1.K-ABCⅡとは
K-ABC-Ⅱ(Kaufman Assessment Battery for Children-Ⅱ:カウフマン式子ども用アセスメントバッテリーⅡ)とは、子どもたちの考え方の特徴や、記憶の仕方について調べることができる検査です。またこの検査は、子どもたちのそうした特徴がどれくらい学習に活かされているか、現在の学習の得意・苦手はどこかといったことを知ることもできるものです。そのためK-ABCⅡの結果は、病院などで学習障害の有無を見る時に大切な資料となります。一方学校では、結果は“ひとりひとりの苦手部分をどうサポートしていくか”といった、日々の学習支援のために活かされます。
K-ABCⅡで測られている知能は、大きく分けて2つあり、認知処理過程と習得度に分けられています。
2.認知処理過程とは
認知処理過程は、神経心理学の研究に基づいており、情報を処理する過程、つまりものの考え方の事です。ものの考え方は大きく分けて、継次処理と同時処理という二つに分けられます。また、日本版K-ABCⅡでは、継次処理と同時処理の他に、計画と学習の尺度を入れて測定されます。
【継次処理尺度】
目や耳からの情報などを1つひとつ順番に順序立てて理解する能力を測定します。
【同時処理尺度】
複数の目で見た情報を1つにまとめたり、まず全体像をつかんだりして理解する能力を測定しています。
【計画尺度】
問題を解決するための自分なりに考えたベストな方法決定や、課題を効率よく計画通りに取り組む能力を測定しています。
【学習尺度】
新しい情報を効率よく学習していき、覚えておく能力を測定しています。
これらの尺度から、得意な考え方や苦手な考え方についての特徴を見ていくことが出来ます。例えば、長期休みの宿題を1つひとつ順序だててコツコツと考えていくのは得意だけど、宿題の全体の量を考えて効率よく宿題をするのが苦手などです。
K-ABCⅡでわかること①
~認知処理の特徴から~
長期休みの宿題を1つひとつ順序だててコツコツと考えていくのは得意だけど、宿題の全体の量を考えて効率よく宿題をするのが苦手・・・
などお子さんの物事のすすめ方のポイントがわかります
3.習得度とは
習得度は、認知処理過程(考え方)を通して、子どもが育っていく中で身に付けた知識や技能の程度のことです。具体的には、語彙、読み、書き、算数といった基礎的学力の全体を示し、それぞれ4つの尺度として、測定しています。
【語彙尺度】
現在身に付いていることばの数や意味の理解がどの程度あるのか測定しています。
【読み尺度】
文字の読みや文章読解がどの程度身に付いているのか測定しています。
【書き尺度】
書字や作文がどの程度身に付いているのか測定しています。
【算数尺度】
計算や文章問題の解答に関する力がどの程度身に付いているのか測定しています。
これらから、検査を受けた子どもがどの程度、力が身に付いているのか、どこでつまずいているのかを理解することが出来ます。
K-ABCⅡでわかること②
~習得度の特徴から~
算数のドリルは素早く終わらせることができる。しかし、漢字書き取りのドリルや音読の宿題に対して、嫌そうに取り組み、集中できず、一人ではどうしてもその日のうちに終わらせることが出来ない・・・
などお子さんの学習の得意な所や苦手な所がわかります。
4.K-ABCⅡを実施する目的
K-ABCⅡは、認知の特徴(考える力)と基礎的な学習の習得度をみる検査です。計画力、記憶力などのほか、読み書き算数の学力の把握や特性を捉えることで、主にこれからの学習支援の計画を立てるために用いられます。このことから、実際に何か疾患や障害を持っていない場合でも、得意不得意を理解することで、現在の学習状況やつまずき、その子に合った学習の仕方を知ることができます。
5.得意不得意の把握
K-ABCⅡの結果から、検査を受けた人の考える力と学習面において、得意な部分と不得意な部分を理解することで、実際の学習において、どのように指導または、支援をすれば本人に分かり易く伝えることができるのか、と言うことが分かります。
6.K-ABCⅡ実施可能条件
対象年齢は、2歳6ヶ月から18歳までです。検査実施にあたり、説明は言葉で行われるため、最低限言葉でやり取りができる能力が必要となります。また、身体が不自由であったり、視覚や聴覚に障害があったりする方には、決められた実施方法では、難しい場合があるため、一部しか能力を測定することが出来ないことがあります。
また、検査を受けた人の体調も検査結果に影響されやすいため、体調不良であったり睡眠不足であった場合は、実施日を変更して実施することがあります。
7.K-ABCⅡ実施にかかる時間
お子さんによって時間に幅はありますが、検査項目が多く認知と習得全て合わせると、3~4時間程度かかります。大変時間がかかり、お子さんが疲れてしまい集中できなくなってしまい本来の力を測定できなくなってしまうことがあるため、二日に分けて実施することも多くあります。
8.K-ABCⅡを活用した具体事例
実際にどのように事例に実施し、支援をしたかについて幾つかご紹介したいと思います。
【小学3年生 Aちゃんの場合】
・相談経緯
小学校ではほとんどの授業についていくことができていましたが、算数の授業だけ集中できずに授業に付いていく事が難しい状況にありました。家庭では、算数の宿題や通常の学習についていけるように、保護者の方が勉強を見ていました。しかし、家族としてもどのように教えればいいのか手詰まりになってしまいました。そこで教育相談にアドバイスを求め、K-ABCⅡの実施をすることになりました。
・K-ABCⅡの結果と分かったこと
認知処理過程の考える力については全体的な数値に問題はなく、周囲の状況を把握して“以前はこうなっていたから次はこうなる”と言った見通しを立てることが得意であるということが分かりました。一方で学習に関する結果では、三桁以上の足し算の筆算で位がずれてしまうことや、文章問題を解くときに、四則演算で何を使うのかわからないというつまずきが見られ、学習障害が疑われました。
・支援方法
保護者の方は検査結果を用いてどこでつまずいているのかを学校に情報提供し、実際の授業場面ではどのように支援をすれば良いか学校に伝えました。また、本人のノートの取り方の工夫として、筆算をするときに、どこに何を書けばいいのか、位がずれないように色分けをしたり、升目を区切ったりするようにしました。
また、文章問題の解き方については、特別支援クラスも活用して、少しずつ学習していくこととしました。
・支援した結果
Aちゃんは算数の授業中に、以前よりも集中して取り組むことができるようになりました。また、段々と自分で筆算をするときに、工夫をするようになり、算数への苦手意識も少なくなっていきました。
【中学2年生 B君の場合】
・相談経緯
体育や工作の授業についてはよく集中し自ら進んで取り組むことができています。しかし、国語や算数などでは、授業に集中できず友達とおしゃべりをしてしまったり、宿題を提出することができずにいたりして、学校では毎日怒られていました。学校からも家庭に連絡が行き、家庭としてはどうすればいいのか分からない状況で、専門機関に相談したことで、K-ABCⅡを実施することになりました。
・K-ABCⅡ結果から分かったこと
認知処理過程の考える力については、全体的に数値としては問題なく、耳で聞いたことを覚えておくことや、何か分からないことがあれば周囲を見て模倣することが得意ということが分かりました。一方で学習については、漢字を読むことが苦手で、習得度は小学3年生程度であるという結果となりました。このことから、授業中に文章を読むときに、漢字が読めないために文章を理解することが出来ずにいることが分かりました。
・支援方法
検査結果から、授業で使う文章については可能な範囲で事前に振り仮名を振っておくことにしました。また、電子機器も使いその都度漢字を調べられるような合理的配慮が行われるように、専門家から学校にも情報提供をしました。
・支援した結果
授業中に何を読んでいるのか、また何が書いてあるのか理解できるようになったため、授業に集中して取り組むことが出来るようになりました。また、宿題についても段々と自発的に取り組む姿が見られるようになりました。
K-ABCⅡを実施することで、お子さんの特徴を捉え、学習支援に活かすことが重要となります。
参考・引用文献
Kaufman,A.S.,& Kaufman,N.L.(2004a).Kaufman Brief Intelligence Test(2nd ed.).CirclePines,MN:AGS(日本版K-ABCⅡ制作委員会(訳)(2013). 「日本版K-ABCⅡマニュアル」. 丸善出版株式会社
一般財団法人特別支援教育士資格認定協会(2012).「特別支援教育の理論と実践[第二版]」.金剛出版
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