられるものです。うつ病と決めつけるのは早計です。

うつ状態は、病気の状態像

何もかもが億劫で、気持ちが落ち込んでしまった状態を<うつ状態>といいますが、うつ状態というのは、健康な人にもあることです。うつ状態というのは、様々な病気の状態を示すサインです。

つまり、うつ状態というのは、うつ病だけが独占しているものではなく、様々な精神疾患や身体疾患にあらわれてくる症状です。具体的には、うつ病はもとより、躁うつ病、統合失調症、境界性パーソナリティ障害、自律神経失調症などにもあらわれてきます。重要なことは、うつ状態がどの疾患から発しているかを知ることです。

うつ病以外に見られるうつ状態とは?

うつ病のうつ状態は多岐にわたります。うつ病のうつ状態は、後述するとして、この章では、うつ病以外の様々な疾患にあらわれるうつ状態をチェックしておきます。

適応障害のうつ状態

適応障害にあらわれるうつ状態は、うつ病のうつ状態と瓜二つといえるほどに似ています。たとえば、憂うつで気分が落ち込む、すべてがむなしく思えてきて何となく悲しくなる、やる気がなくなって、全身がけだるいなどなどです。こうした精神症状とは別に、倦怠感、頭痛、食欲不振、睡眠障害など身体的な症状があらわれることも似ています。

しかし、この二つの疾患は似て非なるものです。二つともストレスが発症の大きな要因ですが、適応障害はストレス環境から離れると症状は弱まります。一方、うつ病は、精神的ストレスや身体的ストレスが重なることなどを含む様々な要因によっておこる脳の機能障害です。

統合失調症のうつ状態

統合失調症にも、うつ状態があらわれてきます。統合失調症の症状は、幻覚や妄想があらわれる陽性症状と心身のエネルギーが消耗した陰性症状にわけられますが、うつ状態は陰性症状の時にあらわれます。

双極性障害(躁う鬱病)のうつ状態

双極性障害は、症状が弱まった寛解期をはさんで、躁状態とうつ状態を繰り返す精神疾患です。躁状態の時は、気分が異常かつ持続的に高揚し、開放的で、口数も多くなりますが、うつ状態になると、うつ病に見られるように気分が落ち込み、喜怒哀楽の感情の起伏が乏しくなり、体重の減少、食欲の減退、不眠などの症状があらわれてきます。

自律神経失調症のうつ状態

ストレスによる自律神経の乱れによって発症するのが自律神経失調症です。自律神経失調には、本態性型、神経症型、心身症型、抑うつ型の4つのタイプがありますが、憂うつな気分、やる気が起きないなどのうつ状態があらわれるのは、抑うつ型です。

身体疾患ででるうつ状態

体調不良の時は、どうしても気分が落ち込んで、憂うつな表情になってしまいがちですが、身体的な疾患を抱えていると、様々な疾患でうつ状態に似た症状があらわれてきます。

その代表的なものが、ホルモンバランスの異常による疾患です。女性ホルモンのバランスが崩れたために起る生理不順では、気分が落ち込み、イライラしやすくなります。

うつ状態を引き起こす疾患としては、甲状腺機能低下症がよく知られているところです。甲状腺は甲状腺ホルモンを分泌していますが、この甲状腺ホルモンが少なくなる病気が甲状腺機能低下症です。甲状腺ホルモンは、全身の臓器や細胞の働きを活発にするホルモンで、体の成長・発育を促し、新陳代謝を盛んにし、脳を活性化する働きがあります。

このため、甲状腺ホルモンが不足すると、ホルモンによって活性化されていた各臓器の働きや細胞の代謝が落ち、心身に以下にあげるようなさまざまな不調が現れてきます。

・抑うつ気分
・倦怠感・疲労感
・寒気
・活動性低下
・集中力、記憶力低下
・便秘
・徐脈(脈が遅くなる)
・浮腫(むくみ)

うつ病のサインとは

アメリカの精神医学会が作成した『DSM-Ⅳ-TR 精神疾患の分類と診断の手引』では、以下に示す様な9項目症状のうち、5つ以上の項目が最近2週間以上続いていて、苦痛を感じている、あるいは生活に支障を来している場合に、うつ病と診断されます。

1)ほとんど毎日、1日中ひどく憂うつを感じる。
2)ほとんど毎日、1日中何をやってもつまらないし、喜びというものを感じない。
3)ひどく食欲がないか、逆にひどく食欲があり過ぎる。
4)ひどく眠れないか、逆にひどく眠り過ぎる。
5)イライラして仕方ないか、動きがひどく低下している。
6)ひどく疲れやすく、気力が減退している。
7)自分はダメな人間だ、悪い人間だと自分を責める。
8)思考力が低下し、集中力が減退し、決断力が落ちた状態である。
9)死について繰り返し考え、自殺を口にする。

憂うつでイライラする

うつ病の中核的症状は、抑うつ気分です。抑うつ気分(うつ状態)とは、気分が憂うつ、気持ちが沈む、うっとうしい、悲しい、むなしい、淋しい、などの気分をさします。孤独感、絶望感、不安感、イライラ感、快や喜びといったポジティブな感情の喪失なども抑うつ気分の中に漂っています。

意欲の減退

うつ病では、意欲と気力が減退し、おっくうで、何をやっても面白くないという状態になります。勉強や仕事ばかりではなく、以前、好きだったスポーツや趣味の活動までがおっくうになってきます。

さらに、メールをうったり、テレビを見たり、入浴したり、歯を磨くといったこれまで苦も無くやっていた日常の行動さえも苦痛に感じられるようになります。

疲労感が強くなる

身体症状として、全身倦怠感、疲労感があります。とにかく、体がしんどくて、けだるく、ちょっとしたことで疲れてしまい、疲れがたまってきます。これまでは、休息するととれていた疲れがなかなかとれなくなります。

不眠症があらわれる

不眠は、うつ病の症状の一つです。夜中に何度も目がさめる、時間的には十分眠っているはずなのに熟睡感がない、眠りが浅いなどの不眠症状です。

一方で、いくら眠っても寝たりなくて眠くて仕方がないといった過剰睡眠があらわれることもあります。

能力が低下する

うつ病で生じる思考障害のひとつに、思考抑制と呼ばれるものがあります。考えが前に進まないか、思考の進み方が鈍くなるものです。「頭がうまく回らない」、「考えが浮かんでこない」、「考えがまとまらない」、「集中できない」、「決断ができない」などは、この思考抑制によるものです。

うつ病のもう一つの思考障害は、悲観的思考と呼ばれるものです。悲観的な考えに支配されるばかりか、自分を責め、自罰的な思考に奔るようになります。これが高じると、生きていても意味がないと考え、自殺念慮にとらわれるようになります。

食欲、体重が増減する

身体症状として、食欲不振や吐き気、胃部不快感、便秘などの消化器症状もしばしば現れてきます。抑うつ気分の中で食欲が減退するのは、何となく納得できる症状ですが、これとは逆に過食傾向もみられ、活動が不活発ですから、体重増加となることもあります。

このほか、性欲が低下し、生理不順、頭痛や頭重、めまいやしびれなどの身体症状があらわれてくることもあります。

憂うつ、倦怠感の解消方法

うつ病やうつ状態の主たる原因の一つがストレスですから、ストレスを減らすことが、憂うつな気分や倦怠感を退治する第1歩です。

ストレス発散の方法を確保する

ストレスは、うつ病をはじめとする様々な精神疾患の元凶です。ですから、ストレスにさらされやすい現代社会で健康に暮らすためには、ストレス発散の技法を身に付けることは、欠かせない知恵です。

発散の方法は、人それぞれですが、気のおけない友だちと居酒屋や女子会などで、愚痴をこぼし合って、ストレスを解消することは、多くの人が実行しているストレス解消法です。

カラオケでマイクを握って、シャウトしたりすると、ああ、すっきりした、という気分になって気持ちがほぐれてくることも、多くの人が経験で知っていることです。

落ち込んだ気分のときは、こうした気晴らしは何よりの薬です。適度なお酒も、百薬の長となります。

規則正しい生活を送る

夜更かしや不規則な食生活などは、心身に知らず知らずのうちに負担がかかってしまいます。昔から、健康の基本は、早寝早起きを心がけることだとされています。

早く起きれば、それだけ太陽の光を浴びる時間が長くなります。太陽の光を浴びると、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌がストップして、脳の覚醒を促すセロトニンの分泌が活発化します。実際、日光が出る時間が減る冬場は、うつ状態になる人が多いのは、セロトニンの分泌が少なくなるからだと言われています。

加えて、早寝早起きをすると、食欲もわいてきて、食生活はもとより、生活全般が余裕のある規則正しいリズムになってきます。規則正しい生活のリズムを取り戻すと、気がついたらうつ状態が改善されていたということになるケースが少なくありません。

適度の運動

運動をすると、気分が爽快になり、心地よい疲労感に襲われます。そのことによって、夜の睡眠が深くなるということは、私たちが経験で体感していることです。

では、どんな運動をすればいいのでしょうか。無酸素運動よりも長くゆるめの有酸素運動の方が効果的です。有酸素運動とは、酸素を多く取り入れ、その取り入れた酸素で体内の脂肪を燃焼させるものための運動をさします。エアロビクス、エアロバイク、ウォーキング、ゆっくりした水泳などは有酸素運動です。

無酸素運動とは、基礎代謝を増やす運動で、筋力トレーニング、短距離走などをさします。ただし、有酸素運動でもあまりに長時間やると負担になるので、ほどほどにしておくようにしましょう。

医療機関に相談する

会社の決算月や人事異動の時期、あるいは会社の繁忙期には、体が疲れて、けだるくて、憂うつな気分に落ち込みがちです。しかし、そうした時期が過ぎれば、また元気が回復してきますが、中には落ち込んだ気分が長期にわたり続き、そのことを意識してイライラ感が募るというケースもあります。

自分の憂うつや倦怠感がどこかおかしいと思ったら医療機関に相談するのが賢明です。この際、先に上げた『DSM-Ⅳ-TR』の診断基準は、参考になることでしょう。

早期に医療機関にかかることで悪化をふせげることも

憂うつであることは、病気ではありませんが、うつ病に限らず精神的、身体的な疾患の前兆であることに注意してください。何だかおかしいとと感じたら、医療機関に相談し、適切なアドバイスをうけ、場合によっては治療に取り組むことを考えてください。


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