精神保健福祉士(Psychiatric Social Worker)は、精神障害者とその家族に対して、相談・援助などの社会福祉業務を実行する国家資格の専門職です。PSWと略称されています。
目次
福祉ってなんだろう
社会福祉とは
福祉の「福」は、幸福の福、「祉」も幸せという意味の言葉です。従って、社会福祉とは、高齢者や障害を持つ人が、安心して幸せな暮らしが営めるような制度といってもいいでしょう。精神保健福祉士は、この制度の中で提供される福祉サービスに従事する専門職です。
福祉士には3種類の国家資格がある
福祉サービス従事する福祉士には、以下のような3つの資格があり、精神保健福祉士はその中の一つです。
精神保健福祉士 | 精神障害者が抱える生活問題や社会問題の解決のための援助や社会参加に向けての支援活動を行います。 |
介護福祉士 | 主として介護福祉施設や事業所で福祉サービスに従事します。介護の分野では唯一の国家資格です。 |
社会福祉士 | 身体上もしくは精神上の障害がある人や環境上の理由で日常生活を営むのに支障がある人に対して、福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供します。 |
福祉と介護とはどこが違う
介護とは、体の不自由な人の生活を助け、身の回りの世話をすることです。具体的には、体の機能が衰えた老人や心身の障害によって自分の意思や自分の力で体を動かすことができない人の身の回りの世話をすることが介護です。
これに対して福祉とは、介護も含めて、困っている人や弱者を助ける社会の制度です。福祉の対象は、老人や障害者だけでなく、貧困で困っている人、子ども、病人なども含まれます。
精神保健福祉士は、どこで働くの?
精神保健福祉士の仕事
精神保健福祉士の福祉サービスの対象となるのは、精神障害者とその家族です。精神障害者本人のほか家族に対して、さまざまな相談にのり、アドバイスをします。
また、日常の生活訓練を行っている施設を紹介したり、就職に対するアドバイスなども行います。医療機関で働くことになれば、医師や臨床心理士などと連携した治療チームの一員として、行政機関で各種手続きを行ったり、給付金制度の案内などをします。
医療機関や福祉施設の必置資格
精神保健福祉士は、精神保健福祉センターや保健所、精神障害者福祉施設などに必置資格に準ずる配置となっています。必置資格というのは、ある事業を行う際にその企業や事業所に資格保持者を最低一人、必ず置かなければならないと法律で定められている資格のことです。
例えば、精神科医療機関の場合、作業療法士と同様に診療報酬があり、多くの病院、クリニックで配置されています。
精神科の病院での生活支援
精神保健福祉士の有力の就職先の一つが精神科の医療機関と医療機関併設のデイケアです。メインの仕事は、精神障害者の生活支援です。具体的には、入退院の援助、退院後の生活支援、医療と地域生活の橋渡しをします。
生活支援サービス施設での助言者
障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス等事業所も職場の一つですが、そこでは設置目的によって精神保健福祉士の業務にも幅があります。
日常生活訓練をする事業所では、家事などの具体的な基本動作を障害者と一緒になって行い、助言もします。
就労前訓練や作業を行う目的の施設では、就職活動に関する助言、職場への定着のための支援等を行います。
相談支援事業所や地域活動支援センターなどの地域生活の支援を主目的とする事業所では、電話で様子を訊ねたり、訪問による相談や日常生活にかかわる各種サービスを提供します。また各種情報の発信や居場所提供も行います。
なお、障害者自立支援法、障害者総合支援法の施行により、精神障害者の支援も他の障害や難病と同じサービス提供体系に位置づけられるようになりました。
地方自治体の福祉行政機関でのコーディネーター
行政機関では、法律に基づいた各種支援事業や手続きの実施を行います。また、現状分析や将来を見通した計画立案などにも関与します。
このほか、精神障害者の生活支援のために、関係機関のネットワークを作るコーディネートの役割を担い、就労支援事業、地域移行支援活動、地域住民への普及啓発活動なども行います。
保護観察所の社会復帰調整官として
社会復帰調整官とは、一般職の国家公務員で、罪を犯した精神障害者が円滑に社会復帰できるようサポートするのが仕事です。専門性が求められるところから、採用されるためには精神保健福祉士の資格や、一定の実務経験が必要不可欠です。勤務先は、保護観察所になります。
ちなみに、保護観察所は、法務省の地方支分部局で、犯罪や非行を犯した結果、家庭裁判所の決定により保護観察になった少年や刑務所や少年院から仮釈放になった者、保護観察付の刑執行猶予となった者に対して保護観察を行う機関です。
どうやったらなれるの?
受験資格は得るための様々なコース
精神保健福祉士になるためには、国家試験に合格しなければなりませんが、この試験には受験資格というのがあります。
受験資格を得るための方法には、以下のような4つのコースがありますが、実務経験や一般養成施設に通うことなく、学校で学ぶだけで資格がもらえるのは、①の保健福祉系の4年制大学で、〈指定科目〉を履修したコースです。
2)福祉系の短大で指定科目に履修を修了し、実務を1〜2年経験する。
3)一般の4年制大学を卒業し、一般養成施設に1年以上通学する。
4)一般の短大を卒業し、実務を1〜2年経験し、一般養成施設に1年以上通学する。
参考までに様々なコースをまとめてみました。
高卒で資格を得るには
上記のように大学や短大などに進学する余裕がない場合には、「指定施設での実務を4年経験したあと、一般養成施設等で1年以上学んで受験資格を得る」というコースがあります。
指定施設とは、厚生労働省令で定める施設のことを指しますが、具体的には精神科病院や精神科・心療内科のある病院や診療所、保健所、保健センター、精神保健福祉センターなどです。
養成施設とは?
表でもわかるように、福祉系の4年制大学で、指定科目を履修すれば、養成施設で学ぶことなく受験資格を得ることができますが、その他のコースでは、養成施設(福祉系の専門学校)で学ぶことが必要です。
養成施設には、「一般養成施設」と「短期養成施設」があります。
一般養成施設では、精神保健福祉士として身につけるべき「共通科目」や「専門科目」を学びます。通学制のほかに通信制の学校もあります。通信制の場合はレポート提出やスクーリングも行いながら、カリキュラムの修了を目指します。
●短期養成施設
短期養成施設とは、福祉系の大学や短大などで、「指定科目」ではなく「基礎科目」を2年以上履修した人が、相談援助実務を経験してから6ヵ月以上通う学校です。
社会福祉士は一部試験内容が免除される
社会福祉士の国家資格を持っている場合は、試験内容の一部が免除されます。ちなみに、社会福祉士とは、「ソーシャルワーカー」と呼称される福祉業務全般を行う専門家で、生活に困っている人たちからの相談を受けたり、医療機関や施設との橋渡し役になって問題解決の手助けをします。
合格率は約60%
平成29年1月に実施された精神保健福祉士国家試験には、7,174人が受験し、合格者は4,446人でした。合格率は、62.0 %です。合格者のうち男性の割合が3割、女性が7割となっています。
精神保健福祉士の心構え
精神保健福祉士が向き合うのは、精神に障害を持つ人とその家族の苦しみです。そして、これらの人たちは、社会生活とのかかわりから離れてしまいがちです。
精神保健福祉士は、社会の中に用意されたさまざまな支援の制度を活用して、少しでも幸せに近づくようにガイドする役割を担っています。困っている人をみると、何とかしてあげたいという強い気持ちがあり、そのために専門性磨くという意志があれば、それがこの仕事の適性といえるでしょう。