今回はうつ病とお薬をテーマに、うつ病と診断され治療を受けられている方を想定して書かせていただきます。
前回、統合失調症をテーマとした記事で、精神科の治療は医師による薬物療法を中心に行われるのが一般的だと書かせていただきました。それは、うつ病についても変わりません。うつ病で精神科にかかったときは、症状にもよりますが、やはり治療のためにお薬が処方される場合が多くなります。
症状とお薬の働き方
前回同様、うつ病に使われる薬にはどのようなものがあるのか、処方されたお薬はどのように働くのか、また、そのお薬が精神疾患の症状を改善するのはなぜか等を見てゆきましょう。
うつ病の症状チェック
まずは症状を理解することから始めてみましょう。うつ病の症状には「心」に出るものと、「からだ」に出るものと2種類あります。
(心の症状)
□何をしていても楽しくない
□興味がわかない
□むなしい
□意欲の低下
□悪い方へばかり考えがおよぶ
□イライラがつのる
つらい出来事があったりして、何をしても楽しくないことや、興味が湧かなくなることは誰にでもあることですが、通常は時間が経てば回復してゆきます。そうならずに、「言葉では表現しようがないほどつらい沈んだ気分、または興味・喜びの喪失がほとんど一日中ほぼ毎日、2週間以上続き、仕事や日常生活の困りごとが出てきてしまう状態」になった場合が「うつ病」です。
こうした心の症状だけでなく、以下のような、からだに出る症状もあります。
(身体の症状)
□睡眠障害
□食欲減退
□頭痛
□吐き気
□口渇
□体重減少
□便秘
□下痢
□疲労・倦怠感(だるさ)
□肩の凝りや背中の痛み
□体の痛みやしびれ
□月経異常
こうした症状は人によって異なります。これらのポイントがあてはまるか、あてはまらないかをチェックして、症状に応じてお薬が処方されてゆきます。
病気に対する理解
うつ病の症状がなぜ発生するのか。統合失調症の場合と同様に神経伝達物質が関与していることがわかっており、統合失調症ではドーパミンの過剰が陽性症状を引き起こしたのに対し、うつ病ではセロトニンと呼ばれる物質が不足することで発症するとされています。
セロトニン仮説
セロトニンは、脳内で働く神経伝達物質で、トリプトファンを材料に脳幹で合成されます。脳内のセロトニンが関与する生理機能は多岐にわたりますが、生体リズム・神経内分泌・睡眠・体温調節機能や、気分・感情をコントロールして精神を安定させる働きがあるとされています。
うつ病はこのセロトニンが、ストレス等をきっかけにして不足してしまうことが要因になって、気分や感情のコントロールが効かなくなり、うつ状態になると言われています。
抗うつ薬の働き方
うつ病に処方されるお薬は抗うつ薬と呼ばれています。抗うつ薬は、セロトニンの合成を助けるというよりは、一旦脳内に放出されたセロトニンが細胞内に回収(再取り込み)されることを阻害することで脳内のセロトニン量を回復させて、うつの症状を改善してゆくものが多くなります。
抗うつ薬の種類
抗うつ剤は飲み始めてから効果が出るのに最低でも2週間ほどかかることが多いと言われています。また、抗うつ剤には作用の仕方が異なるいくつかの種類に分かれています。症状に応じて使い分けられますが、ここでは、開発された順に主要なものを以下見てゆきます。
三環系抗うつ薬(TCA)
1950年代に登場した初期のお薬で、セロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害します。うつ病には神経伝達物質のノルアドレナリンも関係しやる気や気力に関わっていると言われています。後に開発されたものよりも便秘、口の渇き、眠気、体重増加等の副作用が強く出やすいのですが、症状に応じて効果を発揮するケースもあるため、現在でも処方されています。
四環系抗うつ薬
このお薬はノルアドレナリンだけに作用します。セロトニンへの働きが無いため、落ち込みや不安に対し効果が弱いとされます。
トラゾドン
セロトニンの再取り込みを阻害します。三環系よりも効果・副作用がマイルドとされていますが、睡眠を深くする効果があり睡眠薬として使われる場合もあります。
選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
三環系のお薬に比べて、副作用が少ないという特徴があります。セロトニンの再取り込みを阻害し、それ以外の神経伝達物質の再取り込みには作用しないよう選択的に働きます。ノルアドレナリンにはほとんど作用しないため、気力や意欲の低下に対する作用は強くありません。
セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
SSRIがセロトニンだけの再取り込みを阻害したのに対し、SNRIはセロトニン、ノルアドレナリンの再取り込みを阻害します。三環系抗うつ薬よりも口の渇き等の副作用が少ないとの特徴があります。
ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)
これまでのお薬とは異なり、再取り込みを阻害して働くのではなく、セロトニンとノルアドレナリンの分泌を促してゆく新しいタイプの効き目の強いお薬です。
薬剤師による疾病・服薬教育
前回、統合失調症について取り上げた際に、病棟の薬剤師が入院患者さんに直接アドバイスする業務についてご説明しましたが、これはうつ病の患者さんについても同じです。
お薬が最適なものになっているかどうか、生活の質の点からも問題がないかどうか確認してゆきます。病気そのものの理解や、決められた通りにきちんお薬を飲むことも重要であり、疾病教育や服薬教育も行います。
また、必要に応じて、生活習慣に関するアドバイスも行いますが、今回は、うつ病に関連の深いアルコール依存について少し触れておきたいと思います。
アルコール依存
うつ病とアルコール依存症は併存する可能性が高いことが分かっていますが、そういう患者さんの場合、薬剤師はうつ病に加えてアルコール依存症に関するアドバイスも行います。
多量飲酒者
1日平均純アルコールで60g以上(ビール中ビン3本、日本酒3合弱、25度焼酎300ml)消費する人を多量飲酒者と呼びます。 多量の飲酒は、臓器障害(肝硬変等)、精神・神経障害等の健康問題だけでなく、離婚、失職、暴力等の社会問題も引き起こします。こうした問題の大半は多量飲酒者によるものと考えられています。
アルコール依存症
アルコール依存には、精神的にも身体的にも依存してしまっている状態を言います。多量飲酒者の依存症リスクが高いのは当然ですが、飲酒量によらず依存症になることがあります。以下のチェックポイントで、どの程度あてはまるか確認してゆきます。
【精神的な依存】
□飲酒への強い願望がある
□泥酔に至るまで多量の飲酒を繰り返してしまう
□すべての関心が飲酒に集中してしまっている
□飲酒によって問題が生じているのにやめられない
【身体的な依存】
□アルコールの摂取をやめると身体機能のバランスが崩れて離脱症状をきたすような身体状態になっている
<離脱症状>
お酒をやめて数時間後
□手指のふるえ
□下痢
□多量の発汗
□不安感
□吐き気
□睡眠障害 等
お酒をやめて2日以内
□けいれん
□意識消失
□幻視 等
繰り返しになりますが、大量の飲酒は、肝臓への負担を増やし肝炎や肝硬変等の肝臓の障害につながることがあります。アルコール依存が判明した場合にビタミン剤が処方されることがあるのは、アルコールを分解する際にビタミンB1が大量に消費される為、それを補うことが目的です。アルコールへの依存が自殺率を高めることもわかっており注意が必要です。
アルコール依存症の治療は、節酒ではなく完全に断酒しなければなりません。また、断酒がうまく行ったとして長期間経過した後でも、たったひと口お酒を飲んだだけで、また以前の状態に戻ってしまうこともあります。完全に断酒してしまうことが必要なのです。
断酒を手助けする方法としては、抗酒薬の服用や、集団精神療法等があります。
抗酒薬を飲んでおくと酒を飲むと悪酔いするので断酒の助けになる、というわけですが、まずは本人の断酒への固い意志が前提です。
集団精神療法では集団内の依存症のメンバー同士の交流を通して、グループダイナミクス
(集団力動)を利用し、自分の行動や感情をみつめることから治療的な変化が生まれると言われています。例えば、アルコホーリクス・アノニマス(AA)は世界で活動している団体ですが、日本でも参加可能です。
まとめ
今回は、うつとお薬について見てきました。人によって様々なうつ症状に合わせて、それに応じたお薬が処方されてゆきます。また、うつ病と併存しやすいアルコール依存症についても書かせていただきました。ご参考にしていただければと思います。
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